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総体予選敗退から生まれ変わった仙台育英が2年ぶりの全国へ!! 敗れた東北学院も「悔いはない。やり切った」:宮城

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2年ぶりの全国行きを決めて集合写真に収まる仙台育英高イレブンとスタッフ

[11.5 選手権宮城県予選決勝 東北学院高0-1仙台育英高 ユアテックスタジアム仙台]

 第102回全国高校サッカー選手権の宮城県予選は5日、宮城県仙台市のユアテックスタジアム仙台にて決勝が行われ、今夏インターハイ出場の東北学院高仙台育英高が対戦。1-0で勝利した仙台育英が2年ぶり37回目の選手権出場を決めた。

 試合は立ち上がりから仙台育英が相手陣内に勢い良く攻め込んだ。185cmのFW菊地蓮太(3年)と180cmのFW伊藤俊輔(3年)の2トップはいずれも競り合いに強く、特に菊地は空中戦に圧倒的な強さを見せ、パワーで東北学院を押し込んだ。そして7分、仙台育英はDF渡邊留唯(2年)のクロスが東北学院守備陣にはね返されるも、MF和久井友皓(3年)がもう一度前線に送る。これを東北学院GK橋本脩礼(2年)が弾くが、こぼれ球を拾った菊地のパスを受けたのは「普段からこぼれ球を意識していました。チャンスだと思っていつも通りゴール前に詰めました」とクロスを上げた渡邊が左サイドからゴール前に飛び込み、右足でシュートを決めて先制に成功した。その後も仙台育英が菊地と伊藤のパワーを存分に生かして攻め立て、東北学院はシュートまで持ち込むことができない。前半は1-0で折り返した。

 後半開始から東北学院はキャプテンのFW齋藤虎宇(3年)を投入する。齋藤は今季エースストライカーとしてチームを牽引してきたが、夏に右足ハムストリングス肉離れの負傷。9月23日のプリンスリーグ東北第16節盛岡商高戦で先発メンバーに復帰したが、その試合で同じ箇所を再び肉離れ。今大会で復帰したエースに同点、逆転のゴールを託した東北学院だったが、起きてはほしくなかったアクシデントが起こる。「後半途中で逆の足が肉離れ気味になってしまい、ブレーキがかかりました」と橋本俊一監督が語った通り、齋藤は左足も傷めてしまう。途中でベンチに下がってテーピングして、もう一度ピッチには立ち、必死にゴールに向かって行った。しかし、ジャンプが思うようにできず、何とかドリブル突破を試みようとするも「育英(の守備)が堅くて、ゴールを決めようと思い描いていたのですが、うまくいきませんでした」とシュートまで持ち込むことができなかった。

 切り札だった齋藤の負傷により、東北学院は防戦の流れを止められなかった。後半だけで11本という仙台育英のシュートの雨を、守護神橋本がスーパーセーブ連発ではね返し続けたが、東北学院のシュートは25分のMF菅原心汰(2年)の1本だけに抑えられた。最後まで相手を押し込み続けた仙台育英がこのまま1-0で逃げ切り、2年ぶりの全国大会出場を決めた。

 今年の仙台育英は、昨年まで参入していたプリンスリーグ東北から降格し、宮城県リーグ1部でプレーする苦しい1年だった。しかも6月のインターハイ予選では準々決勝で公立の多賀城高に1-2で敗れ、まさかのベスト8敗退。この敗退を機に、チームは大きく変わることとなった。「キャプテンだったMF小坂城太郎(3年)からキャプテンを降りたいという希望を受けて、MF菅原颯太(3年)にキャプテンを代えました。菅原は言葉で引っ張って行けたのでキャプテンが向いていました。小坂もその後はのびのび楽しんでプレーできるようになりました」とインターハイ予選後のキャプテン交代について城福敬監督は明かした。

 そして、伊藤と菊地の長身2トップのパワーをシンプルに使う形に変えたところ、チームはうまく回り始めた。「8月の青森ユースフェスティバルで青森山田高のAチームに勝って優勝して、10月半ばの尚志高のAチームとの練習試合でも勝てました。自信になって、そういう強いチームとやっても負けない、苦しい試合も乗り切れるんだ、という雰囲気になりました」と城福監督が語る通り、プレミアリーグで優勝争いをする強豪2チームに勝利したことで、チームは大きく生まれ変わった。「自分たちがどうやったら勝てるかを確認できました」とキャプテン菅原も語る。

 かくして準決勝ではライバル聖和学園高に先制されながら小坂と菊地のゴールで逆転勝利。決勝戦もなかなか追加点が奪えない展開にも決して焦れなかった。「MF島野怜(現・明治大)がいた、2年前のタレント豊富だったチームよりも、チーム自体は成熟していて、チーム内で何をすれば良いのか変えていくことができて、選手の平均値が高いです」。飛び抜けたタレントはいないが、個々の平均レベルが高く、この日は小坂を控えに回すなど選手層が厚いことにも城福監督は自信を見せる。「自分たちの特長を生かして、課題だった失点を無くして、失点0で勝ちきりたいですね」とキャプテン菅原も選手権の舞台に向けて意気込みを語る。昨年インターハイも選手権も全国大会出場を逃し、プリンスリーグ東北からも降格したが、ここ2年あまりの苦しみをようやく乗り越えた仙台育英が、全国の舞台でどこまで戦えるか注目だ。

 一方の東北学院だが、試合が終了し、閉会式を終えた後、スタンドの応援団の前で集合写真撮影を行い、笑顔を見せた選手が多かった。悔しさを抱えた準優勝チームがこうしたことを行うのは異例だが、「悔いは無いですし、出し切りました。全員やることを全部やりましたし、これが3年間の成果です。全員前を向いていました」とキャプテン齋藤が言った通り、やりきった清々しさを感じた選手が多かったようだ。

 齋藤はゴールへの嗅覚に優れたストライカーとして非凡な才能を見せ、プリンスリーグ東北やインターハイ金光大阪戦でもゴールを挙げて活躍したが、今後については「サッカーをやりたい思いはありますが、勉強が忙しくなるのは見えているので、サッカーはできれば携わりたいと思っています」と語る。今月、理系の難関大学受験を控えた齋藤は、新たな夢に向かおうとしている。東北学院の選手たちは全てを出し切り、3年生はそれぞれの道へ、1~2年生は全国の舞台に向けて、再び走り出す。

(取材・文 小林健志)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
小林健志
Text by 小林健志

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