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[アンプティW杯直前特集]欧州で認められた男・日本代表の萱島を強くした母の涙

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萱島比呂(右)はスピードを生かしてボールを奪いにいくのが得意

 アンプティサッカー日本代表は26日、早速メキシコの地元クラブチームと練習試合を行い、15分×3本の変則方式で7-0と快勝した。メキシコの太陽に照らされたFP萱島比呂は笑みを浮かべていた。 

 「W杯でベスト4を目指していますが、行くからには全部勝ち、優勝するつもりで頑張ります」

 出発前の壮行会でそう宣言した萱島は昨年6月、日本代表はポーランドで開催された「AMP FUTBOL 2017」に参戦。地元ポーランドに加え、W杯の優勝候補イングランド、アイルランド、フランス、ギリシャが参加し、日本代表は3位に終わったが、萱島は大会MVPに選ばれた。決して大柄ではないが、相手のプレーを先読みして屈強な男たちからボールを奪うプレーなどが目の肥えた欧州の大会関係者から高く評価された。

 萱島は、中学時代に骨肉腫により右足を失い、アンプティサッカーのピッチに立つプロセスで、心身ともに竹のようなしなやかな強さが備わった。

「中学入学後は普通のサッカーをしていたんですが、足がずっとあったので(切断する手術によって)サッカーできなくなる感じがなかった。でも手術して目が覚めたときに『ああ、やっぱり無理なんや』と。ただ悩む性格ではないので切り替えようかな、と。暗くなることはなかったですね」

萱島(中央)の周りにはいつも笑い声がある

 手術前、手術後と抗がん剤治療を受け続け、入院期間は1年間に及んだ。日中は自営業の父・達治さん、夜寝るときは仕事を終えた母・紀代美さんが付き添い、母は病棟から出勤していた。その献身的な両親の姿が、萱島をすぐに前を向かせる原動力になっていた。

「抗がん剤治療は精神的にきつく、体もだるかった。一日中眠れないんです。眠れなくてイライラして、ストレスが溜まりました。でも治療がきつくなってくると、僕より母の方が泣いていたんです。その姿を見て、『ありがたい』という思いと同時に『申し訳ない』という気持ちが沸き上がってきた。僕が落ち込むと両親に心配をかけてしまうので、逆に心配をかけたくないという思いが、切り替えようとさせたのかもしれません」

 日本代表がいるグループリーグのC組は、日本時間31日の第3戦・ポーランド戦で勝てるかどうかが、今大会の浮沈のカギを握る。昨年の対戦では、1-6と完敗したが、唯一ゴールを決めたのが萱島だった。サッカーに置き換えればサイドバックの位置に入ることが予想される萱島は、両親への感謝の思いを胸にしまい、縦横無尽にピッチを走り回るつもりだ。

(取材・文 林健太郎)

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