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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第78回:目先の勝利と、その先の勝利と(尚志)

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尚志高の仲村浩二監督は先を見据えた選手起用

“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」

 取材陣に囲まれた指揮官は、思わず苦笑いを浮かべた。

「準決勝なので、こんな感じになるかなとは思ったけど(本当に)なっちゃいました」

 第97回全国高校サッカー選手権の福島県予選準決勝。優勝候補筆頭の尚志高は、2-1で聖光学院高を下した。プリンスリーグでは、1位と9位。2度の対戦では、5-0、6-0と大勝している。力の差があるにも関わらず、想定外の苦戦を強いられたと言える。理由は、明白だった。尚志は、主力3選手を先発から外して控えに置き、後半から起用した。結果、前半に攻めあぐねてスコアレスの時間が長くなり、後半は先制に成功したが、追いつかれて苦しめられた。

 尚志の仲村浩二監督は「彼ら(3人)がいればリズムを取れるのは、分かっていました。でも、警告や負傷も含めて、何かあったときのために……と次のことも考えて、こういう場面を経験させたかったんですけど、全然ダメでした。勝ち上がる中で、必ず難しいゲームが出てくるとは思っていたけど、これは酷過ぎるんじゃないかという感じ」と落胆を隠さなかった。

 目指すステージが高くなればなるほど、選手層の厚みが必要になる。相手を侮った起用法という見方もされるだろうが、この舞台で戦えることを信じ、期待に応える姿を見たかったというところだろう。

 先発起用された選手も、個々に武器を持っている。ただ、緊張感の高いゲームで主導権を最初からつかむ積極性が見られなかった。仲村監督は「パスが回らず、まったく相手が動いていない。ちょっと情けなかったですね。あの3人を使えば、中も外も攻撃できるのは分かっているけど、ほかの選手がもうちょっと奮起してくれないと。これから、いろいろと起きることも踏まえてね」と先発起用した選手に苦言を呈した。

 それも、単なるダメ出しではない。彼らが経験を積み、先発争いに加わって来なければ、全国大会の上位進出は難しい。起用選手の変更は、目的を達成するために、避けて通れない挑戦なのだ。取材の終わりに、決勝戦に向けた改善点を聞かれると、仲村監督は自虐的に答えた。

「改善点? スタートメンバーですね。やってみてどうだったか? ここでやっちゃいけないなと思いました(笑)。監督の判断ミスです。なめていたわけではないですけど、この場面でやれなかったなと」

 この試合では失敗だった。しかし、勝って反省できることは、幸せだ。また、次のチャンスがやって来る。

■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」

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