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熊田が大一番で決勝ゴール!プレミア入り懸けたナイキ『THE CHANCE』高校生2選手に最後の審判

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 世界的スポーツブランドのナイキが才能ある若きフットボールプレイヤーを世界中から発掘するプロジェクト『THE CHANCE』は世界最終セレクション最終日の22日、一次選考を突破した32名を2チームに分けて合格者8名を決める選考試合(25分×3本)を開催。世界40を超える国々から約75,000人が参加したプロジェクトの最終選考に残った日本人高校生選手、MF熊田陽樹(流通経済大柏高)とMF木下ロベルト(益子芳星高)はチームメートとしてそれぞれ2本目と3本目に出場し、熊田が3本目16分に2-1となる決勝点を決めるなどアピールしたが、合格者8名に名を連ねることはできなかった。韓国人MFムン・ソンミン、オーストラリア人MFトマス・ロジックのアジア勢2人を含む合格者8名は、イングランドプレミアリーグがサポートする「ナイキアカデミー」に入学し、プレミアリーグクラブとのプロ契約を視野に用意されたエリートプログラムを1シーズン受ける機会が提供されるという、プロ入りへの大きなCHANCEを得た。
  
 「今回、(海外から)日本人の見方は変わったと思う。日本人の技術は世界でトップクラスだし、体力も運動量もある。自信持っていい。(自分自身)点決めたりアシストすることが2日連続でできた。でもずっと長くアピールできるようにしないといけない。継続的にしなければいけなかったのにきょうは(活躍が)単発だった。(日本人が合格するためには)どれだけ長くいいプレーをすることができるかだと思う」。選考試合で大きな結果を残しながら惜しくも落選した熊田は悔しさをにじませながら、来年以降、日本から『THE CHANCE』に挑戦するであろう「後輩」たちにメッセージを送った。

 今回、世界各国からロンドンに集まった最終セレクション挑戦者はプロ契約を結んでいない99名。スカウト網が発達し10台半ばで欧州ビッグクラブなどから“青田買い”されている選手が数多くいることを差し引かなくてはならないが、日本人のスキルは十分に世界で通用した。この日の選考試合では木下が右SBとトップ下、そして左MF、熊田が右MFとして出場。2本目3分にはドリブルで仕掛けた熊田が左SBナイサン・クラレンス(南アフリカ)をパワーで上回り、相手を引きずるかのような突進でFKを獲得。8分には右サイドで再三フリーランニングを繰り返していた木下の前方のスペースへボールが出され、抜け出した木下がクロスボールを放り込む。

 言葉の壁は感じさせなかった。木下は得意のスペイン語を生かし、また熊田も英語で必死にボールを要求。熊田は「寄こせ」とばかりに左サイドまでポジションを動かしボールを引き出すと、そこから強引にシュートにまで持ち込んだ。一方の木下は常に上下動して、特に攻撃面ではパスが出てくればビッグチャンスになっていたような場面が何度もあったが、選考試合では今まで以上に一人よがりのプレーをする選手が多かったこと、また「アイツら(海外選手)見れていないし、(スキルが低いために)逆サイドへの展開とか出せないんですよ。ポジショニングは間違いなく日本人の方が上」と残念がったように、奮闘を見て感じてくれる選手がいなかったことで十分なアピールができなかった。

 その献身的な動きとポジショニングのよさは他国の選手を上回っていた。だが「状況判断の速さはみんな早い。プレスに行くときの状況判断とかが自分には欠けていた。(一方で)フィジカル面は意外とやれてすごく勉強になった。ドリブル、パスも通用したと思う。ただ自分的にはボディコンタクトに自信があったけど、通用しなくて。どうすればいいか考えていたけど、最後のゲームでつかめなかった。勝負強さも欠けていた」。3本目には右サイドを切れ込んでから熊田へヒールパスを通し、攻撃参加から長い距離を走って守備で貢献するなど、「調子が悪かった」中でできることを貫いた。だが、右SBとして出場した2本目にずば抜けた運動量を見せたことが影響し、攻撃的なポジションへ移った3本目に足が止まるなどチャンスを引き寄せることができなかった。

 一方の熊田はこの日結果を出した数少ない選手のうちのひとりとなった。2本目開始直後に右足首を削られ出血していたが3本目16分、敵陣でインターセプトしたMFバルトゥウォミェイ・カプツァーがラストパス。これを右サイドで受けた熊田が痛めている右足でゴール左隅へとシュートをねじ込んだ。「悔いないようにやっていた。(ゴールを決められて)悔いないです」と語った熊田。最終日を前に落選したMF平野伊吹(尚志高)とMF宮崎弘輝(法政二高)から「日本人として頑張れ。期待されている。行けるよ」と送り出されていたが、これは高校生4人による“チーム・ジャパン”の意地のゴールでもあった。

 熊田はその後ドリブル突破した際に左足も削られ、立っているのがやっとの状態。試合終了まで戦い抜いたが、木下とともに合格にすることはできなかった。簡単にボールを失うことがあったこと、また攻撃から守備時の切り替えの遅さ、ポジショニングなど攻撃的にプレーした代償が自らを合格から遠ざけたのかもしれない。木下は言う。「まだ(合格する)レベルには遠いなと。(周りの)みんな、うかるのに必死だった。これに圧倒された感じだった。日本ではこんなに必死になってプレーしない。タックルひとつにしても相手は厳しかった」

 CHANCEをつかなかったことは確かに悔しい。ただ4選手は合格発表後、それぞれ前を向いていた。宮崎が「これから入る大学サッカーで周りの人が経験できていないことを自分はできた。これをプラスにしたい」と語り、平野も「すごく大きなチャンスだった。この悔しさを次のステップアップにつなげたい」と宣言。ポルトガルの英雄、MFルイス・フィーゴは前日、敗者たちへ向けて「がっかりするだろう。でも人生は長い。将来またチャンスはやってくる。いつも新しい日が始まる。だからまたよくなると思ってほしい。悪い時期を通過して自信をつければいい。いつもポジティブに。今回失敗したからといって終わったわけではない。次はもっと上手くなりたいと思ってほしい」とエールを送っていた。

 今回参加した日本人高校生4選手の目標は将来プロ選手になること。今回は残念な結果に終わったが、フィーゴの言葉通り、再び来るであろうCHANCEまで自分を磨き続けて、次回こそプロの夢を手繰り寄せる決意だ。

[写真]選考試合3本目16分、熊田が右足で決勝ゴールを決める
(取材・文 吉田太郎)

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