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[選手権予選]京都橘が全国総体16強の久御山撃破!「“上手さvs強さ”」の勝負制す!:京都

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[11.7 全国高校選手権京都府予選準決勝 久御山高 3-4 京都橘高 西京極]

 第94回全国高校サッカー選手権京都県大会の準決勝、久御山高京都橘高の一戦が7日に京都市西京極総合運動公園陸上競技場兼球技場で行われた。新人戦と総体予選で府大会を制しており、3冠を狙う久御山。一方の京都橘も府内の高体連チームで唯一、高校年代の最高峰であるプレミアリーグに参戦している。多くの観衆が見守った優勝候補同士の試合は、期待に違わぬ名勝負となった。

 まず両チームのスタメンに目を向けると、久御山はいつもの11人が名を連ねたのに対して、京都橘は準々決勝・大谷高戦からメンバーを大幅に変えてきた。今大会は初戦の3回戦・鳥羽高戦から右SBだったキャプテンの小川礼太(3年)をCBに配置して中央を強化し、久御山の得点源であるFW和田幸之佑(3年)とマッチアップする右SBには、今大会初出場となるDF濱本和希(2年)を起用。ボランチも守備面に特徴のある二人、稲津秀人(2年)と内田健太(1年)が入るなど、守備のバランスを変えて試合に臨んでいる。

 序盤は京都橘の狙いどおりに試合が進む。パスをつないで攻撃を組み立てようとする久御山に対して素早くプレッシャーを掛け、ボールを奪えば手数をかけずに前線へ運んでFW岩崎悠人(2年)ら攻撃陣がスピードを生かしてゴールを目指す。5分のファーストシュートを皮切りに、"プレス→カウンター"の形でチャンスを作っていく。19分の先制点も、その形から生まれた。中盤のボール奪取からパスを受けた岩崎が、左前方へ展開。パスを受けたMF坂東諒(3年)はカバーに入ったDFをかわして、右足を振りぬいた。追加点は、その2分後。久御山のPA内に7人が侵入する猛攻を防ぐと、カウンターが発動。岩崎を起点にFW梅津凌岳(1年)がPA内までボールを運び、DFを引き付けてパス。それを受けてネットを揺らしたのは、またしても坂東だった。今季、後輩たちにポジションを奪われていたが選手権予選では全試合でスタメンに名を連ねている男の2得点で、京都橘は大きなビハインドを手に入れたかと思われた。

 しかし、ここから久御山が徐々に流れを引き寄る。京都橘のプレスが緩み始めた前半30分あたりから、パスがつながるようになった。最終ラインからのビルドアップだけでなく、前線の長身FW築山隼(3年)への長いパスを使いはじめたことも効果的だった。中盤の選手が前を向いて、敵陣で攻撃を仕掛ける場面が増えていく。33分にはMF山本蓮(3年)か絶妙なスルーパスをとおして、今大会チーム最多得点をあげている和田がゴール前で反応。右足で冷静に流し込み、1点を返して前半を終えている。

 ハーフタイムを挟んでも、流れは変わらない。後半7分、山本が蹴った左CKから、最後はFW河崎蒼太(3年)が押し込んで同点。10分には右サイドのスローインから、後半に入って本領を発揮し始めたテクニシャンM({F八田陸斗}}(3年)がヒールを使った切れ味鋭いドリブルで相手DFを抜き去ってサイド深くへ侵入。折り返しを和田が右足で蹴りこみ、ついに試合をひっくり返した。

 京都橘も黙ってはいない。反撃の先頭に立ったのは岩崎だ。11分の直接FKはバーを叩き、こぼれ球を味方が押し込んだがGKチャージの反則を取られてノーゴール。続く12分にもドリブルでPA内へ侵入してシュートを放つが、GK佐藤由維斗(3年)の壁を破れない。17分、3度目のチャンスでついにネットを揺らす。相手DFと競り合った空中戦のこぼれ球に自ら反応した岩崎が、GKとの1対1を制してゴール。3-3と試合をイーブンに戻した。

 その後も互いが持ち味を発揮して、見ごたえある攻防が繰り広げられていく。実力伯仲の好勝負を前に、会場のボルテージは最高潮に。観客はピッチ内の一挙手一投足に反応し、応援席からは熱のこもった声援が送られ続けた。

 そんな熱戦に終止符を打ったのは36分。京都橘は交代出場のMF輪木豪太(1年)が右足で放ったシュートが相手DFに当たってコースが変わり、これがゴールに吸い込まれた。久御山も最後まで必死の反撃を試みたが、守備を固めた相手を崩すことができずに西京極に試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。

 勝敗を分ける分岐点はいくつか存在したが、両者は口をそろえて、久御山が逆転した後半10分以降の戦い方をターニングポイントにあげている。久御山・松本悟監督は「いい場面で点を取れるか、取れないか。カウンターの受け方が敗因かな」と4点目を奪いきれずにトドメを刺せなかったこと、攻撃から守備に切り替わった後のカウンター対応を指摘している。得点源である和田が両足をつってベンチに下がったのも痛かった。

 一方、京都橘・米澤一成監督はゲームコントロールに焦点を当てた。「(逆転されても)まだ時間があったので慌ててはいなかった。少しオープンな展開になっていたので、(堀尾)橘平を入れて試合を落ち着かせようとした」と話したように、ビルドアップを得意とするDF堀尾橘平(3年)をボランチに投入して、中盤のバランスと運動量を回復。序盤に見せた守備ブロックを取り戻し、ハイテンポの展開に歯止めを掛けることに活路を見出した。今季、プレミアリーグでは厳しい戦いを強いられる中で様々なシチュエーションを経験している。スコアや試合展開、相手や味方の状況…それらを感じ取って、どのようにゲームを進めるのか。それをピッチ上で共有できるのか。そうしたチームとして経験値が、この選手権予選準決勝で生かされた。久御山を相手に攻め合いをしては分が悪い。冒頭で触れたスタメン変更も含めて「今日は“上手さvs上手さ”ではない。“上手さvs強さ”の試合だ」(米澤監督)という狙いを徹底することで勝利を呼び込むことに成功している。

 試合後は、敗れた久御山にも会場から惜しみない拍手が送られた。序盤は「これがプレミアか、と思った」(八田)という相手のプレッシャーに面食らい、ボールを失わずに丁寧にいこうとするあまり久御山らしさが発揮できなかった。リードされてからエンジンが掛かったこと、そこから見るものを虜にする攻撃的スタイルでスコアをひっくり返したのも久御山らしかった。松本監督の下で毎年、特徴的なサッカーを繰り広げているが、前線や中盤にタレントが偏重しがちな例年とは違い、今年はGKから最終ラインも含めた全てのポジションに実力者が揃っていた。夏の高校総体で桐光学園、青森山田を破ったのは決してフロックではない。それだけに、最も重要視していた選手権予選を勝ち抜けなかったことを誰もが悔やんでいた。キャプテンの佐藤は「みんな上手いし、周りから期待もされていた。一番大きな大会で松本先生を勝たせて、全国の人たちにも久御山のサッカーを見てもらいたかった」と口にしている。高校総体で敗退した直後でも笑顔を失わなかった山本も、試合後は憂いを帯びた表情だった。それでも最後には「最高の選手たちとサッカーができた。こんないいチーム、ないですよ」と笑ってみせた。どんなに苦しくても前を向いて、サッカーを楽しむ。“キミは君らしく”――伝統のキャッチフレーズに違わぬチームで今年の高校サッカーを盛り上げたチームの戦いは、惜しまれながらベスト4で幕を閉じた。

(取材・文 雨堤俊祐)

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