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[選手権予選]「泥臭く勝つ」、全国レベルで厳しさ知ったタレント軍団・大津が4強進出:熊本

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[11.2 全国高校選手権熊本県予選準々決勝 鹿本0-1大津 熊本県民総合運動公園スポーツ広場]

 第92回全国高校サッカー選手権熊本県予選は2日、準々決勝を行い、高校年代最高峰のリーグ戦である高円宮杯プレミアリーグWEST参戦中の大津が鹿本に1-0で勝利。2年連続の全国大会出場へ一歩前進した。

 27日の4回戦は矢部中で全国中学校大会へ出場したメンバー中心の矢部に1-0で勝利。そしてこの日は総体予選準決勝で対戦している実力派・鹿本を再び1-0で下した。平岡和徳監督は「まだ硬さがある。ここまでは『勝たなきゃ』というプレッシャーや、『大津は違うリーグでやっている』とか周りからのストレスもあるかもしれませんけど、だんだん表情自体は良くなってきました」と分析したが、熊本の“横綱”は相手に力を発揮されてもしっかりと準決勝への切符を手に入れた。
 
 立ち上がりからボールをキープする大津だが、持ち味のショートパスにこだわるのではなく、ロングボールを交えた攻撃で鹿本ディフェンス陣をゆさぶる。そしてポゼッションからの素早いサイドチェンジで攻撃のスイッチを入れると、局面をダイレクトのパスワークで崩しにかかった。また指揮官が「ボールの持ち方が“変態”ですよね」と笑うU-17日本代表候補の183cmFW山本宗太朗やU-17日本代表FW野口航主将(ともに3年)が意外性十分のボールタッチや身のこなしでDFを外すなど攻撃力を示していく。

 ただ、重本浩光監督が「力は大津がある。でもトーナメント戦は違うな、というところを見せようというのがあった」と話す鹿本はサイドまでボールを運ばれてもMF富崎玄貴主将(3年)らがラストパスを懸命にクリア。好守に支えられたチームは右サイドで頭脳的なプレーとスピードを見せるMF笹原祥吾や高精度の左足が武器のFW葉室翔大(ともに3年)、そしてアイディアのあるプレーでチャンスメークしたMF徳永祐哉(2年)を軸に反撃する。12分にはMF高塚祐也(3年)が中盤を突破すると、笹原の右クロスをFW稲葉悠真(2年)が頭で合わせ、17分にも徳永のループパスから笹原が決定的なクロスを放り込んだ。そして36分にはスペースへ飛び出した笹原が左足を振りぬく。

 鹿本は好守とカウンターの切れ味を十分に示していた。ただ大津は九州屈指の守護神、GK上村侑大(3年)が「準々決勝なので簡単には勝てない相手が来る。心構えはしていた。プレミアリーグで相手が強い中で試合をしてきて、攻撃がつくれない試合もあったので、そこは点が入らなくても後ろがちゃんと守って、ひとつのチャンスを活かしてもらえればと思っていた」と振り返ったように、まずは失点しないことを重視。その中で個々の力を発揮して攻めると、25分には右サイドでDFを振り切った山本の折り返しを野口が右足ダイレクトで合わせ、41分には右CKの折り返しからCB池田祐樹(3年)が決定的なヘディングシュートを放つ。

 そして迎えた後半9分、大津がスコアを動かす。右中間でボールを収めた山本がDF間のギャップを突くスルーパス。これに走りこんだ右SB金澤卓巳(3年)がGKとDFの間へラストパスを入れると、野口が右足でゴールヘ押し込んで待望の先制点を奪った。こうなると、流れは自力で勝る大津に傾く。山本と野口のコンビに両SBや2年生4人で構築された中盤が絡んでゴール前へ押し寄せる回数を増加。1点差を維持して望みをつなぐ鹿本も24分に稲葉の右足シュートがゴールポストをかすめるなどチャンスをつくったが、最後まで安定していた大津が1点を守って4強入りを決めた。

 大津はMF谷口彰悟(現筑波大、川崎F内定)やGK藤嶋栄介(現福岡大、鳥栖内定)、GK圍謙太朗(現桃山学院大、F東京内定)、FW松本大輝(現法政大、甲府内定)ら現在の大学4年生の5人以上がJリーグへ進む模様。県立高校ながら育成面で驚くべき成果を挙げているが、今年のチームも野口、山本、上村をはじめタレントは全国レベルにある。彼らが初挑戦で現在9位のプレミアリーグWESTや流通経済大柏(千葉)に1-4で屈した全国高校総体での悔しい思いをバネに成長を遂げている。野口は「流経の選手と自分たちと何が一番違ったかというと、ルーズボールへの反応や球際の厳しさだったり、ボールに対する執念。そういうところがあの点差になったと試合が終わった時に感じました。少しずつ良くなってきましたけれど、まだ成熟できていないところがあるので、準決勝へ向けていい準備をしていきたいと思います」と口にする。

 ダイレクトパスの鮮やかなスタイルだけでなく、泥臭く身体を張って守り、僅差でも勝ち上がっていくことが大事。「自分たちは決して強くない」ということを実感したプレミアリーグでは、「弱いからこそ前からという意識」(山本)という前線からのディフェンスで広島ユースや名古屋U18、CK大阪U-18から勝ち点を奪った。まだまだ求めているものにはたどり着いていないものの、タレントたちは要所で厳しさを発揮して相手を上回ることができ始めている。山本は「前から掲げているように全国制覇を目標にやっている。全て華麗に攻めるとかはできないんで、泥臭さとかが必要になる。華麗に勝つんじゃなくて泥臭く勝つ」。打倒・大津を掲げて挑んでくるライバルたちを僅差でもねじ伏せて、まずは熊本のタイトルを守る。

(取材・文 吉田太郎)
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