[NB×大阪桐蔭高]『このチーム、支えたいな』という集団に。強さ身につけた好漢たち、大阪桐蔭が前評判覆して8年ぶりの選手権へ
200校を越えるチームが1枚の選手権切符を争う全国屈指の激戦区・大阪。熾烈な覇権争いがスタートしているが、前評判以上の強さとポテンシャルに注目のチームが大阪桐蔭高だ。
大阪桐蔭は05年の創部から4年目の08年全国高校総体で初出場ながらベスト8進出。同年冬には全国高校選手権に初出場し、2試合で計7ゴールを叩き出してインパクトを残した。その後も09年全日本ユース(U-18)選手権16強、12年全国高校総体では4強入りし、またMF阿部浩之(現G大阪)やDF三浦弦太(現清水、U-23日本代表)、MF久保田和音(現鹿島、U-19日本代表)ら創部から10年あまりで10人ものJリーガーを輩出している大阪の強豪校だ。今年の全国高校総体予選では決勝リーグ進出を懸けた7回戦で履正社高に0-1で敗戦。全国総体出場には手が届かなかったが、9月のプリンスリーグ関西では開幕13連勝していた首位・阪南大高に黒星をつけるなど、後半戦6試合を無敗とチームの状態は上向きだ。
選手権予選初戦を前にした関西学生1部リーグの近畿大、同2部リーグの大阪産業大という強豪大学のAチームとの練習試合では主力組が出場した1本目40分間をいずれも勝利。チームは自分たちのサッカーに手応えを掴んで選手権を迎えようとしている。 元々、現3年生は永野悦次郎監督が「今年は、僕も長く見てきましたけれど、能力は高いです」と評する世代。当初は周囲の話を聞き分けながら、同時にリーダーシップを発揮するような選手がいなかったこともあってまとまりがなく、試合では個人のスタイルを出すことに固執した選手もいて結果が伴わなかった。“能力”が高いがゆえに走ってしまっていた個人プレーの数々。だが彼らは、悔しい結果や、震災後恒例となっている宮城遠征でのボランティア活動などを経て、サッカーは個人、個人だけでは勝てないこと、チームのために頑張ることの大切さに気づき、変わった。
人のために頑張れる人間であること。加えて、それに強さが伴わなければ勝つことはできない。今年はその姿を思い描いて成長を遂げてきた。永野監督は「今年はただ単に心優しいだけでなく、心が満たされて、強くなって、どんなことがあっても組織で守って、組み立てて、サッカーできる集団になるんやで、とやってきた。今、どんどん上がってきています」。
指揮官が強調したことがある。「強調したのは、彼らがまだ若いので、自分を見つめられないところですかね。自分の心が病んでいたら自分って見えないじゃないですか。でも自分の心が鏡のように映し出せる心を持っていたら振り返って自分を改善できる」。どんなにいいゲームをしても何かしら課題がある。そこを追求し、改善して、強い個、チームになった。
チームの“鏡“になった選手たちがいる。MF神崎大雅主将(3年)や「ハートがすごく綺麗な子。運動量と考える量を増やす」(永野監督)というMF内潟輝(3年)ら努力することの大切さをその姿勢でチームに伝えられる存在は大きい。彼らに引っ張られるようにFW田村浩都(3年)やMF仲田健人(3年)ら個で違いを生み出せる選手たちが、頑張りの面でも違いを出せるようになってきた。仲田は「チームのために、チームのためにと考えたら自然に。プレー自体はそんなに変わってないと思うんですけど、気持ちの部分で『絶対に負けへんぞ』とかチーム内であっても他の選手とのマッチアップでもワンプレー、ワンプレーで絶対に負けないように変わりましたね」。2年生MF西矢健人も「まずは一人ひとりが自覚を持ってやらないといけないと3年生も思ってくれている人もいたんですけど、自分が、自分がという人がいい意味でも悪い意味でも多かったと思う。それが今は守備とかも声かけあって良くなってきていると思います」と説明した。個々のハードワークが増したことで、夏明けからはディフェンス面の強化も結果に。大学生相手にも守れるチームになったこともチーム状態が上向きな要因となっている。
練習場では各選手の挨拶の声や規律ある行動が印象的。マジメで時折笑い声も混じるチームの明るい雰囲気は彼らがつくり上げてきたものだ。個人、チームに自信を持っているというGK稲垣佳祐(3年)は「一番大きいのはチームの雰囲気というか、楽しい仲間の存在。厳しい走りがあったとしてもチームで助け合いながら、外から見ても『このチーム、いいチームやな』『このチーム、支えたいな』と感じさせてくれるチーム」と説明していたが、日常生活含めて「見えない評価をしてくれる人がいる。それが嬉しいですよ」(永野監督)という愛されるチームはこの秋、冬に結果も掴むことができるか。
総体予選を勝ち抜くことができず、プリンスリーグでも中位にいるためか、また08年度の初出場を最後に選手権の舞台から遠ざかっているためか、選手権予選の前評判は例年ほど高くはない。だが、“能力”のある選手たちが一つになってきた今の大阪桐蔭は確かに強い。自ら良い雰囲気を作り出している好漢たちが目指すのは8年ぶりの選手権全国大会、そして日本一。神崎は「冬の選手権というのは高校サッカーの中でも一番見られている大会。絶対に全国出てチームで勝っていきたいと思っています。(大阪桐蔭は)2期生の時に一回出たきり、出ていないので、僕たちが出て監督と一緒に全国で優勝したい」。チームの雰囲気、周囲からの評価は先輩たちが10年掛けて積み上げてきたもの。それも力に戦う期待の世代が今年、前評判を覆して激戦区・大阪を制す。
(取材・文 吉田太郎)
▼関連リンク
【特設】高校選手権2016
大阪桐蔭は05年の創部から4年目の08年全国高校総体で初出場ながらベスト8進出。同年冬には全国高校選手権に初出場し、2試合で計7ゴールを叩き出してインパクトを残した。その後も09年全日本ユース(U-18)選手権16強、12年全国高校総体では4強入りし、またMF阿部浩之(現G大阪)やDF三浦弦太(現清水、U-23日本代表)、MF久保田和音(現鹿島、U-19日本代表)ら創部から10年あまりで10人ものJリーガーを輩出している大阪の強豪校だ。今年の全国高校総体予選では決勝リーグ進出を懸けた7回戦で履正社高に0-1で敗戦。全国総体出場には手が届かなかったが、9月のプリンスリーグ関西では開幕13連勝していた首位・阪南大高に黒星をつけるなど、後半戦6試合を無敗とチームの状態は上向きだ。
選手権予選初戦を前にした関西学生1部リーグの近畿大、同2部リーグの大阪産業大という強豪大学のAチームとの練習試合では主力組が出場した1本目40分間をいずれも勝利。チームは自分たちのサッカーに手応えを掴んで選手権を迎えようとしている。 元々、現3年生は永野悦次郎監督が「今年は、僕も長く見てきましたけれど、能力は高いです」と評する世代。当初は周囲の話を聞き分けながら、同時にリーダーシップを発揮するような選手がいなかったこともあってまとまりがなく、試合では個人のスタイルを出すことに固執した選手もいて結果が伴わなかった。“能力”が高いがゆえに走ってしまっていた個人プレーの数々。だが彼らは、悔しい結果や、震災後恒例となっている宮城遠征でのボランティア活動などを経て、サッカーは個人、個人だけでは勝てないこと、チームのために頑張ることの大切さに気づき、変わった。
人のために頑張れる人間であること。加えて、それに強さが伴わなければ勝つことはできない。今年はその姿を思い描いて成長を遂げてきた。永野監督は「今年はただ単に心優しいだけでなく、心が満たされて、強くなって、どんなことがあっても組織で守って、組み立てて、サッカーできる集団になるんやで、とやってきた。今、どんどん上がってきています」。
指揮官が強調したことがある。「強調したのは、彼らがまだ若いので、自分を見つめられないところですかね。自分の心が病んでいたら自分って見えないじゃないですか。でも自分の心が鏡のように映し出せる心を持っていたら振り返って自分を改善できる」。どんなにいいゲームをしても何かしら課題がある。そこを追求し、改善して、強い個、チームになった。
チームの“鏡“になった選手たちがいる。MF神崎大雅主将(3年)や「ハートがすごく綺麗な子。運動量と考える量を増やす」(永野監督)というMF内潟輝(3年)ら努力することの大切さをその姿勢でチームに伝えられる存在は大きい。彼らに引っ張られるようにFW田村浩都(3年)やMF仲田健人(3年)ら個で違いを生み出せる選手たちが、頑張りの面でも違いを出せるようになってきた。仲田は「チームのために、チームのためにと考えたら自然に。プレー自体はそんなに変わってないと思うんですけど、気持ちの部分で『絶対に負けへんぞ』とかチーム内であっても他の選手とのマッチアップでもワンプレー、ワンプレーで絶対に負けないように変わりましたね」。2年生MF西矢健人も「まずは一人ひとりが自覚を持ってやらないといけないと3年生も思ってくれている人もいたんですけど、自分が、自分がという人がいい意味でも悪い意味でも多かったと思う。それが今は守備とかも声かけあって良くなってきていると思います」と説明した。個々のハードワークが増したことで、夏明けからはディフェンス面の強化も結果に。大学生相手にも守れるチームになったこともチーム状態が上向きな要因となっている。
練習場では各選手の挨拶の声や規律ある行動が印象的。マジメで時折笑い声も混じるチームの明るい雰囲気は彼らがつくり上げてきたものだ。個人、チームに自信を持っているというGK稲垣佳祐(3年)は「一番大きいのはチームの雰囲気というか、楽しい仲間の存在。厳しい走りがあったとしてもチームで助け合いながら、外から見ても『このチーム、いいチームやな』『このチーム、支えたいな』と感じさせてくれるチーム」と説明していたが、日常生活含めて「見えない評価をしてくれる人がいる。それが嬉しいですよ」(永野監督)という愛されるチームはこの秋、冬に結果も掴むことができるか。
総体予選を勝ち抜くことができず、プリンスリーグでも中位にいるためか、また08年度の初出場を最後に選手権の舞台から遠ざかっているためか、選手権予選の前評判は例年ほど高くはない。だが、“能力”のある選手たちが一つになってきた今の大阪桐蔭は確かに強い。自ら良い雰囲気を作り出している好漢たちが目指すのは8年ぶりの選手権全国大会、そして日本一。神崎は「冬の選手権というのは高校サッカーの中でも一番見られている大会。絶対に全国出てチームで勝っていきたいと思っています。(大阪桐蔭は)2期生の時に一回出たきり、出ていないので、僕たちが出て監督と一緒に全国で優勝したい」。チームの雰囲気、周囲からの評価は先輩たちが10年掛けて積み上げてきたもの。それも力に戦う期待の世代が今年、前評判を覆して激戦区・大阪を制す。
(取材・文 吉田太郎)
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