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メルカリ小泉社長の告白② 「アジアを制した鹿島アントラーズにやってほしかったこと」

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 アプリダウンロード数が全世界で1億を超える国民的フリーマーケットアプリとなったメルカリは2017年から、Jリーグの常勝軍団、鹿島アントラーズのオフィシャルスポンサーとなった。創業3年たらずの2016年の6月期に初めて黒字化したことを機に、小泉文明社長兼COOは文化的な事業にも着手した。

「アントラーズさんとは人的な関係性があったので、最初に話をさせてもらったのがきっかけです。僕自身も鹿島ファンでしたし、柴崎岳選手と仲良くさせてもらって、そのつながりもあって(鹿島と)話をすることができました。僕の父親の実家が鹿島の隣町で、鹿島はよく知っていた場所でもあります。もちろん、メジャースポーツの強いチームと一緒にやれば、社外に対するメッセージのインパクトもあると考えていました」

 日本代表の柴崎とはどんなやりとりを続けているのだろうか。

「(昨年夏の)ワールドカップ期間中はLineでやりとりしていました。その後はお互いに忙しくてなかなか会えていないんですけどね。(柴崎)岳選手とかのゲームの組み立て方、チームのマネジメントは、僕らがやっている仕事とすごく近しいところ、また全然違うところもあるので、話をしていて面白いですね。ほかにも本田圭佑選手は、ビジネスの話をしたり、(本田が所属していたメキシコの)パチューカ―の家に行かせてもらったりもしました」

 昨年11月、鹿島はアジアチャンピオンズリーグ(ACL)の決勝でペルセポリス(イラン)と対戦。特に11月10日で行われた決勝第2戦が行われたアザディスタジアムは8万人収容で、ほぼ敵のサポーターで埋め尽くされた中、0-0とよく耐え、8度目のACL挑戦でクラブ史上初のアジア王者に輝いた。この優勝で主要タイトル20冠も達成。スポンサー冥利につきる結果だが、小泉社長はある心残りがあった。スポンサーの社長ではなく、ひとりの鹿島サポーター目線でこう明かす。

「(ACLの)決勝でイランに行く前に、イランに応援に行くサポーターの渡航費を捻出するクラウドファンディングをやってほしかったんです。僕もそうですし、鹿島サポーターもおそらくそうだと思いますけど、当時イランに応援しに行く人たちに対して『渡航費出すから、俺のために応援に行ってきてよ』みたいな気持ちだったんじゃないかと思います。34型のテレビを買うより、5万円、10万円のサポートをしてあげるほうが僕の心は満たされたかもしれない。敵地で8万人近いサポーターが集まって、完全アウェーの中で優勝したことにすごい感動しましたが、テレビを見ていただけである意味、お金が十分に循環しなかったのがもったなくて……。クラウドファンディングが実現していれば、優勝したことと重なって一番心地よかったと思うんです」

ACLを初制覇して喜ぶ鹿島イレブン

 自分が応援しに行って歓喜に浸るのではなく、応援に行く人をサポートすることに喜びを感じる。なぜなのか。それは現状を踏まえた小泉社長が予想する社会の未来像と重なってくる。

「今のソーシャルメディアの発展の仕方を見ると、みんなが他人からの『承認欲求』を追いはじめている。みんなに承認されたい、どう見られているんだろう、みたいな。それまでは可視化されなかったのに、今は『いいね』の数などでわかるようになってきた。承認欲求が満たされることに快感は覚えるんですが、一方でこれってすごく疲れるんですよ。それに、今まではアスリートを応援するツールや機会は限られていたと思うんですが、いろんなメディアが登場することによって、チャレンジしている人たちのストーリーがわかるようになってきた。そのストーリーに共感して応援できる環境が整ってきている。承認欲求はなくなりはしないけど、自分の欲求を満たすだけではなく『自分が誰々さんを応援したい』という他人の夢を叶えることで自己の満足度が高まるようなマーケットが大きくなるんじゃないかと思っています」

 小泉社長は今後、さらにテクノロジーが進化することで、スポーツ、芸術といった文化的な要素の必要性が増すと予測している。

「お金だけの豊かさを追う時代はもう終わりはじめていると思っています。戦後、『生きていくには頑張らないといけない』『稼がなきゃいけない』という発想で生活してきたと思うんですが、今の若い人たちはある程度豊かな社会で育ってきているので、『生きるコスト』が低くなっている。生き甲斐がお金を稼ぐことではなく、文化的な側面に振り向くと考えています。今後、ロボティックスやAIなどど共存していくと、週休2日制が、週休3、4日になる可能性がある。仕事を効率的にできるようになってきたとき、文化的な豊かさがないと、生きている意味を見出せなくなり、楽しくなくなりますよ。金銭的な幸せも当然あるんですけど、心の豊かさが大事になってくる。僕はよく驚かれるんですが、日々スマホを介して仕事をしているのに、雑誌が大好きなんです。あの香りや紙の質感、素材やサイズも雑誌によって違う。そこに作り手の『魂』みたいなことを感じられます。テクノロジーの進展で変わることも多いと思いますが、芸術・音楽・スポーツのような文化的な活動による豊かさの実感はテックが進めば進むほど、むしろ増大すると思っていますし、人間が全員、本質的に持っているんじゃないかと思うんです」

 プロスポーツのチームだけでなく、森美術館のスポンサーもしているメルカリは、人間の心を豊かにすることと、テクノロジーの進化は対立軸でとらえず、むしろ豊かさを醸成するために利用できる、と考えている。メルカリは世界を目指す鹿島やパラリンピック、ワールドカップを目指す障がい者アスリートたちの支援を通して、新しい文化を創るヒントを探し続ける。



(取材・文 林健太郎)

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