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横浜FCのJ1昇格の原動力となった特別指定選手。仙台大FW松尾佑介が最後のインカレへ

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横浜FCのJ1昇格に大きく貢献した仙台大FW松尾佑介が最後のインカレで日本一に挑戦する

 仙台大の切り札・FW松尾佑介(4年=浦和ユース、横浜FC内定)が最後のインカレで有終の美を飾る。今季はJ2横浜FCの特別指定選手としてリーグ戦21試合6得点5アシストを記録し、13年ぶりのJ1復帰の原動力となった。「インカレはすごく楽しみ。ベスト4以上に入りたい」。急成長を遂げた才能が、プロの舞台で得た収穫、インカレでの意気込みを語った。

 初出場を果たしたJ2第20節・岡山戦(6月29日)から記録ずくめのシーズンを過ごした。過去の特別指定選手(J1~J3)で最多試合出場、最多得点を更新。さらに得点を挙げた6試合中5試合で決勝弾を決めた。初出場から23試合17勝5分1敗とチームを上昇気流に乗せて、自動昇格圏2位入りの立役者となった。

 そんな彗星の如く現れた天才だが、浦和ユース時代は日の目を見なかった。「自分が思うような評価を得られなかった」。トップチームに呼ばれることもなく、高校3年時のJユースカップでチームが初制覇を果たすも、一度も試合に出場できず。年間を通しての出場機会も限られていた。

 環境を変えようと現C大阪のMF奥埜博亮らを輩出した東北の雄・仙台大に進学。そこで才能が花開き、推進力があるスプリントと傑出した得点能力で大学2年時は14試合25得点で東北学生リーグ得点王に輝き、翌年は12アシストと活躍した。同年のインカレでも主力として貢献し、Jリーグクラブ内定を勝ち取った。

 今季は横浜FCで圧巻の活躍を見せるも、加入当初は苦戦を強いられた。松尾は「最初の練習は一週間くらいボロボロだった」と振り返った。プロのプレースピードの速さ、球際の強さは予想以上だった。

 それでも適応は早かった。デビュー前の第19節水戸戦をスタンド観戦した。「上からチームを観戦できたのは大きかった。練習でも、ある程度スピードに慣れてきた」。デビュー戦となった岡山戦は前半早々にFW草野侑己が左太ももを負傷し、交代選手は松尾の名前が呼ばれた。

 緊急出場であったにも関わらず、背番号37は落ち着いていた。素早いダブルタッチからシュートを放ち、起点に関与するプレーで5―1の大勝に貢献。「デビュー戦は緊張しなかった」と強心臓ぶりを見せた。そして、岡山戦の11日後の7月10日に天皇杯2回戦で仙台大の一員として横浜FCと激突した。

 この時の松尾はいつも以上に高ぶっていたという。自身が入団するチームと大学で戦う機会は一生に一度とない。「ぶっ飛ばすことしか考えてなかった。勝ってサポーターを黙らせる」。ファンには常に感謝を述べる松尾だが、このときは心を鬼にして挑んだ。

 試合は接戦になるも、1-2で惜敗。「ファンには怖い選手と思われたい。それはチームに帰ってきたら頼もしいと思ってもらえるから」と心境を吐露していた。日が明けて横浜FCのチームメイトから「あの試合は勝ったから良かったけど、負けたら大変だった」と口々に伝えられた。プロ相手に堂々とした戦いを見せた。その言葉は松尾にとっても、イレブンにとっても大きな自信になる言葉だった。

 総理大臣杯初戦はIPU・環太平洋大を4-2で下し、2回戦は大会王者となる明治大相手に得点を決めるも、1-2で敗れた。それでも「プロならファウル覚悟で来るから、明治大戦では余裕を持ってプレーできた」。プロで得た手応えは成長につながっている。

 偉大な先輩から多くを学んだ。チームにはFW三浦知良、MF松井大輔、MF中村俊輔など日本代表をけん引したレジェンドが多く在籍している。「みんなチームから求められていることを分かっている。年齢を重ねても自分の成長を常に考えているし、その経験を還元してくれる」と生きる伝説たちからサッカーに取り組む姿勢を教わった。

 評価が急上昇中の松尾は、東京五輪出場の可能性も期待されている。さらに海外のクラブチームも動向を注視している。欧州のクラブ関係者は「彼のスピードや正確な判断を高く評価している。近い将来、彼は欧州でプレーしているだろう」と絶賛した。来季、J1での活躍に注目が集まりそうだ。

 プロの舞台で破竹の活躍を見せたエースに期待する者は多い。仙台大の吉井秀邦監督は「横浜FCさんが松尾を使ってくれてうれしかった。攻撃はもちろん守備が大きく成長した」。そしてイレブンも松尾のチーム復帰を歓迎している。MF嵯峨理久主将(3年=青森山田高)が「松くんが戻ることで攻撃のクオリティが上がる。プロの経験をチームに還元してほしい」と話せば、DF本吉佑多(4年=仙台ユース)は「あいつが生きる場面を作れるように俺たちもやらないといけない」と闘志を燃やした。

 今季は仙台大でプレーする機会が少なかったが、出場すれば活躍を見せた。だが、悲願の全国タイトルには届いていない。それだけに大学最後のインカレにかける思いは強い。松尾は「ベスト4に入れば優勝が見えてくる」と笑顔を見せた。プロの舞台で急成長を遂げた10番を筆頭に、仙台大は一丸で同大初の栄冠を奪い取る。

(取材・文 高橋アオ)
●第68回全日本大学選手権(インカレ)特集

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