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[全日本女子選手権]INAC神戸、創設10年目で初載冠。川澄「記念の年にタイトルを取れて嬉しい」

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[1.1 全日本女子選手権決勝 INAC神戸1-1(PK3-2)浦和 国立]
 悲願が叶った。INAC神戸レオネッサが、なでしこリーグの2大勢力の一つ、浦和レッズレディースをPK戦の末に下して初優勝をつかんだ。同時にこれがクラブ史上初タイトル。聖地のピッチで見せた選手の笑顔は、まばゆい新春の太陽を受けて一層、輝きを増していた。
 「チームが今年で10周年なんですが、記念の年にタイトルを取れて嬉しいです。自信にもなります。でもこのタイトルは、今までINACに携わってきた人に支えられてのタイトルだと思います」
 2001年11月にチームが創設され、今年で10周年を迎える中での悲願達成だった。チームの中心的選手で、なでしこジャパンのメンバーでもあるFW川澄奈穂美が嬉しそうに明かしてくれたが、勝利の立役者の一人は彼女だった。前半7分、FKに飛び込み頭を合わせて貴重な先制点をもたらした。そしてPK戦のキッカーも最後の5番目を務め、きっちりと決めて勝利に導いた。
 「PKが決まった時、笛が鳴らなかったので『あれ、勝ったんだよな』と思いました。ヘディング? ヘディングは苦手なんです。ほんとラッキーでした。飛びに行ったらいけたので、触っとこうと思って。そしたら入ってくれました。周りの選手のおかげです」と川澄。スピードとドリブル突破が武器のストライカーで、身長157cmと決して大柄ではないが、競り勝ってゴールを奪った。リーグ戦の得点王は逃したが、2010年のベストイレブン獲得。さすがの実力を大一番で示した。
 日テレ・ベレーザ、浦和レッズの牙城を崩した意味でも、このタイトルは大きい。川澄をはじめ、近年はまずまずのタレントを輩出していたINAC神戸だが、どうしても2強には届かなかった。この大会でいえば、日テレが3連覇中で、浦和は2年連続の決勝だった。INAC神戸は平成21年の第30回大会決勝で日テレに完敗した過去がある。リーグ戦も2年連続4位と、2強に追いつけなかった。
 昨年11月、日テレ・ベレーザを退団したばかりの星川敬氏を監督に迎えたが、これが一つの転機となった。「外から見ていて思ったのは、素材はいい選手がいるのに、自信がない感じだった。実際に指導しても、そうだった。『ベレーザの方がうまい』とか『自分たちでは……』という感じだった。だから『もっと自信を持っていいぞ』ということを何度も言いました」と星川監督は明かす。
 呪文のように言い続けた「自信を持て」という言葉が、わずか2カ月で擦り込まれ、メンタル的に強くなったという。日テレ・ベレーザという女子サッカー界の頂点に立つクラブを、最近まで率いていた指揮官の言葉だけに、選手たちも重くかつ素直に聞けた。川澄は「練習は厳しいんですけど、選手たちをすごく信じてくれた。『あっ、自分たちは出来るかも』と思えるようになった」と変化があったことを教えてくれた。
 自信を持った選手は、さらに強くなった。川澄ら速くて上手い選手が多かったため、ショートカウンターが得意だったが、そこに星川監督が日テレ時代に教え込んだポゼッションサッカーを植え付けた。男子高校生との練習試合も重ね、ハードな運動量も見に付けた。この日も浦和を相手に、ショートカウンターとショートパスを上手く織り交ぜ主導権を握り続けた。“心身”ともに強くなったのだ。
 「来季は追われる立場、こっちが挑戦を受ける立場になる。ベレーザが目標? おなじサッカーをするつもりはない。このチームにはこのチームの良さがあるので、活かしながらポゼッションサッカーをしていきたい。そして(勝つだけでなく)なでしこジャパンにたくさんの選手を送り込めるように指導していきたい」と星川監督はさらなる高みを見据えた。
 今年はなでしこジャパンの一員としてもW杯でも期待される川澄は「優勝できて本当にうれしいけど、ベレーザを倒してタイトルを取ったわけではないということは、まだ先があるのかなと思う。リーグ戦でも勝てるようにしたい。個人的には、もっとチームの核になって、みんなの支えになれるような選手になりたい」。今大会は日テレが早々に敗れたため、日テレ撃破→日本一の目標を掲げた。
 もともと備えていた才能に、自信も見に付ければ鬼に金棒か。INAC神戸レオネッサのレオネッサとは、イタリア語で『雌のライオン』を意味する。これまで女子サッカー界のクイーンは日テレ・ベレーザだったが、INAC神戸はさらに成長してチーム名の通り、女子サッカー界の“ライオンクイーン”に君臨する。
[写真]歓喜の神戸イレブン。才能に自信が加わり、悲願のタイトルをつかんだ
(取材・文 近藤安弘)

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