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[イギョラ杯]特別な左足を持つナンバー10。甲府U-18MF氏原幹太は一振りで空気を変えられるレフティへ

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ヴァンフォーレ甲府U-18の10番を背負うMF氏原幹太

[3.20 イギョラ杯 桐光学園高 1-2 甲府U-18 帝京北千住G]

 特別な才の宿った左足の威力は、おそらく誰もが認めている。あとはそれを、適切なタイミングで、適切に使い切れるか。だが、そんなことは、きっと本人が一番よく分かっている。

「スペースをうまく見つけることと、味方を上手く使えるところ、シュートとドリブル、攻撃の面は全部特徴だと思っていて、個人でも点をたくさん獲って、チームが苦しい時でも自分が引っ張っていけるように、そういうところも意識してやっていきたいと思います」。

 一振りで試合に流れる空気をグサリと切り裂くことのできる、甲州育ちのレフティ。ヴァンフォーレ甲府U-18(山梨)のナンバー10、MF氏原幹太(2年=ヴァンフォーレ甲府U-15出身)のさらなる成長は、チームの躍進にとって大きな推進力になる。

「キーパーの位置と目線を見ていて、『狙えるな』と思って蹴りました」。25メートル近い距離から直接枠内へ打ち込んだキックは、飛び付いたGKも弾き切れずにゴールネットへ吸い込まれた。近畿朝高選抜と対峙した一戦。1点をリードした前半17分に、甲府U-18が獲得したFK。スポットに立った氏原は、得意の左足できっちりと結果を引き寄せる。

さらに20分には、CKからDF田中大夢(2年)のゴールをアシスト。以降も「ゴールに直結するプレーを意識していたので、相手がどういう流れで立ち位置を取っているかを見ながら、空いているスペースをうまく見つけられるようにイメージを作っていました」と右サイドの位置で、チャンスメイクに奔走する。

ボールの持ち方にもこだわりがある。「まずトラップをしっかり左足の下に置くようにしていますね。そうすれば自分の足で自在に扱えるので。あとはドリブルでも自分の真下に置くことで、足を出されたら抜けますし、抜かなくても顔を上げられるので、それは意識しています」。最優先は自信のある左足で、どう丁寧にボールを扱うか。この志向は徹底している。結局、試合は6-0で快勝。氏原の持ち味が存分に発揮された一戦だったと言っていいだろう。

ヴァンフォーレにはU-12から在籍しており、2016年にはチームメイトとともに挑んだ「ダノンネーションズカップ2016 in フランス」で世界準優勝に輝いている。当時のメンバーも数多く残っている今のチームには、強い愛着と確かな自信を感じている。

「身体能力や身長は高くないですけど、1人1人が上手くて、特徴も分かっているので、それを生かしてできますし、流れが悪くなっても自分たちのやるべきことがしっかりわかっているので、まとまっているチームだと思います。もともと強い代と言われているからではないですけど、そういう評価に負けないように、名前だけではなくてしっかり勝てるようにというのは、みんな意識していると思いますね。仲も良いですよ」。

そのメンバーの中から、既にストライカーのFW内藤大和はトップチームでJリーグデビュー済み。氏原も刺激を受けていないはずがない。「大和は目標というか、『自分もそこを目指さないとな』という想いはあります。どちらかと言うとトップで試合に出るためのライバルですかね」。目標というより、ライバル。負けず嫌いな性格が透けて見える。

「小瀬には幼稚園の頃から試合を見に行っていて、ハーフナー・マイク選手は高さがあって、1人で試合を壊してしまえるところがカッコいいなと思って、憧れていました。小さい頃からヴァンフォーレは目標でしたし、ヴァンフォーレのサッカーを見て『楽しいな』『やってみたいな』と思ったので、自分もそういう気持ちを与えられるような選手になりたいと思います」。そのためには、アカデミーラストイヤーとなる2022年は勝負の年。上手い選手のその先へ。自己分析もきっちりできている。

「まずは守備の面で切り替えをしっかりすることと、球際で負けないことで、それはプロでも基礎になると思うので、そこはベースにしながら、試合の中でスペースを見つけて、相手を見ることで、どの試合でも自分の武器のシュート、ドリブル、パスをしっかり使えるように考えています」。

この日の2試合目となった桐光学園高(神奈川)戦ではスタメンを外れたものの、後半に途中出場を果たすと、登場から5分後に左足で叩いたボレーが見事にゴールネットを揺らし、決勝ゴールをマーク。一躍ヒーローの座をさらっていく。その姿は「良い番号なので、チームの一番の中心になって頑張っていきたいと思います」と自ら触れた“10番”にふさわしい、試合を決められる男のそれだった。

間違いなく星は持っている。あとはそれを、どんなシーンで、どんな形でより輝かせていくか。だが、そんなことも、きっと本人が一番よく分かっている。

(取材・文 土屋雅史)

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