beacon

[選手権]大分が歴史的10-0勝利! シュート40本で現行首都圏開催初の二桁得失点差

このエントリーをはてなブックマークに追加

[12.31 全国高校選手権1回戦 北陸0-10大分 NACK]

 大分が歴史を作った。第90回全国高校サッカー選手権は31日に各地で1回戦2日目を行い、埼玉のNACK5スタジアム大宮の第2試合では、20年ぶり3回目出場の北陸(福井)と7年ぶり7回目の大分(大分)が対戦した。大分は3トップを中心とした攻撃陣がシュート40本を放つなど大爆発。FW岡部啓生(2年)がハットトリックを達成させるなど10-0という歴史的スコアで2回戦に駒を進めた。

 前半で4得点、後半で6得点。電光掲示板に「10-0」のスコアが刻まれた。公式記録を見れば、北陸より36本多い40本を放っていた。二桁得点は一昨年度の第88回大会で、神村学園(鹿児島)が2回戦の中京大中京(愛知)戦で10-2を記録しているが、二桁得失点差は1975(昭和50)年度第54回大会の広島県工(広島)vs巻(北越)10-0以来の36年ぶり。1976(昭和51)年度第55回大会から現行の首都圏開催になってからは初の快挙となった。

 韓国のユース代表の経歴を持ち、今年で就任18年目を迎える朴英雄監督は「3、4点取れればいいと思っていたけど……。相手の監督では同い年なのですが、申し訳ない感じです」とコメントしつつも「これは“フリーマンサッカー”。ボールを保持している選手ではなく、ボールを持っていない選手、ボールのないサイドの選手に仕事が多い。とにかく時間をかけないで攻める。多分、高校ではうちしかやっていないサッカー。見てて面白いでしょ」と胸を張った。

 “フリーマンサッカー”とは何か。大分のシステムは4-3-3で、中盤は逆三角形のいわゆる“バルサ流”布陣だが、やっているサッカーは“アヤックス流”に近い。中盤でボールを奪うと前線の3人が一気に両サイドや中央のスペースを見つけて走り出す。これに2列目の攻撃的MFが続く。長身FWがいないため、ポジションに決まりはない。常に3、4人がピッチの中にあるスペースを探して走り、DFラインの裏を狙っていく。

「奪って、預けて1、2と展開してからではなく、トントンと(前へボール)入れる。手数をかけないんです」という朴監督。ボールのない選手の動きの質が鍵となるため、指揮官は“フリーマンサッカー”と名付けた形だ。朴監督は7年ほど前、Jリーグ・大分トリニータの社長だった溝畑宏氏の紹介でオランダの名門アヤックスを訪問。そこで、オランダ流の3-3-3-1システムを学んだ。同時に、マンチェスター・Uにも出向き、ファーガソン監督からも教えを受けたが、アヤックス流が合うと判断。ここまで指導を続けてきたという。

 近年は足の速い選手が揃わなかったため、アヤックス流は封印していたが、今のチームはこの日2得点したFW武生秀人(3年)や3得点した岡部らの3トップのほか、MF佐保昴兵衛(3年)の中盤の選手も含めて「6人ほど100mを12秒台で走れる選手がいる。ほんと陸上選手にしたほうがいいくらいの選手たち」(朴監督)が揃ったため、徹底的に叩き込んだ。

 カウンターサッカーとも言えなくはないが、後ろに引いて守ってからスタートするのではなく、高い位置から積極的にプレスを掛けて奪い、仕掛ける。それも、躊躇することなく、4、5人が絡んで前に走る。練習から徹底しており、とにかく選手の思い切りがいい。ドリブルもできるため、仮に守備側の選手に追いつかれてもサイドで仕掛けてクロスや、交わしてシュートの選択肢もある。この日の北陸戦でも、その形が存分に発揮された。

 前半18分のFW武生秀人(3年)の先制点は、浮き球パスから縦に抜け出したもの。3-0とする武生のゴールも左サイドのスペースに走り込んで、パスを受けて決めた。後半28分の岡部のゴールも、右サイドの縦パスに走り抜けてGKとの1対1から流し込んだ。セットプレーのこぼれ球を押し込む得点も3点ほどあったが、多くのゴール、シュートチャンスがスピーディーな攻撃からだった。選手たちは「楽しいサッカーができている」と口を揃えた。

 ただ、公式記録に記された戦評に「北陸側は、個の対応に課題があり、簡単に大分の突破を許してしまった。大勝した大分ではあるが、油断することなく、次戦に向けて気を引き締めてもらいたい」とあったように、相手の守備が脆かったことも一因にある。2回戦の相手は那覇西(沖縄)を5-0で下した難敵・浦和東(埼玉)で、それも会場は“アウェー”と言える埼玉スタジアムとなる。

「今年は相手がどこだろうと、こういうサッカーがやれている。うちだけのオリジナル。大学生相手の練習試合でも勝てるようになったんです」と朴監督は選手たちの力を信じている。目標は2001年度のベスト8を上回るベスト4。つまり、国立だ。ハットトリックを達成した岡部も「次も勝って(準決勝以降の会場の)国立まで行きたい」と気合十分。異色の攻撃サッカーで快進撃を果たす。

[写真]大分が歴史的大勝で2回戦へ
(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 近藤安弘)

▼関連リンク
【特設】高校選手権2011

TOP