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「瀬越監督34年間ありがとう。」決勝初進出の広島国際学院は退任する指揮官とともに100分間、延長戦まで全力で、一丸でやり切る

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広島国際学院高は初の決勝で堂々の戦いを見せた

[11.20 選手権広島県予選決勝 広島国際学院高 1-1(PK1-2)広島皆実高 広島広域公園第一球技場]

 メーンスタンドの下方に「瀬越監督34年間ありがとう。」という弾幕が張られていた。広島国際学院高は34年間指揮を執ってきた瀬越徹監督が、選手権予選開幕前に選手たちの前で退任することを発表。選手たちは恩師のために、という思いも力に戦い、「瀬越監督最後の」選手権予選で初の決勝へ勝ち上がった。

 2,971人の観衆が集まった決勝。瀬越監督は「全国の先生方には全く弱い時からお世話になって、試合して頂いて、その積み重ねが今日だと思います」。4年前に人工芝グラウンドが完成し、現在は広島上位を争う広島国際学院だが、瀬越監督はまだまだ力がない頃から積極的に強豪の下へ出向いて学びながらチームを強化。この日、指揮官の“サッカー仲間”が県外からも応援に駆けつける中で広島国際学院は激闘を演じた。

 立ち上がりは前線のタレントたちが足技を駆使した仕掛けで会場を沸かせる。その後、押し込まれる時間帯が増えたが、その状況も前向きに捉えて守備。相手の攻撃を一つひとつ丁寧に跳ね返し、大きな展開を交えた攻撃で幾度か敵陣深い位置までボールを運んだ。

 そして、前半40分、ロングスローの流れからMF宮迫真汰(3年)が左足シュート。これをゴール前のMF野見明輝(2年)が上手く合わせて広島皆実高ゴールを破った。前半終了間際に奪った大きな1点。広島皆実は後半も攻め続けてきたが、広島国際学院はバイタルエリア、ゴール前での守備を徹底し、逆に追加点のチャンスも作り出して見せた。

 後半21分にスルーパスを通されて失点。広島国際学院は再び突き放すために前へ出て、あと一歩のところまで迫っていた。だが、17度目の選手権出場を狙う名門・広島皆実は簡単には決定打を打たせてくれない。瀬越監督は、「我々には歴史がない部分かもしれないですし、そういう歴史を作ってきた皆実高校さんはやっぱりちょっと違うなという思いはありました」。広島皆実は攻撃的なスタイルの一方で奪い返しなど守備も速く、堅い。それを上回ることができなかった。

 それでも、我慢強く相手の攻撃を跳ね返している時間帯や、オープンな攻め合いを演じた延長戦など1分1分、1プレー1プレーが貴重な経験に。瀬越監督も「決勝、こんなに楽しいものなんだと。シンドい部分もありましたけれども、選手たちの表情が楽しそうだなと、そういう表情を見るのが私にとっても財産になりました」と頷く。

 試合はPK戦でGK岡崎翔真(3年)が2連続セーブの活躍。だが、5人中4人が外して準優勝に終わった。初の決勝で印象的な戦いをした広島国際学院だが、欲しかったのは白星。今後もサッカー部に携わっていく予定の指揮官は、「これをどのように次の代が引き継いでくれるか。交代選手2年生が多かったので、この景色を来年見れるように。来年頑張ってくれると思います」と期待を寄せた。

 また、歴史を塗り替え、「楽しい」決勝の舞台に立たせてくれた3年生たちに対しては、「子どもたちもボクが最後だということで……メンバー発表の時に今年で最後だと伝えたんですけれども、ボクが辞めるということがモチベーションの一つにもなっていたのかなと思います。選手権まで本当にリーグ戦も勝てなくて、シンドくて、キャプテンと泣きながら2時間くらい話したんですけれども。そこから少しずつ 少しずつ力をつけてきて、試合をしながら成長したという感じですね」と讃えた。

 瀬越監督と「涙の2時間」をともに過ごしたFW角谷莉聖主将(3年)は、表彰式で下を向くことなく、清々しい表情を浮かべていた。「一番の気持ちはやり切ったという気持ちの方が大きくて、まず小さい目標を積み重ねて行こうというのが自分の目標でしたから、まずはベスト4を超えるというのが一つの目標でしたし、それで満足はしていないですけれども、もう一つ歴史を塗り替えてやろうと臨んだんですけれども、ダメでしたね。でも、自分たちで一つ歴史を変えるということはできたので、凄くやり切ったと思います」と胸を張る。

 一方で、「今回、県選手権前のミーティングで正式に(瀬越監督退任の)発表があって、先生、こみ上げてくるものがありましたし、涙を流していましたし、そういうのを見ていてチームが一つになれたと思います。最後だったので(勝って)胴上げしてあげたかったのが大きくて残念ですね」と悔しがった。

 次期リーダーのCB茂田颯平(2年)や先制ゴールを決めた野見、交代出場で存在感ある動きを見せたMF島川翔汰(2年)、本来ボランチながらCBとして奮闘した長谷川蒼矢(2年)、左足武器のMF渡邊雄太(2年)ら下級生も力のある世代。彼らが1年後、「期待しかないですね。来年はやってくれますよ」という角谷主将や瀬越監督の思いに応えて再び決勝まで勝ち上がり、新たな歴史を築く。

広島国際学院高の瀬越徹監督(左)は初の決勝を戦い終え、「私にとっても財産になりました」

「瀬越監督34年間ありがとう。」

(取材・文 吉田太郎)
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