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「新しい景色」への大いなるチャレンジ。3度追い付いた常葉大はPK戦の末に関西大を振り切って2回戦へ!

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激闘の末にPK戦を制した常葉大が2回戦へ!

[12.8 インカレ1回戦 関西大 4-4 PK2-4 常葉大 三ツ沢公園陸上競技場]

 諦めるつもりなんて、微塵もなかった。後半のラストプレーで追い付かれても、延長に入って逆転されても、必ず勝てると信じていた。なぜなら、オレたちは『新しい景色』を見るために、この舞台へと歩みを進めてきたのだから。

「今年はワールドカップもあって、いろいろな人たちがサッカーで感動している姿を見てきましたけど、僕らもそういう『感動を与えられるチームにしよう』とシーズンの最初から言っていたんです」(常葉大・小松慧)。

 凄まじい打ち合いの末に、東海の“常昇軍団”が執念の粘り勝ち。第71回全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)は8日に1回戦を行い、関西大(関西4)と常葉大(東海2)が激突した一戦は、双方が4点ずつを獲り合う超激闘に。最後はPK戦で常葉大が勝利を手繰り寄せ、法政大(関東5)が待つ2回戦へと駒を進めている。

 先制したのは関西大だった。前半11分。MF足立翼(4年=G大阪ユース)を起点にFW久乗聖亜(4年=東山高)が右へ振り分けると、MF深澤佑太(4年=大阪桐蔭高/愛媛内定)がクロス気味に中央へ入れたボールが、そのまま左スミのゴールネットへ到達する。「『強い関大を取り戻そう』ということを口にして、1年間やってきました」と語るキャプテンの一撃。関西大が1点のリードを奪う。

 ビハインドを負った常葉大も、すぐさま反撃に打って出る。17分。MF高野裕維(4年=神戸弘陵学園高)が右へ展開。受けたMF高瀬生聖(3年=奈良県立山辺高)がカットインしながら左足で放ったシュートは、ゴール左スミヘ吸い込まれる。「立ち上がりはうまく先制できたんですけど、流れの中ではうまく行かないところが多かったですね」と関西大の前田雅文監督も言及した時間帯での同点弾。スコアは振り出しに引き戻された。

 以降も23分にはFW金賢祐(3年=青森山田高)のシュートが右ポストを直撃するなど、常葉大がリズムを握る中で、関西大の一刺しは31分。足立の左クロスから深澤が打ったシュートはDFに弾かれるも、こぼれに反応したDF松尾勇佑(4年=市立船橋高/大分内定)が思い切りよく叩いたミドルはゴールネットへ突き刺さる。2-1。再び関西大が前に出る。

 折れない常葉大。34分は右CK。MF古長谷千博(3年=清水桜が丘高)のキックから、ルーズボールを拾った高野はミドルにトライ。キャプテンを務めるFW小松慧(4年=青森山田高)に少し当たったボールは、そのままGKを破る。公式記録は「僕は大学4年間でまだ公式戦の初ゴールを獲れていなくて、ここまで取っておいたという伏線でもあったので(笑)、自分のゴールだと思っています」と笑った高野の得点。2-2で最初の45分間は終了する。

「取られても取り返せるのが、今年のチームの良いところ」と小松が話したように、2度のビハインドを追い付いた常葉大が、後半に入るとこのゲームで初めてリードを手にする。10分。左サイドから古長谷がFKを蹴り込み、ファーに飛び込んだDF金和樹(2年=青森山田高)が頭で折り返すと、最後は金賢祐がゴールへボールを流し込む。3-2。スコアは反転した。



 追い込まれた関西大にスイッチが入る。26分には松尾の右クロスから、途中出場のFW西村真祈(3年=C大阪U-18)のバイシクルはクロスバーの上へ。32分にも深澤、MF堤奏一郎(3年=関西大一高)、西村とパスを繋ぎ、最後はFW百田真登(3年=関西大一高)がゴールを陥れるも、ここはオフサイドという判定でノーゴール。どうしても1点が遠い。

 ほとんど試合は終わりかけていた。だが、関西大も諦めない。45+6分。相手のクリアを左サイドで拾った堤が中央を見据える。「このゲームでいきなりチャレンジしたわけではなくて、練習通りの配置と動きからで、狙い通りでした」(前田監督)。終盤に最前線へと投入されていたDF夘田康稀(4年=草津東高)がニアに潜り、堤のクロスへ懸命に合わせたヘディングはゴールネットを揺らす。



「夘田も今シーズンは試合に出たり出なかったりという難しいシチュエーションの中で、ああやって4回生が決めてくれたのは、同じ4回生として一緒にサッカーをしてきて、本当に誇らしかったですね」と口にしたのは深澤。直後に鳴り響いた後半終了のホイッスル。3-3。勝敗の行方は15分ハーフの延長戦へと委ねられる。

 潮目は変わった。延長前半4分。DF木邨優人(2年=京都U-18)がフィードを蹴り込むと、相手DFのクリアが小さくなったところを西村が抜け目なく拾ってフィニッシュ。いったんは常葉大GK中島佳太郎(3年=磐田U-18)のファインセーブに阻まれたが、再び西村が丁寧にゴールへ蹴り込む。4-3。関西大が1点のアドバンテージを握る。

 折れない常葉大。「なんか、もう行ける気しかしなかったです。『オレたちはこれをやりに来ているんだ』という雰囲気がありましたし、『それぐらいの想いを持っていなかったら立ち位置を覆せないだろ』って」(小松)。延長後半9分。途中投入のMF清水和馬(1年=静岡学園高)がエリア内で倒れると、主審はペナルティスポットを差し示す。

 キッカーは清水自ら。「1年生ながらボールを自分で持って、蹴ると。そこはやっぱり彼の良さなので、下級生がのびのびとできる環境を、今年は上級生が作れているのかなと」(小松)。1年生アタッカーは完璧なキックを右上にグサリ。4-4。三たび常葉大が追い付き、次のラウンドへの進出権はPK戦で奪い合うことになった。

 2人ずつが成功して迎えた3人目。先攻の常葉大のキックは関西大のGK山田和季(1年=近江高)が完璧にセーブすると、後攻の関西大のキックも中島が気合のストップ。PK戦でも一進一退の攻防は続いたが、4人目はきっちり成功させた常葉大に対し、関西大のキッカーは枠を外してしまう。

 常葉大5人目のキッカーは高野。「このゲームは最初のゴールも自分がアシストして、ゴールも決めていたので、『勝負を決めるのは自分かな』とちょっと感じながら、5番目に立候補しました」。自分の間合いで蹴り込んだボールは、山田も触っていたものの、ゴールネットに届く。

「今年は『見ていてワクワクするゲームを1試合でも多くやろう』と。その中で結果を両立させようとしてきたんですけど、ここにきてその意味がわかってきて、自分たちが何を貫いて勝つのかというところにトライしてくれた結果かなと。見ている人が『サッカーって楽しいな』と思うところを選手が信じて表現してくれたことが、今日の成果だと思っています」と山西尊裕監督も話した常葉大が、スリリングなゲームをPK戦で制して、2回戦へと勝ち上がる結果となった。

「今年は僕が『強く愛される選手に、強く愛されるチームに、応援されるチームになろう』という3つのことをみんなに言ったんです。これは僕が育ったFC東京で知ったものでもあるんですけど、チームメートにもこうなろうということを伝えてリーグ戦を戦ってきた中で、『常葉のサッカー面白いね』と、『また見に来たいね』と思ってもらえるようになって、今年はちょっとずつですけど、お客さんが増えてきたんですよ。僕たちが何でその恩を返せるかと言ったら、やっぱり感動や魅力も含めたサッカーで与えられる力を見に来てくれた人たちに感じてほしいですし、そこが学生サッカーの価値だと思っているんです」。

 キャプテンを務める小松は一息に言い切る。思い返せば、土壇場で追い付かれた時も、3度目のリードを奪われた時も、そして痺れるようなPK戦の最中も、常葉大の選手たちにはその瞬間を楽しむような空気感が、確かにあった。

「僕らが1つ決めていることは、『PK戦になった時に悲壮感を出すな』と。4-4になった時点で、『もう後は運だろ』と。あの状況を背負ってスポットに立てるヤツじゃないとダメなんじゃないかなと思いますし、自信を持って『オレが行ける』というヤツが蹴っています」と山西監督。自分たちが楽しんでいるから、見ている人も楽しんでくれる。今年の常葉大が貫いてきたポジティブなマインドは、この全国の舞台でも間違いなく貫かれていた。

「今日は全員にとって忘れられない日になりました」と笑った小松は、すぐにこう言葉を続けた。「だけど、僕たちは歴史を変えに来ているんです。『新しい景色を見よう』って。自分たちの価値を全国で証明しようと今回の大会に乗り込んできていて、まずは1個勝ち進んだことによって次に繋がったんですけど、次で負けたら意味がないんです。僕らは『一番高い景色を見よう』と言っているので」。

 『新しい景色』への大いなるチャレンジ。『強く愛される』常葉大が歴史を変えるために続ける進撃は、まだまだ終わらない。

常葉大GK中島佳太郎はPKストップに気合のガッツポーズ


(取材・文 土屋雅史)
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