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[選手権予選]富山一は「神出鬼没の男」窪喜が決勝で2得点、心打たれた3年前の全国V再現に挑む

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後半7分、富山一高窪喜啓太がこの日2点目のゴール

[11.5 全国高校選手権富山県予選決勝 富山一高 2-0 水橋高 ]


 3年前、国立競技場で見た景色が忘れられない。富山一高が延長戦の末に星稜高との北信越対決を制して初の日本一に輝いた。別の高校への進学を考えていたが、ここだ、と心が動いた。窪喜啓太は、希望進路を龍谷富山高から富山一高に変えた。地元の強豪チームの主力級が集う強豪校を選べば、先発ポジションを獲得する可能性は低くなる。それでも覚悟を決めて進路を決めた窪喜は、輝いて見えた選手たちと同じユニフォームを着て、仲間と切磋琢磨する時間を経て、窪喜は憧れた先輩たちと同じ舞台に立つ権利を得た。決め手は、自分が挙げた2つのゴールだ。

 第95回全国高校サッカー選手権の富山県大会は、5日に決勝戦を行い、富山一が2-0で水橋高を下して2年連続27回目の全国大会出場を決めた。序盤から優位に立った富山一が先制ゴールを奪ったのは、前半25分だった。高い位置で相手にプレッシャーをかけ、右サイドでボールを奪ってPAのすぐ右でFKを得た。左DF竹林晃輝が左足から放ったキックは、ファーポストを直撃。相手DFに当たったこぼれ球に、いち早く反応してゴールへ押し込んだのが窪喜だった。

 竹林が「FWのプレーっていう感じでしたよね」と話したのもうなずける、誰もがボールを見たタイミングですでに動いていた窪喜の勝利だった。先制点を得て緊張感から解放されたチームは、その後も主導権を渡さずに相手を圧倒。そして、相手が選手交代で流れを変えようと臨んだ後半の矢先に、その勢いをへし折ったのも窪喜だった。後半7分、ワントップの本村比呂が右サイドを突破すると、すかさず逆サイドからゴール前へ飛び込み、体を開きながら低いクロスに左足をミートさせると、ボールはファーサイドのポストをたたいてからネットを揺らした。富山一高の大塚一朗監督は「一瞬の速さが、彼の武器。こぼれ球に反応する速さ、ゴール前に入って行く速さが、この試合で出た」と話したが、まさに神出鬼没の言葉が思い浮かぶ2得点だった。

 昨季の選手権は、チームで全国大会に出場したが、登録メンバーには入れなかった。リーグ戦も、トップチームが戦うプリンスリーグ北信越ではなく、富山県1部リーグを戦うチームでプレーしていた。自分の武器は、何か。模索した中でたどり着いたプレースタイルが、今のチームの武器となっている。窪喜は「チームメートのようにパスが上手いわけじゃない。僕ができるのは、ドリブルやクロス。あとは、前線からの守備。1年生のとき(周りに比べて)すごく下手で、どうすれば試合に出られるかと考えていた。自分は、体力とスピードには自信がある。最後まで走り切るのが、僕の取り柄。(ゴール前では)ここにいればボールが来るだろう、という位置を早く予測して動くことを心がけている」と自らのプレースタイルを説明した。走れること、頑張れること、そして相手よりも早く動けること。運動の継続が、わずかな一瞬で相手を置き去りにする。国立競技場での決心から3年、憧れの舞台まで這い上がった男は、決勝の大舞台で2得点を挙げて言った。

「自分にとっては、人生初の全国大会。悔いのないように楽しみたい」

 富山一の試合では、ゴール前に混戦が生まれたら、この男から目を離してはいけない。

(取材・文 平野貴也)
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