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[選手権]プレーの重さと軽さの妙(国学院久我山vs松山北)

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[1.2第87回全国高校サッカー選手権大会2回戦 国学院久我山(東京B) 7-1 松山北(愛媛) 西が丘]

46年ぶりの出場となる松山北(愛媛)が地元の国学院久我山(東京B)に挑んだ。しかし一度傾いた流れを変えられず、後半に5点を献上、7-1で国学院久我山の勝利に終わった。国学院久我山は3日の3回戦で那覇西(沖縄)と対戦する。

7点大勝にも国学院久我山の李済華監督(53)の言葉は厳しかった。「緊張感が足りない。いつものことといえばそうなんだけど」。そう言って7点のゴールよりも1点の失点を悔やんだ。

試合自体は「見ている子供たちが憧れるような、カッコイイ攻撃サッカー」(李監督)を標榜する国学院久我山の強さが前面に出た。松山北の登録メンバーで3年生はDF兵頭陸主将一人。ほかは全て1、2年生というフレッシュなチームが立ち上がりから固さの見える国学院久我山を押し込んだ。しかし、10分過ぎからじょじょにペースは国学院久我山へ。つなごうという意識は両チームともにあるが、完成度は国学院久我山が上手。松山北はプレッシャーがかかる場面になるとどうしても蹴りだしてしまい、セカンドボールを拾われる。その連続で支配権を奪われていった。

国学院久我山は卒業後FC東京入団が決まっているMF田邉草民(3年)中心のチーム。基本右サイドに位置しているが、状況に応じて中央や左にも顔を出す。ドリブル、パス、シュートどれもクオリティが高く、彼にボールを集めるのがチームの方針だ。かといってワンマンチームでもない。田邉のポジションチェンジにボランチやサイドバックが反応してバランスをとったりフォローする姿勢は、個々の確かな基礎技術にも裏打ちされスキがない好チームに仕上がっていた。

前半12分にその田邉がゴール、39分にも田邉がらみでこぼれ球をFW松村和磨(3年)がゴール。国学院久我山の描いたほぼ青写真どおりに試合は進む。唯一、32分に許したカウンターから松山北のMF続木崇浩(2年)に決められた失点のシーンは、集中力が途切れ、攻守の切り替えが遅れた一瞬を突かれたものだった。後半はこの失点を薬に気を引き締め、ボールへの寄せも速くなり、田邉を中心にゴールを量産。最後の20分は足が止まった松山北のDF陣をパスとドリブルで蹂躙した。

田邉は言う。「うちは練習時間が長くても2時間半。走り込みもほとんどしない。ミニゲーム、練習試合といったボールを使ったメニューで最後まで走りきれと言うスタンス。でもそれでスタミナがない、ということにはならない」。
年間で走り込みは10日もない。遠征も20日程度。朝練や夜遅くまでの特訓もない。「悪く言えば鍛え込みが足りない。でもサッカーはボールを動かすもの。下手だから走るのではなく、上手くなってから走ろうよ、と言っている」(李監督)という既存の部活サッカーの意識脱却を試みる国学院久我山のサッカーは高校サッカーに新たな魅力を運んできてくれた。

兵頭陸主将の父でもある松山北の兵頭龍哉監督(47)は「選手権はすごいところだと、ものすごい経験になった。松山北という高校名が強豪校とならび活字になり、これまで何もない人生で自信になった。久我山とやってよかった、と言えるかどうかは、1、2年生のこれから次第だと思う」と大敗に対して謙遜した。だが一方で試合後のロッカールームには、慰めといった雰囲気はなく叱責の言葉が飛んでいた。すでに新チーム作りへと動き出している。
大敗はしたものの光明もあった。1点のゴールシーンは相手の気の緩みを突いたものだったが、前半20分の右サイドを3人がダイレクトで崩し中央へのセンタリングをFW金橋淳(2年)がシュートしたシーン。惜しくもゴールにはならなかったが、松山北がやりたいプレーが凝縮されていた。後はどれだけそのシーンを増やせるか。

この試合、序盤はノープレッシャーの松山北の方がいきいきしていた。しかし、ボールへの体の入れ方、追い方といった執着心が試される場面でことごとく国学院久我山の後手を踏んだ。意図はわかるが粘りがない。軽快なプレーはときにファンタジックにも、軽はずみにもなる。見ている者の印象としては、この試合では後者の顔が出た。フィジカル、メンタルともにその点が改善されるだけでチームのポテンシャルが開花しそうな予感がある。現在の1、2年生が最終学年になるこれから1~2年後に、今日の試合の成果が見える瞬間は必ず訪れる。

<写真>ゴールを喜ぶ國學院久我山イレブン
(取材・文/伊藤亮)

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