「なんであそこに伊野波が」、チームメイトも驚いた劇弾
[1.21 アジア杯準々決勝 日本3-2カタール アルガラファ]
思わずピッチに崩れ落ちた。10人で3-2の逆転勝利。劇的な決勝点を決めたDF伊野波雅彦(鹿島)は試合終了のホイッスルが鳴ると、精根尽きたようにしゃがみ込み、安堵の思いでチームの歓喜の輪に加わった。
「なかなか流れをつくれなくて、ミスも多くて……。攻撃でチームに迷惑をかける部分が多かった。最後に点を取れて、ちょっとチームに恩返しできたかなと思う」
チームメイトさえ驚いた。2-2のまま迎えた後半45分。延長戦突入かと思われた死闘に終止符を打った。セカンドボールを拾ったMF長谷部誠が鋭い縦パス。「(香川)真司が見えたし、ボールが来る前からあそこに強いパスを出そうと。真司がいいトラップをしてくれた」。正確なトラップでDFをかわしたMF香川真司はドリブルで切れ込み、GKもかわす。その直後に後方からMFムフターのチャージを受け、ボールがこぼれると、そこに伊野波がいた。
あとは左足で無人のゴールに蹴り込むだけ。長谷部は「伊野波がなんであそこにいたのか。それまでも(前に)行くなとベンチから指示もあったし、俺からも言っていたのに」と笑った。「あいつの気持ちもあったんだと思う」。名誉挽回の一撃だった。
前半13分、縦パス1本でFWセバスチャンに先制点を許した場面。パスの出どころにDF今野泰幸、DF長友佑都の2人が引き出され、最終ラインは伊野波とDF吉田麻也になっていた。スルーパスが出た瞬間、吉田はラインを上げたが、伊野波は残ったまま。微妙なタイミングではあったが、副審の旗は上がらず、セバスチャンに最終ラインの背後を取られた。
「オフサイドかなと思ったけど……。それも反省ですね。(吉田)麻也が瞬間的に上げたので……」。伊野波はこの日が国際Aマッチ初先発だった。しかもポジションは本職とは違う右SB。17日のサウジアラビア戦(5-0)で後半の45分間プレーしていたとはいえ、「(SBを)やったのは鹿島で2年前ぐらい。2年のブランクは重いなとやってみて感じた。サウジ戦は相手があんなだったし、45分しかやっていなかったから」と、なかなかリズムに乗れなかった。
前半29分に香川のゴールで追い付いたが、後半18分に吉田が2枚目の警告を受け、退場。数的不利に立たされると、このプレーで与えたFKを直接決められ、1-2と再びリードを許した。「10人になって、考えてもしょうがないと思った。やるしかないと。そこで切り替えられたのがよかった」。追い込まれ、開き直った。伊野波だけでなく、チームの意思は統一され、これ以上の失点は避けるためにリスクマネジメントした上で少ないチャンスを狙いにいった。
後半26分に香川が再び同点弾。そして、同45分に伊野波の劇弾だ。「サウジ戦も今日の試合も、ああいう細かいプレーで抜け出すところがあったので、最後こぼれてくるんじゃないかって」。本能が体を動かし、ゴール前に詰め、予期していた通り、ボールが目の前にこぼれた。ザッケローニ監督は「10人でも相手を上回り、ハートのプレーを見せてくれた。10人でも勝ちにいった。その証拠にDFが決勝点を決めた」と力説した。総力戦で奪った決勝点だった。
次から次へと襲ってくるアクシデントをはねのけての4強入り。若きチームは一戦一戦、貴重な経験を積み、成長を続けている。長谷部は「1-2になって、心が折れそうになったけど、そこから盛り返すことができた。気持ちの部分が一番大きい。精神的に強くなったと思う」と言った。
いよいよ次は25日の準決勝。相手は韓国かイランだ。「優勝が見えてきたか?」と聞かれた指揮官は「次、準決勝をやれることが決まっただけ。あと2試合やれることが決まった。今は回復に努めたい」と慎重に語ったが、完全アウェーの中で勝ち取った劇的勝利がチームに大きな自信を与えたのは間違いない。
[写真]決勝点を決めた伊野波
(取材・文 西山紘平)
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アジア杯2011特集
思わずピッチに崩れ落ちた。10人で3-2の逆転勝利。劇的な決勝点を決めたDF伊野波雅彦(鹿島)は試合終了のホイッスルが鳴ると、精根尽きたようにしゃがみ込み、安堵の思いでチームの歓喜の輪に加わった。
「なかなか流れをつくれなくて、ミスも多くて……。攻撃でチームに迷惑をかける部分が多かった。最後に点を取れて、ちょっとチームに恩返しできたかなと思う」
チームメイトさえ驚いた。2-2のまま迎えた後半45分。延長戦突入かと思われた死闘に終止符を打った。セカンドボールを拾ったMF長谷部誠が鋭い縦パス。「(香川)真司が見えたし、ボールが来る前からあそこに強いパスを出そうと。真司がいいトラップをしてくれた」。正確なトラップでDFをかわしたMF香川真司はドリブルで切れ込み、GKもかわす。その直後に後方からMFムフターのチャージを受け、ボールがこぼれると、そこに伊野波がいた。
あとは左足で無人のゴールに蹴り込むだけ。長谷部は「伊野波がなんであそこにいたのか。それまでも(前に)行くなとベンチから指示もあったし、俺からも言っていたのに」と笑った。「あいつの気持ちもあったんだと思う」。名誉挽回の一撃だった。
前半13分、縦パス1本でFWセバスチャンに先制点を許した場面。パスの出どころにDF今野泰幸、DF長友佑都の2人が引き出され、最終ラインは伊野波とDF吉田麻也になっていた。スルーパスが出た瞬間、吉田はラインを上げたが、伊野波は残ったまま。微妙なタイミングではあったが、副審の旗は上がらず、セバスチャンに最終ラインの背後を取られた。
「オフサイドかなと思ったけど……。それも反省ですね。(吉田)麻也が瞬間的に上げたので……」。伊野波はこの日が国際Aマッチ初先発だった。しかもポジションは本職とは違う右SB。17日のサウジアラビア戦(5-0)で後半の45分間プレーしていたとはいえ、「(SBを)やったのは鹿島で2年前ぐらい。2年のブランクは重いなとやってみて感じた。サウジ戦は相手があんなだったし、45分しかやっていなかったから」と、なかなかリズムに乗れなかった。
前半29分に香川のゴールで追い付いたが、後半18分に吉田が2枚目の警告を受け、退場。数的不利に立たされると、このプレーで与えたFKを直接決められ、1-2と再びリードを許した。「10人になって、考えてもしょうがないと思った。やるしかないと。そこで切り替えられたのがよかった」。追い込まれ、開き直った。伊野波だけでなく、チームの意思は統一され、これ以上の失点は避けるためにリスクマネジメントした上で少ないチャンスを狙いにいった。
後半26分に香川が再び同点弾。そして、同45分に伊野波の劇弾だ。「サウジ戦も今日の試合も、ああいう細かいプレーで抜け出すところがあったので、最後こぼれてくるんじゃないかって」。本能が体を動かし、ゴール前に詰め、予期していた通り、ボールが目の前にこぼれた。ザッケローニ監督は「10人でも相手を上回り、ハートのプレーを見せてくれた。10人でも勝ちにいった。その証拠にDFが決勝点を決めた」と力説した。総力戦で奪った決勝点だった。
次から次へと襲ってくるアクシデントをはねのけての4強入り。若きチームは一戦一戦、貴重な経験を積み、成長を続けている。長谷部は「1-2になって、心が折れそうになったけど、そこから盛り返すことができた。気持ちの部分が一番大きい。精神的に強くなったと思う」と言った。
いよいよ次は25日の準決勝。相手は韓国かイランだ。「優勝が見えてきたか?」と聞かれた指揮官は「次、準決勝をやれることが決まっただけ。あと2試合やれることが決まった。今は回復に努めたい」と慎重に語ったが、完全アウェーの中で勝ち取った劇的勝利がチームに大きな自信を与えたのは間違いない。
[写真]決勝点を決めた伊野波
(取材・文 西山紘平)
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