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[総体]熊本制覇も「通過点」全国で勝負する熊本国府が「震災に負けない、強い熊本を」示す

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[6.7 総体熊本県予選決勝 熊本国府高 1-0 熊本商高 エコパーク水俣陸上競技場]

 平成28年度全国高校総体「2016 情熱疾走 中国総体」サッカー競技(広島)熊本県予選決勝が7日に行われ、新人戦優勝の熊本国府高が1-0で古豪・熊本商高に勝利。県内2冠を達成したと同時に、15年ぶり3回目となる全国大会出場を決めた。

「全国に出て満足というレベルでは自分たちはまだ。自分たちのサッカーをして勝つことを目標にしなければいけない」。全国に出ることを目標にしていたら、全国で戦うことのできるチームにはなれない。元福岡DFの熊本国府・佐藤光治監督は熊本代表として全国に出る資格のあるチームになること、そしてプライドを持って戦い、勝つチームになることを求めてきた。だからこそ、熊本制覇を果たした選手たちの口から出たのは「通過点」という言葉。閉会式で「震災に負けない、強い熊本を見せつけてほしい」というメッセージを受けたチームは佐藤監督が「色々な人の支えがある。笑顔で、元気にサッカーできていると見せないといけない」と語ったように、熊本代表は全国舞台で元気ある戦いを見せ、ひとつでも多くの白星を勝ち取る意気込みだ。

 大会5連覇中でプレミアリーグWESTに所属する大津高が準決勝で敗れるという衝撃が走った熊本予選。ジャイアントキリングを成し遂げた熊本商と熊本国府との決勝は5分にFW杉田達哉(3年)がクロスバー直撃の左足ミドルを放つなど、立ち上がりから熊本国府が主導権を握って攻める。MF坂本幸広(3年)らがボールを動かし、ともにキープ力に長けた10番MF池本葵(3年)とMF井手口凌我(2年)の両ワイドを起点に得意のサイド攻撃。抜群の運動量を武器にアップダウンを繰り返す右の北脇拓海(3年)と高精度の左足を持つ左の尾上りつき(3年)の両SBが敵陣の深い位置へ再三入り込んでクロスを上げるなど、ゴールへ迫る回数を増やしていく。 
 
 だが、熊本商もある程度押し込まれることは織り込み済み。「昨日よりも今日、格好良くやるんだよ」「何があってもバタバタするな」とピッチへ送り出されていたチームはCB松本祐誠主将(3年)とCB松永大輝(3年)中心に我慢強くボールを跳ね返すと、MF有川翔太(3年)の配球から突破力のある左MF上村明司(3年)が仕掛けてクロス、シュートへ持ち込むなどカウンター攻撃で反撃した。控え部員たちの活気あふれる応援にも後押しされた熊本商は大津に勝利した実力を示していたが、先制したのは熊本国府。22分、右サイドを起点とした攻撃からFW宇室航平(2年)が落としたボールを杉田が右足で連続シュート。2度DFにブロックされたが「7番(坂本)が呼んでいたんですけど、自分で決めたいのもあったし、昨日、一昨日と決めれていなくて最後エゴった部分もあったんですけど、迷わず振りぬくだけだった」とチャレンジした3本目の左足シュートがゴール右隅を破って先制点となった。

 熊本商は先制された直後に大津戦で決勝点の10番MF大津勇人(3年)を投入。そして後半7分には準決勝で同点ゴールを決めている左MF岡野樹(3年)をピッチへ送り込む。だが、熊本国府は守備的MF渡辺智貴(3年)が大津へのパスを入れさせず、中央でインターセプトを繰り返す。それでも熊本商は後半に押し返してクロスやセットプレーの回数を増やしたが、今大会無失点の熊本国府は熊本を代表するCB久野龍心(3年)とCB藤田海輝(3年)のコンビやGK生田千宝(3年)が鉄壁の守りを披露。高さで差をつけて相手の攻撃をほぼ完璧に跳ね返すと、スペースのボールに対しても的確なカバーリング、また高いDFラインを設定してオフサイドを奪うなど、要所を締めて得点を許さない。宇室や後半途中に投入されたFW高原悠太主将(3年)が推進力を生み、チャンスをつくりながら2点目を奪うことができずに苦しんだ部分もあったが、それでも快勝で全国切符を勝ち取った。

 熊本地震から熊本国府が全体練習を再開したのはゴールデンウィーク後になってからだという。被災した影響によって、隣県の福岡や鹿児島出身の寮生たちは実家へ戻り、選手たちはバラバラに。この日決勝点を決めた杉田は「何より、みんなとサッカーできた時の喜びが凄かった。自分は小学校の時の監督が福大のOBの監督で、連絡取ってもらって福大で練習していました」。またMVP級の活躍を見せた渡辺は「学校は5月10日からだった。部活始まるまではボランティアをやっていました。地震の時にボランティアで物資を配りに行ったりしていたのでそういう人たちにも頑張っているのが届けばいいと思っていました」

 全体練習を再開するまで時間を要したが、自主練習するためにグラウンドが開放され、その中で各々ができることからスタートした。コーチングスタッフたちが驚くほど、選手たちは自主的なボランティア活動を行う中で、個々が全国で勝つチームになるための準備を欠かさなかった。チーム全員が揃った5月10日から1か月弱で迎えた決勝。走力の部分など不安もあったというが、チームは伝統の堅守、そして今年の特長でもあるサイド攻撃を駆使してタイトルを獲得した。久野は言う。「地震とかで1か月くらい動けなかったので、どうなるのかな正直思ったんですけど、こうやって大会を行ってもらえましたし、学校の先生とかサポートしてくれたので結果で支えてくれた人たちに恩返ししていきたい」。全国で戦えるチームになることを目指してきた熊本国府が、全国で地域に勇気を与える戦いを見せる。

(取材・文 吉田太郎)
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