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日本サッカー界の“ABC契約”見直しへ…JPFA吉田麻也会長が力説「時代にそぐわなくなっている」

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JPFA理事が記者会見

 日本プロサッカー選手会(JPFA)は26日、定時総会を行い、日本サッカー協会選手契約書に定められたABC契約の見直しについて議論した。終了後に東京都内で行われた記者会見では、代表理事(会長)のDF吉田麻也が「ちょっと時代にそぐわなくなっているんじゃないかと感じている」と変更の必要性を力説した。

 JPFAによると、制度の見直しを議論したのは「最低年俸制」と「各カテゴリのプロ契約人数の増加」について。最低年俸は現在、Jリーグで一定時間の出場時間を経て締結できるA契約では460万円と定められているが、B・C契約には規定自体が存在しない。そのため、下部カテゴリの新卒選手を中心に、一般的な新卒会社員の給与を大幅に下回る契約を強いられていることも珍しくない。またプロA契約に関しても最低人数がJ1で15人、J2で5人にとどまっており、選手側からは増加を求める声が挙がっている。

 吉田はこの日の会見で最低年俸制について「いまはJ2、J3で非常に苦しい事情を抱えながらプレーしている選手が多くいると思うが、本当にそれが正しい道なのか」と提言。「厳しいことを言うと、最低年俸を設定すると言うことはプロになれない選手も出てくると思うが、それでもJリーガーとしてプロとしてどうあるべきか、自分たちがどう基準を作り上げていって、そこに入っていくために努力するというのが非常に大事になっていく。それが求められていることなんじゃないかと感じている」と訴えた。

 またB・C契約には年俸上限460万円という事実上のサラリーキャップ規制があり、こちらも新卒選手を中心に大きな影響を被っている。吉田は「Jリーグができて30年、当時オリジナル10だった時にABC契約を作って、どのチームにも平等に選手が獲得できるチャンスを作ろうということから始まったと思う」と制度が始まったJリーグ黎明期の事情には理解を示しつつも、「世の中、そしてサッカー界は大きく変わった。よりグローバルでインターナショナルな基準が求められている時代において、ちょっと時代にそぐわなくなっているんじゃないかと感じている。これは僕だけでなく、おそらくどなたもそう感じていると思う」と警鐘を鳴らした。

 日本では近年、DFチェイス・アンリ(尚志高→シュツットガルト)やFW福田師王(神村学園高→ボルシアMG)のように高校年代から海外クラブに加入する例が増加してきており、今後もこの傾向は続くとみられる。現状では、世界舞台を意識する選手がより競争力の高い舞台に身を置いて戦うという動機が主だが、欧州にはない最低年俸の存在も大きな違いとなっている。

 そうした背景を受けて吉田は「そうなるとJリーグのどのチームも選手を獲得できない状況が起こりうる。それが日本のクラブのためになるかというとそうではないと思うし、そのためにはより資金を持ったチームが選手を獲得できる環境になり、自由競争という意味でフラットになるべきなんじゃないか」と指摘。「予算が少ないチームもよりオリジナリティであったり、自分たちで何かしら考えて、チームを自走していくことが求められていくと思う」と展望しつつ、「それこそが多様性であって、それこそがこれからのサッカー界で生き残っていく上で大事になるのかなと思う。たとえばお金を持っているチームが動くことがあってもいいだろうし、自分たちで育成してそれを売っていくことでお金に変えて資金を作っていくことがあってもいい。そういう形を作っていかないと今後はダメなんじゃないかと思う」と力説した。

 吉田は2009年末に欧州に渡って以降、オランダのVVV、イングランドのサウサンプトン、イタリアのサンプドリア、ドイツのシャルケといった育成に定評のあるクラブでプレー。そうした経験をした上で日本の現状を見つめると、欧州のクラブと比較して「(日本も)ホームグロウン制度があるが、なかなかアカデミーからトップチームに上がって、そこから日本代表や海外に羽ばたいていく例が少ないと感じている」という。

 今後、制度改革を行うことで「より多くの成功体験をクラブが得ることによって新たな投資が始まって、新たないい選手が生まれてくるんじゃないかと思う」と吉田。「それはまさにサウサンプトンやシャルケなどが財政に苦しい中でやろうとしていることで、自分たちでいい選手を発掘する、育てる、そしてそういう選手にチャンスを与えて利益を得ていくという一つのモデルケースになると思う。Jリーグも予算的に苦しいチームがたくさんあると思うけど、そういうことをやっていくことも十分可能だと思う。選手はその選手を掴めるかどうか、その競争の中で勝ち残っていけるかが非常に大事だと思う」とビジョンを語った。

 加えて吉田は、ABC契約などを定めている統一契約書自体の見直しについても前向きな姿勢を示した。ABC契約は一般的に「統一契約書」と呼ばれる書類に準拠しているが、この制度はJリーグ発足時に始まり、これまで30年間ほとんど手が加えられていない。欧州ではこの間、移籍の自由化を推し進めたボスマン判決が出されるなど、選手契約に大きな変化が起きているが、日本は取り残されている状況ともいえる。

 吉田は報道陣からの統一契約書に関する質問に対して「どの議案に対しても元をたどると『統一契約書を変えないといけないよね』というのに行き着いている現状がある」と説明。選手に帰属する肖像権の違いを例に訴えかけた。

「ヨーロッパに行く選手、そして帰ってくる選手が多くいる状況の中で、国内の選手と海外から帰ってきた選手の肖像権に関する権利のズレは非常に大きくなっている。それと同時に代表活動、チーム活動での肖像権のズレは、お金が動くと権利のところの話がいつも議題に上がる。国内は現状、統一契約書があるがゆえに苦しい状況があり、それも同じように時代にそぐわないと思う。そこをインターナショナルな基準に揃えることが日本サッカーが次に進んでいく道になる」

「たとえば夜の報道番組に出ることで僕はそのギャラを丸々もらえるが、たとえば(Jリーグでプレーする)小池選手(小池純輝副会長)が出るとチームが少し持っていって、小池選手がその残りを持っていくという形になる。これは果たしてフェアなのかということですよね」

 こうした制度の見直しについては、JPFAの松本泰介執行理事(副会長)も「これまでJリーグはクラブ数を増やすことに重点を置いて拡大していたが、ここからは60クラブから増やさないと言う方針がある中で、いかにこれらのクラブを成長させていくかが重要というのがある。こうした協議をしていく中でよりクラブも成長して、より上のレベルを一緒に目指していきたい」と意気込みを示した。

(取材・文 竹内達也)
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