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フットサル仕込みの技術はピカイチ。駿台学園FW大熊悠希が有するしなやかな強さ

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フットサル仕込みの高い技術を誇るFW大熊悠希

[6.12 インターハイ東京都予選準々決勝 國學院久我山高 1-2 駿台学園高]

 いくつもあった選択肢の中から、この学校を選んだ時点で心に秘め続けていた目標が、もう目の前まで迫っていることに、喜びと興奮を隠せない。「高校サッカーをやるって決めてからは、ずっと全国大会に気持ちが向いていました。入学当初から絶対に全国に出たいと思っていて、それが本当にあと一歩というところに来て、ちょっと興奮状態ですね。次の相手も倒して、全国に行きたいです」。初めての全国大会を目指す駿台学園高を牽引するキャプテン。FW大熊悠希(3年=LARGO FC出身)のしなやかな強さが、新しい景色が見える場所へとチームを導いていく。

とにかく、上手い。都内では群を抜いた技術を誇る國學院久我山高を相手に回しても、そのテクニックは全く見劣りしないレベルで通用していた。巧みに身体を使い、ボールをキープしたかと思えば、数人に囲まれた密集から浮き球のパスを繰り出し、状況を打開してみせる。

 聞けばLARGO FCに在籍していた中学時には、フットサルで全国大会を経験しているという。「フットサルのチームからは結構声が掛かっていたんですけど、お兄ちゃんが高校サッカーをやっていてメッチャ楽しそうだったので、自分も『高校サッカーだな』と思って決めました」。自身で高校サッカーに3年間を捧げる覚悟を決め、駿台学園の門を叩いた。

 入学後はセンターバックを任され、2年時の昨年はサイドバックも経験。「中学の時はフォワードをやっていたんですけど、高校ではセンターバックをやって、高校2年生の途中からサイドバックをやりました。両足を使えるというのはサイドバックでも役に立ちましたけど、スプリントとか苦手で、体力もなくて、足も速い訳ではないし、キックが少しできるぐらいなので、サイドバックは向いてないなと思っていたんですけど(笑)」。

 新チームが立ち上がり、最高学年になった大熊は、練習である“アクション”に出る。「今年の代になって、練習していたらフォワードにいるんですよ。『このチームはフォワードがいないです」とか言っていて(笑)」と当時を振り返るのは大森一仁監督。だが、実際にフォワードでプレーしてみたら、抜群だった。

「『ああ、中学より上手くなってんじゃん』と自分でもビックリしちゃって、『オレ、フォワードに向いてるなあ』って(笑)」(大熊)「もともとフットサルをやっているので相手の押さえ方とか上手で、確かにここまでやれるんだったらしょうがないと僕らも認めて、『サイドバックをやらせるなんて、僕らの目が間違っていました』と(笑)」(大森監督)。最後の1年はフォワードを任されることになる。

 インターハイ予選も粘り強く勝ち上がり、臨んだ準々決勝の國學院久我山戦。前述したようにテクニックで対抗していた大熊が、前半33分に“泥臭さ”で輝く。右サイドでラインを割りそうなボールへ走ると、ほとんど倒れ込みながら絶妙のクロスを中央へ送り込む。

「追い付かないかなと思ったんですけど、気持ちで上げました。そうしたらオレが立ち上がった瞬間に、梅原がもうネットを揺らしてましたね」。MF梅原壮太(3年)のヘディングがゴールに収まり、貴重な先制点を記録。上手さだけではない大熊の執念が、チームに大きな勇気をもたらし、いったんは追い付かれたものの、後半アディショナルタイムの決勝弾で劇的な勝利を挙げることになった。

 チームの一体感にも、キャプテンとして手応えを掴んでいる。「話を聞かないヤツらばかりなんですけど、『やる時はやる』みたいな。今日も本当にみんな声を出してやってくれて、『オレが引っ張られてるんじゃないかな』と思うくらいで、チームで勝てたんじゃないかなと思います」。

「あとは、下からの追い上げが凄いんですよ。前も紅白戦をやったら、『絶対に勝つ』っていうBチームの気持ちが本当に伝わってきて、そういう気持ちが今日の試合でも絶対に力になっているので、この強さにはBチームの追い上げが大事なのかなと思っています」。Aチームだけではなく、駿台学園サッカー部全体として勝つ、ということの意味を実感している。

 駿台学園と言えば、スタンドに陣取るサッカー部員の自由奔放な応援がトレードマークだが、昨年から公式戦に出始めた大熊は、それを体感したことがない。「自分は応援を受けたことがなくて、昔のOBのビデオを見るんですけど、『応援されていて、いいなあ』って思います」と口にしつつ、すぐに続けた言葉が印象深い。

「今は自分たちの親たちも、SNSとかで『頑張れよ』と言ってくれて、そう言ってくれるだけで本当に力になりますし、ここに来られない部員も含めて、応援の力は遠くからでも届いてるので、そういう気持ちを背負ってやっています」。

 この男、ただ上手いだけのテクニシャンではない。プレーも、メンタルも、しなやかに強い大熊の存在が、駿台学園にとって悲願の全国出場へのカギを握っていることに疑いの余地はない。

(取材・文 土屋雅史)
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