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“珍事”で生まれた悪夢のロスタイム13分から5失点、湘南のJ2降格決定

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[11.14 J1第30節 清水5-0湘南 アウスタ]

 11年ぶりのJ1の舞台をわずか1年で去ることになった。自力残留の可能性が消滅し、勝つしかなかった最下位の湘南ベルマーレだが、清水エスパルスに0-5の完敗……。今季4試合を残して来季のJ2降格が決定した。

 反町康治監督は試合後のテレビインタビューで、涙ぐみながら「サッカーが45分で終わるというルール変更があればいいが、90分やると実力の差が徐々に出てきてしまう」と頭を垂れた。そこにはいつものユーモアを交えたコメントを残す指揮官の姿はなく、ただただ悲壮感だけが漂っていた。

 まさに崖っぷちで臨んだ一戦だった。湘南は勝ち点が16で、同29の15位F東京と16位神戸の残り5試合で13差だった。つまりこの日勝利したとしても、F東京か神戸が勝てば残り4試合で同13差と逆転が不可能。絶望的な状況だったが、わずかな希望に賭けて戦った。

 清水に攻め込まれるも、必死の守りで耐え抜いた。そんな中、前半20分に前代未聞のトラブルが起きた。湘南の左CKをニアサイドでクリアしたGK西部洋平が勢い余ってサイドネットへ突っ込むと、何とゴール左上部角(清水にとっては右)の部分が折れて破損する珍事が発生した。

 清水の選手の助けもあり、急遽スタジアム2階からゴールネットをロープでくくるという応急処置を施した。この復旧作業にかかった時間が約11分間。これが湘南の“悪夢”につながった。

 この時間を中断とはせず、ロスタイムで処理したため前半のロスタイムは前代未聞の『12分』と表示された。0-0と何とかしのいでいた湘南だったが、終了間際の前半58分、MF小野伸二に見事な右足シュートを決められ、最悪の時間帯に先制点を喫してしまった。

 勝つしかない湘南だが、後半も見せ場を作ることはできない。DF村松大輔を負傷で欠く守備陣は立て直すことができず、後半12分に再び失点し0-2とすると、同19分にはDF臼井 幸平がPA内でFW岡崎慎司を倒してしまいPKを献上。これを藤本に決められ0-3となった。

 どうにか流れを変えようと、MF田村雄三とFW阿部吉朗に代え、MF馬場賢治とMFハン・グギョンを送ったが、清水の勢いは止められなかった。

 まさにお手上げ状態で、後半37分、43分にも立て続けに失点……。FW田原豊が前線で体を張って仕掛けるなど最後の意地を見せたが、ゴールは奪えずに5-0で試合は終了した。湘南の選手たちは降格が決まった瞬間、うなだれるよりも、大事な一戦で0-5で大敗したという現実を受け入れられていない表情を見せた。

 苦しい1年を象徴するかのような最後だった。もともと選手層が手薄なうえ、攻撃の軸となるはずだったFWアジエルが怪我もあって退団。守備の要であるDFジャーンなど実に12人選手が負傷で手術を受けるという“災難”に見舞われた。シーズン途中に、浦和から元日本代表GKの都築龍太を獲得、またMFエメルソン、FWヴァウドを獲得した。都築は奮闘したが、外国人選手2人は助っ人らしい活躍ができず、状況を上向かせることはできなかった。

 試合後、あまりにも呆気なく降格決まった湘南サポーターは、ゴール裏で選手たちと同様に呆然と立ち尽くしていた。すると清水サポーターから「ベルマーレコール」。これに奮い立たされるかのように敵地・アウスタまで足を運んできたサポーターたちは「エスパルスコール」を繰り返した。

 サポーターは最後までチームを支えたが、フロントにはそれに応えるための“改革”が必要だろう。降格の責任は反町康治監督にあるのではなく、怪我人などの不測の事態になったと分析し、クラブ側は続投要請を出している。指揮官の手腕に問題がなかったとすれば、責任は強化策に失敗したフロントにあったといえる。社長以下、補強に携わった強化スタッフには、何らかの責任を負うことが求められるだろう。

 今季残りは4試合。降格は決まったが、来季へつながる戦いをしなければいけない。名古屋、G大阪、C大阪、新潟と強敵との対戦を残すが未来につながるプレーを見せ、応援してくるサポーターに“希望の光”を見出させる試合にしなければならない。

(文 片岡涼)

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