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[MOM4514]矢板中央MF井上拓実(3年)_気合の坊主頭、浪花生まれの頼れる主将が決勝に導く一撃

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[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.5 選手権栃木県予選準決勝 矢板中央1-0白鴎足利高 栃木グ]

 次のチャンスは絶対に仕留めようと思っていたという。前半から押し気味に試合を勧めた矢板中央高は前半38分、FW児玉聖士朗(3年)の左クロスをMF井上拓実(3年)が頭で合わせるが、GKに防がれてしまう。

 しかし後半10分、矢板中央はMF小森輝星(3年)のFKをDF梶谷皇光斗が折り返すと、浮き球が井上に渡る。「チームとして対角に来たボールは折り返すと徹底しているので、折り返しのボールを決めるだけだった」。170cmの身長を目いっぱい伸ばして相手に競り勝つと、頭に当てて決勝へ導くゴールを決めた。

「前半で自分は仕留めたかったんですけど、後半は仕留めないといけないと思った中で決められた。でも(チーム全体としては)ところどころ守備の面で切れてしまうところが多かったので、攻撃というより守備を強化して、もう一回この一週間で準備していきたいと思います」

 中学時代はガンバ大阪ジュニアユース門真に在籍。「あまり試合に出ていたわけじゃなかった」こともあり、決意を持って大阪から栃木へとやってきた。ただ1年時から高校選手権で全国を経験するなど順調に歩みを進めたかに思えたが、2年生の4月に右ひざの半月板を損傷。ほぼ1年を棒に振る大怪我を負った。

 さらに主将として迎えた最終学年も眼窩底骨折や鼻骨骨折など、「足以外の怪我」にも苦しめられた。インターハイ本戦では初戦の東邦高戦で得点を決めるなど、目に見える結果でもチームを引っ張ることはあったが、「本当にチームに迷惑をかけた」という思いが強いという。

 選手権予選の直前に頭にバリカンを当てた。「チームとしてふわっと入りたくなかった。自分が喝を入れるじゃないですけど、示さないといけないと思った。坊主にしたから勝てるとかそういうのはないけど、やっぱり気持ちの部分で先行してできればと思ってやりました」と気合も十分にしている。

 15歳まで大阪市で育った生粋の浪速っ子だが、話し言葉に大阪弁はあまり出ない。「もともと大阪弁が強い方じゃない」ということもあり、1か月ほどで方言も抜けたという。繋がりのなかった栃木県の学校への進学だったが、今振り返ってもいい決断をしたと考えている。
 
「県外に出て自分に厳しい状態で、強い高校でやりたかった。県外なら絶対に日本一が狙えるところに行きたかったし、自分のプレースタイル的にも守備メインでできる矢板中央が一番に目に入りました。でも1年生の時から全国でちょっとだけ出させてもらったけど、何もできなかった。今年の選手権には強い思いを持っている。自分がサッカーで結果を残さないといけないと思っています」

 大学でも関東の強豪校でサッカーを続ける予定いるという。あと1勝と迫った2年ぶりの全国行きだが、改めてチームに喝を入れる。「まだまだチームの入りで隙をみせてしまっている。決勝を勝って全国に行ったとしても歪みが出てくると思うので、そういったところを見せないようにするのが課題かなと思います」。悲願の日本一に向け、気を緩めることはない。

(取材・文 児玉幸洋)
●第102回全国高校サッカー選手権特集
児玉幸洋
Text by 児玉幸洋

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