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ヒディンク監督来日。ユースの育成理論を熱弁

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 チェルシー前監督でロシア代表監督であるフース・ヒディンク氏が来日。22日、埼玉スタジアム2002で開催された「NIKE COACHING FORUM~フース・ヒディンク氏によるユース世代育成論~」に登壇した。講演ではユース年代の育成に関する"ヒディンク哲学"を熱く語った。

 ユース世代の指導者を対象としたこのイベントでは、ヒディンク監督に加え、浦和レッズアカデミーセンター長の矢作典史氏、帝京高校サッカー部監督の廣瀬龍氏、そして息子たちがユース年代の日本代表にも名を連ねる元プロ野球選手・高木豊氏がゲスト出演。3人の質問にヒディンク監督が答える形で行われた。

 ヒディンク監督は自身の育成理念として、「まずはなるべくボールになじませること。エクササイズではつねにボールに関わっていること。自分が学生のときは林を走らされるなどフットボールと関係ないことをさせられたが、重要なのは練習の9割はボールと関わっていること。テクニカルなスキルは完璧でなくてはならず、14-18歳で(学びはじめるの)も遅いぐらい。6~13歳ぐらいまでに毎日ボールハンドリングやパスなどをするのが理想的」と語った。

 高木氏から「息子たちが海外に行った際、発想力、アイデアが足りないと言われた。どうすれば発想力は生まれるか?」と質問されると、「練習で、監督は(選手たちに)オプションをすべて見せないようにすること。監督、コーチが持っているソリューションをただ見せるのではなく、選手たち自身に解決させることが重要。そのプロセスにすぐにコーチが入ってはいけない。コーチは『こうしろ、ああしろ』と選手たちに自分の考えを押しつける傾向にあるが、それは忘れたほうがいい。『他にどんなオプションがあったのだろうか?』と選手たちに考えさせる練習が必要」と話している。
 なお、「過去の指導経験でもっともクリエイティビティのあった選手は?」(高木氏)という問いには、PSV時代のロマーリオ(元ブラジル代表)、R・マドリー時代のミヤトビッチ(元ユーゴスラビア代表)、そして母国オランダ代表を率いていた際のベルカンプの名前を挙げた。

 エースといわれる"特別な選手"との関わりについては、「スターはチームに大きな責任を持つ。しかしスターも必要だが平均的な選手もチームには必要。平均的な選手たちの"サービス"があってスターが活きる。たとえばロマーリオはスターだったが、ロマーリオを活かすにはMFが彼のために動かないといけない。そこでロマーリオをMFに入れて、そのMFをFWに入れて練習を行った。ロマーリオはこのポジションをうまくできなかった。こうやって互いに理解させることが大事」と秘訣を語った。

 また、話は02年W杯、06年W杯時の日本代表にもおよんだ。
「00~02年の頃の日本代表は非常に有望だと言われていた。スキルがあるテクニカルな選手が多く、『ボールは友達』と言えるほどボールを完璧に扱い、両足ともに動いていた。
 06年W杯でオーストラリア代表監督として対戦したときも、日本のことは分析した。スキルはある。攻撃もうまい。しかし戦術がオープンすぎることがあった。MFとDFの間にスペースがありすぎ、また、試合後半には疲れてしまう弱点があった。
 W杯前のドイツ戦、日本は1時間は素晴らしい試合をしたにも関わらず、最後の数十分はフィジカル、組織の強みが消えていた。こういう経験から学んでいく必要がある。日本のみなさんが(W杯を)どのように分析し、反映したのか興味がある」
 フィジカルについては、「最先端のサッカーはこの先どうなるか?」という問いに対し、こう答えている。
「運動能力が高くある必要がある。スタミナが非常に重要で、90分走りきらなければならない。その中で高いパフォーマンスを見せるためには、リカバリー能力が大切になってくる。02年の韓国、08年のEUROでのロシアともにこのリカバリー能力が高かった。フィジカルは長期的に取り組む必要があるため、育成・トレーニングにとって重要な要素になる」

 さらに矢作氏から「パク・チソンをどうやって(アジア人初となるCL決勝出場ができるほどの)高みにまで連れて行ったのか?」と聞かれると、彼に関するエピソードを披露。「彼はパフォーマンスはよかったが、ちょっとシャイだった。韓国代表でもPSVでも最初は実力を発揮できなかった。とくにW杯後にPSVに行ったときはつらかったと思う。ブーイングも浴びた。W杯でいいパフォーマンスを見せたが、昔に戻ってしまった。しかし、その後話し合いをした。"対立"といってもよかったかも知れないが、『お前ならできる』と話し、彼のポテンシャルを10-15%は上に引き出すことができた。最終的に彼は(PSVサポーターに)愛される選手となった。私は彼にツールを与えただけ。彼がそれを活かした。欧州CLでプレーする選手に成長したことを誇りに思う」と"教え子"の成長を誇らしげに語った。

 なお、講演のあとには、三菱養和FCの選手たちを実際に指導する実演講習も行われた。ウォーミングアップから2対2、ボックス内での6対2、そしてミニゲームを指導。このトレーニングの間、ヒディンク監督はとくに「ファーストタッチ」「その最初のタッチでDFを動かすこと」「1対1(を仕掛けて勝つこと)」の重要性を説いていた。

<写真>22日、熱く自身の育成哲学を語ったヒディンク監督

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