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ようやく剥がれてきた“山田の仮面”。青森山田は苦しみながらも県22連覇達成で夏の全国連覇の挑戦権獲得!

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県内22連覇を達成した青森山田高は夏の全国連覇に挑む!

[6.6 インターハイ青森県予選決勝 青森山田高 3-0 八戸学院野辺地西高 カクヒログループアスレチックスタジアム]

 いかに絶対王者だといっても、プレッシャーが掛からないはずがない。積み上げてきた連勝が、積み重ねてきた優勝が続けば続くほど、それはさらなる重量を持って、彼らの足を縛り付ける要因となっていく。それでも、勝って当たり前であり、1つの負けも許されない。この高校でプレーするということは、すなわちそういうことなのだ。

「2000年代に入ってから県内で1回も負けていないという、22年間の先輩たちの積み上げをここでふいにするわけにはいかないというプレッシャーも背負っているわけで、県の公式戦はそれぐらい我々にとって重みのあるもので、普通の高校生が勝った負けたで処理していいものではないというぐらいの自覚を、彼らにプレッシャーとして与えながらやっているので、『気持ちで絶対に負けない』『絶対に走り負けない』『最後の勝負どころで絶対に負けない』という、その気持ちが相手より上回ってやれているかなとは思います」(青森山田・黒田剛監督)。

 苦しみながらも、終わってみれば意地の県22連覇を達成。令和4年度全国高校総体(インターハイ)「躍動の青い力 四国総体 2022」男子サッカー競技青森県予選決勝が6日に行われ、前回大会の全国王者・青森山田高八戸学院野辺地西高の奮戦に遭いながらも、後半の飲水タイム以降に奪った3つの得点で3-0と勝利し、全国切符を手にしている。

 最初の決定機は八戸学院野辺地西。前半2分。相手守備陣の連係ミスを突き、ボールを拾ったMF村上琳星(3年)がフィニッシュ。軌道はわずかに枠の左へ外れたものの、「もちろん相手をリスペクトしていますけど、『全国優勝したのは去年のチームで、今年はまだ何も成し遂げていないチームだから、同じ高校生だぞ』というメンタル的なところをミーティングでも話して、今日のゲームに臨みました」という三上晃監督の思惑を体現するかのような形で、ゲームを立ち上げる。

 一方の青森山田は6分、MF小栁一斗(3年)の右クロスから、MF川原良介(2年)が合わせたボレーは、八戸学院野辺地西のGK西野春徹(3年)が丁寧にキャッチ。13分にDF渡邊来依(3年)が入れたロングスローから、ここも川原が枠に収めたシュートは、再び西野がファインセーブ。以降はキャプテンマークを巻いたFW小湊絆(3年)も「正直自分もやりながら『大丈夫かな?』という感じでした」と明かした通り、イージーミスも多く、明確な攻撃の形を作れない。

「まずは『前半の飲水まで失点ゼロで行こう』と話していて、実際にゼロにもできましたし、チャンスも何個か作れていたので、やれるなというのは前半で思いました」とは八戸学院野辺地西のキャプテンマークを託されたDF布施颯大(3年)。後方は5バック気味にスペースを埋めつつ、中盤のセカンドボールも村上やFW金津力輝(3年)が丁寧に回収し、前線に入った185センチの長身を誇るDF登録の鳥谷部塁(3年)を使うアタックを徹底。スコアこそ0-0だったが、ピッチ上には八戸学院野辺地西の“やれる空気感”が醸成された格好で、前半の35分間は終了した。

 ただ、常勝軍団の指揮官にとって、この展開は織り込み済みだった。「先制されると後半はかなりきつくなるので、想定には0-0も含めて入れながら、後半に自分たちでもう1回流れを掴んでというプランを立てていました」(黒田監督)。後半も立ち上がりは八戸学院野辺地西が勢いを持って入ったが、「自分たちを信じてやれることをやるだけでした」という渡邊の言葉は、チームの共通認識。その時間帯を無失点でやり過ごした青森山田は、ジワジワとゲームの主導権を掌握していく。

 後半23分。『伝家の宝刀』が牙を剝く。左サイドで手にしたスローイン。後半から投入されたMF奈良岡健心(3年)の“一投”に小湊が競り勝つと、最後にプッシュしたのはDF小泉佳絃(2年)。プレミアリーグでの連敗を5でストップした流通経済大柏高戦でも、決勝点を挙げている2年生が、この日も貴重な一撃。青森山田がようやく先制点を強奪する。

 耐えてきた中での失点。それでも、渡邊が「相手が折れた感じはなかったですし、もっとやる気を出してきた感じはありました」と振り返ったように、八戸学院野辺地西は折れない。「相手も1点獲っただけでは、冷静にできていなかったと思います」とは布施。金津や途中出場のMF田中真翔(3年)、MF千葉龍磨(2年)を筆頭にしたアタッカー陣は攻める姿勢を打ち出し続ける。

 試合を決めたのは、悩めるエースの輝き。35分。青森山田は左サイドへの展開から、MF櫻井廉(3年)のパスを受けた川原がクロス。ここへ全力で走り込んできた小湊のシュートが、ゴールネットへと到達する。「メッチャ嬉しかったです」と笑顔を見せた10番が、実にプレミア開幕戦以来となる久々のゴールをマークすると、さらに35+2分には奈良岡も追加点を叩き出す。

 ファイナルスコアは3-0。「本当に0-0でのPK戦も、ぐらいの覚悟で来たので、良かったなと思います。正直ホッとしました」と黒田監督も安堵の表情を見せた青森山田が、2000年から続くインターハイ予選の県内タイトルをきっちり“防衛”。連覇の数字を22へと伸ばす結果となった。

 前述したように、青森山田は4月から5月にかけて、プレミアリーグで5連敗を喫している。当然、周囲の声が彼らの耳に入ってこないはずがない。ただでさえ、高校年代三冠を達成した次の世代。想像し得ないような重圧の中で、彼らはとにかくもがいていた。

 背水の陣で臨んだホームゲーム。5月28日の流通経済大柏戦で、ようやくチームは結果を出す。「今までベンチ外の選手があまり一体感を持てていなかったんですけど、ホームゲームでもあったので、ベンチ外のメンバーも全員で戦って、そこで勝つことができてインハイに繋げられたというのが、今回の優勝の大きな要因だと思います」と話したのは小湊。そこで改めて共有されたのは、ピッチでもピッチ外でも、自分のやるべきことに、それぞれが全力で向き合おうというポジティブな“決意”だった。

「今年のチームはそこまでスキル的に高いわけではないし、やれることが去年のチームほど多くないので、キチッとやれることだけをしっかりやろうということです。やれもしないのに、リスクを負うようなことはやらないと。本当にチャレンジアンドカバーだったり、1対1の間合いだったり、まずはそういう基本的なことをきっちりやろうということから始めたので、去年みたいな華麗なシュートはないけれども、こういう形で泥臭く行くのが今年のサッカーだなと。こういう年があってもいいのかなとは思います」と語った指揮官は、こう言葉を続ける。

「やっぱり目の前の一戦に勝つこと。それしかない。謙虚にね。“山田の仮面”だけかぶって、いい加減なことをやるなということかな」。

 良い意味でようやく剝がれてきた“山田の仮面”。剥き出しになりつつある今年の青森山田の本性が、まだまだおぼろげではありながら、少しずつその力強い顔を覗かせ始めている。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

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