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[大学選手権]慶應義塾大は“分析の勝利”、試合に出れない葛藤を胸に…分析班が快挙

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[12.23 全日本大学選手権準々決勝 桃山学院大0-1慶應義塾大 足利]

 慶應義塾大が18大会ぶりのベスト4進出を果たした裏には“分析班”と呼ばれる6人の選手たちの存在があった。この日の試合後、須田芳正監督は「きょうは分析の勝利」とコメント。「うちには約100人の部員がいるが、試合に出ている11人だけでなく、それぞれの選手がそれぞれの役割を持っているのが強み」と話した。

 分析班とは何か。具体的には、森本美行コーチに指導の下で対戦相手の直近2試合のゲームで分析を実施。まずは各種データの入力を約10時間かけて行う。その後、データを基に、相手の長所と短所を12分間にまとめたスカウティングビデオを制作。試合3日前のミーティングでパワーポイントなどと合わせて、発表する。一度の分析には、2試合を対象として、2週間で約20時間を要するという。

 分析班で唯一の4年生である松田健佑(4年=慶應義塾NY学院)は、この仕事について、「自分が練習をする時間を割いて、自分より上手い人を、さらに上手くさせるということが役割」と淡々と説明する。それでも、分析班の選手たちも、もちろん慶應義塾大のプレイヤーの一人。目標は自身が試合に出るところにある。

 だからこそ松田は「葛藤はもちろんあります。チームメイトでありながら、選手同士はライバル。自分にも試合に出たい気持ちはある」と胸のうちを明かした。それでも「葛藤はありますが、勝ちたいという気持ちはみんな一緒。分析をやった結果、試合に勝てたときはうれしいので」と話すと笑顔をみせた。

 実際、松田は前期の関東リーグではトップチームに絡んでおり、リーグ戦にも出場している。分析班としての仕事は、自身の練習時間を奪ったかもしれないが、プレイヤーとして成長する上での糧にはなった。「チームのために」。その思いで積み重ねてきたものは裏切らず、結果として実を結んだ。上級生のそんな姿があるからこそ、下級生たちも悔しさを胸にしまい、迷いなく、チームのための仕事に真正面から取り組めているのかもしれない。

 DF笠松亮太主将(4年=東京Vユース)は「分析などでチームに貢献してくれる選手がいて、試合に出ている選手はそれに応えるプレーをしないといけない。そこがこのチームの強み」と話す。またMF日高慶太(4年=桐蔭学園高)は「サッカー選手として、同じ志をもって入部してきた仲間が、入学から時が経って、プレーとは違うところでチームのための仕事に取り組んでくれている。彼らのためにもしっかりやらないといけない」と以前から口にしていた。

 準々決勝(23日)から準決勝(25日)までは、中1日。トップチームの選手たちがコンディション回復に励む一方で、対戦相手のスカウティングのため、分析班の戦いは既に始まっている。「運営担当や分析班、プレー以外の仕事を自ら進んでやっている選手たちがいる。これが我々のチームです」と指揮官は胸を張る。100人を超える選手たちが「チームの勝利のため」を合言葉に、それぞれの仕事を全うした先に、必ず勝利は舞い込むはずだ。

(取材・文 片岡涼)
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