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[選手権予選]伝統校復権へ一歩ずつ階段上る帝京、昨年の悪夢振り払う勝利:東京B

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[9.19 全国高校選手権東京都Bブロック予選2回戦 東海大菅生高 1-2 帝京高 駒沢補助]

 19日、第94回全国高校サッカー選手権東京都Bブロック予選2回戦4試合が行われ、東海大菅生高帝京高との一戦は帝京が2-1で勝利。帝京は10月17日の準々決勝で都立勢の松が谷高と戦う。

 戦後最多タイとなる全国高校選手権優勝6回の伝統校、帝京が1年前に悪夢の初戦敗退を喫したピッチで白星をもぎ取った。立ち上がりからオープンスペースを突く攻撃を見せる帝京は前半7分、右サイドからグラウンダーのクロスがファーサイドに達し、MF平井寛大が左足シュート。21分には右サイドを力強い突破で打開したMF長倉昂哉主将のスルーパスからFW桑島健太が右足を振り抜く。一方、3回目の全国大会出場を目指す東海大菅生は徐々にボールを持つ時間を増やすと、17分には左後方からのFKのこぼれに反応したCB倉澤巧が右足シュート。これは左ポストをかすめて外れたが、東海大菅生はサイドを活用したコンビネーションで帝京の守りを崩しにかかると、21分にも10番MF小岩井亮のギャップを突くパスに角度をつけてPAへ飛び込んできたFW小峰拓海がDFを振り切って決定的なクロスを入れた。

 よりリズムの良い攻撃を見せていたのは東海大菅生の方。だが、帝京が先に歓喜をもたらす。27分、左サイド後方からのFKを平井が放り込むと、DFのクリアボールを引っ掛けた長倉が右足シュートをねじ込む。一瞬歓喜の輪が広がったが、すぐに長倉の「落ち着け、落ち着け」という声の中、冷静に試合を再開した帝京は終了間際にもMF浅見颯人がフリーでヘディングシュート。これは枠を外れたものの、前半を1-0で折り返す。そして後半開始直後、帝京は厳しいチェックで相手にPAへのバックパスを選択させると、GKのキックを桑島がチャージ。ゴール方向に転がったボールがゆっくりとゴールラインを越えて2-0となった。

 笑顔で右手を突き上げた背番号7に帝京の青いユニフォームが駆け寄り、祝福する。だが、2点差となってもベンチから「まだまだ時間はあるぞ」という励ましの声を受ける東海大菅生は、ゆっくりとボールをつなぎながら帝京陣内へ攻め込み、幾度も押し返されながらPAまでそれを運んでいく。14分には右スローインから間髪入れずに交代出場MF三平涼平が左足シュート。直後にも左サイドでDFを外したMF大関倖弥がワンツーで縦へ持ち込んでから入れたクロスを三平が頭で合わせる。帝京はスピードのある10番DF鈴木啓太郎やDF河野翔太の高さ、DF吉田一貴のカバーリングなどを活かして食い止め、逆に長倉の右クロスからFW中瀬大夢がヘディングシュートを放つシーンもつくった。

 だが東海大菅生は33分、小岩井がスーパーミドルをゴール左上隅へ叩き込んで1点差。敵陣中央で仁王立ちして雄たけびを上げる小岩井に鼓舞された東海大菅生の攻撃、応援席の声も勢いを増す。だが、帝京はここで決定機をつくらせない。東海大菅生も40分に倉澤が右足ミドルを放ったが、11人が交代なしで走り切った帝京が1点差勝利で準々決勝へ駒を進めた。

 この日試合が行われた駒沢オリンピック公園総合運動場補助競技場は昨年、帝京が初戦敗退を喫した場所だ。2点をリードしながら、日本学園高に追いつかれ、PK戦で敗れた。この日もその時と同じ初戦、そして2点リードの状況。1点を返された際には「少し頭をよぎった部分があった」と長倉は明かしたが、「全員で声出して守り切りました。みんな辛かったと思うんですけど夏に比べればみんな走れると思っていたので全員で走り切りました」とやり切った勝利にホッとした表情を見せた。

 帝京の日比威監督は同校が91年度全国高校選手権で優勝した時の主将。ヘッドコーチを経て昨年から指揮を執るOB監督は、かつて全国からストロングポイントを持った選手、FWからDFに転向しても違いをつくり出すような選手たちが帝京に集い、力で相手をねじ伏せ、例え終盤にリードされた展開でも追いつき、逆転するのではないかという雰囲気を周囲がつくり出してその通りに勝利していた時代があったことを認める。だが、現状は当時と同じではない。選手権に出場したのは09年度が最後だ。また部員数は都立校などと比べても少ない。日比監督は「昔のように帝京高校に入ることが日本代表への近道だということは全くない」「勝って当たり前という時代では正直ないです」と説明する一方で「昔とは違う部分があるけれど、それでも勝たなければいけないという使命感はスタッフもみんな持っている」。復活を目指すチームは系列の帝京科学大のグラウンドなどを借りてトレーニングするなど、周囲や学校側の協力も受けているという。「腐ってても死んではいないというのを、協力して、もちろんOBもそうですし、学校の方たちもサッカー部がどうにか復権できるようにと思ってくれている」(日比監督)。チームは日常生活も大事にしながら、伝統校復権を、少しでも上を目指して奮闘している。

 今回の選手権ももちろん全国出場、日本一という目標を持っている。長倉は「先輩たちが(総体、選手権合わせて)9つ優勝してきましたけれど、自分たちはまだ何も成し遂げていない。チャレンジャー精神を持って戦っていきたいと思っています」と言い切った。相手をねじ伏せるような強さはまだない。伝統の重みが選手たちに伝わっていない部分があることも確か。それでも、春のイギョラ杯で日大藤沢高、夏の和倉ユースで青森山田高や桐光学園高に黒星をつけるなどチームには「走り切れるというのは自分たちの武器」(長倉)という強豪たちと戦う武器、また堅い守り、貪欲な勝利へ思いがある。「今年はいい背中を3年生が後輩に見せてくれている」(日比監督)という3年生たちの団結力も持って、帝京は先を見過ぎることなく、一つひとつ白星を重ねて選手権の舞台へ立つ。

[写真]後半2分、帝京は桑島(左)のゴールで2-0と突き放す

(取材・文 吉田太郎)
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