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鹿児島の勢力図を変えるためにも全国へ。県北部の挑戦者、出水中央が4発4強入り

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前半24分、MF木場駿之介(7番)のゴールを喜ぶ出水中央高イレブン

[11.8 選手権鹿児島県予選準々決勝 出水中央高 4-1 樟南高 桷志田サッカー競技場]

 鹿児島北部から全国へ――。第97回全国高校サッカー選手権鹿児島県予選準々決勝が8日に行われ、出水中央高が樟南高に4-1で快勝。出水中央は10日の準決勝で神村学園高と対戦する。

 攻撃布陣を組んだ出水中央が前半の4得点で試合を決定づけた。この日、ベースの4バックではなく、CBのヨム・テファン主将(3年)をFWに配置する3-5-2システムで前半からゴールをもぎ取りに行った出水中央は、開始4分に相手オウンゴールによって先制点を奪う。

 さらに10分には、MF大村龍之介(2年)の左ロングスローをヨム・テファンが頭で合わせて2-0。スピードと高さを兼ね備えた右のDF宮川竜飛(3年)と左の大村のロングスローなどセットプレーでゴール前のシーンを作る出水中央は、さらに2つのFKで追加点を奪う。

 24分、MF木場駿之介(2年)が右サイドから蹴り込んだ左足FKがゴール前を抜けてそのままゴールイン。さらに39分にもFW三山夢貴(2年)が左サイドから蹴り込んだ右足FKがファーサイドのゴールを破った。

 得点を奪いに行って、狙い通りに4得点。ただし、本来はパスワークや前線からのアグレッシブな守備で勝負する出水中央だが、この日は相手の攻撃を受けてしまい、ボールを奪ってからの流れも悪かった。

 今大会初戦では名門・鹿児島実高に対して我慢強い守りとセットプレーを駆使し、MF宮崎雅也(3年)とMF古堅永遠(3年)のゴールによって2-1で勝利。続く鳳凰高戦も1-0で勝ったものの、後ろに重い戦いとなってしまったという。近野隼人監督は「目に見えない選手権のプレッシャーと戦っているのかな」と選手権の難しさを口にしていたが、この日も思うような内容のゲームにはならなかった。

 対して樟南は点差が開いても思い切りの良い攻撃を続けていた。前半から存在感を放っていたFW牧昂芽生(3年)が再三打開力の高さを示し、前線でボールを収めるFW福永浩城(3年)やMF中村海人(3年)らが仕掛け、シュートまで持ち込んでいく。23分にはDF福満唯翔主将(3年)が右サイド後方から入れたFKをニアの中村がコースを変える形でゴール。後半は樟南がより攻める40分間だった。

 宮川が「後ろは声を掛けながら安定して守ることができていた。守備意識が高いので3枚でも4枚でもどちらも安定していると思います」という出水中央守備陣の前に、樟南はやや攻め急いでしまい、それ以上スコアは動かなかった。だが、出水中央が受け身な試合運びをしてしまったことは間違いない。3年ぶりの4強入りを決めたものの、取り組んできたことを表現できなかった出水中央の選手たちからは試合後、ほとんど笑顔が見られなかった。

 近野監督は「勝って浮かれる状況ではない。やるしかないです」。チームの歴史を変えるために切り替えて準決勝に臨む。出水中央は鹿児島県の北端、熊本県境の出水市に位置する私立校だ。サッカー部は08年度の選手権予選や14年のインターハイ予選で準優勝し、14年には九州新人大会でベスト4進出。14年までプリンスリーグ九州にも在籍していた。

 11年に全面人工芝のグラウンドが完成するなど施設も充実しているチームの部員は現在、3学年合わせて44名と少数。コーチ陣の目が行き届く指導体制の中で、3年間掛けて力を身に着けている。そして、「(進学理由は)出水中央の環境や周りの声がけに魅力を感じたので。環境も整っていて良かったです。人数が少ないというのもあるんですけれども、チームが一つになって全員で勝とうとまとまれているところが良い」と語る宮川(佐賀・PLESURE SC出身)や、「練習体験に行った時に先輩とかも優しくしてくれて(判断力を求める)サッカースタイルも合っていると思った」という三山(熊本ジュニアユース出身)ら鹿児島県外からの挑戦者を中心に上位へ食い込んでいるが、地理上、生徒が集まりにくい環境であることは確か。全国に出場して経験値と知名度を高め、来年以降の強化にも繋げていきたいところだ。

 宮川は王者・神村学園と戦う準決勝へ向けて、「技術的にはあっちが上手だと思うので、球際とか走り、接点で絶対に負けないようにしたい」と誓い、ヨム・テファンは「自分たちの一つの目標としては来年に繋げること。4強に入ることは達成できたことは良かったと思うけれど、埼玉スタジアムで試合をすることが目標なので全国大会に絶対に行きたいと思っています」と意気込んだ。粘り強い守備と強力なセットプレーはライバルたちも警戒。加えて、取り組んできた部分も発揮し、鹿児島の勢力図を変える。

(取材・文 吉田太郎)
●【特設】高校選手権2018

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