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驚異の5試合連続“ウノゼロ”勝利で埼玉制覇!正智深谷は全国でもドラマの続きを演じ続ける!

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5試合連続“ウノゼロ”勝利で埼玉の頂点に立った正智深谷高

[6.23 インターハイ埼玉県予選決勝 正智深谷高 1-0 武南高]

 1-0。1-0。1-0。1-0。1-0。5試合続けて積み重ねた同じスコアでの埼玉制覇に、このチームの強みと凄味が存分に現れている。「すべて1-0のゲームで、失点ゼロで、1点獲って勝つと。“ドラマ完結”という感じで、ホッとしています。失点ゼロで埼玉県予選を抜けるというのは、やっぱり立派だなと思いますし、今回はその色がずっと最後まで出ていたのかなと。それが彼らの自信になって、『ここだけは僕らは負けない』という気持ちが伝わってきましたし、そこは信用できましたね」(小島時和監督)。23日、インターハイ埼玉県予選決勝、ともに7大会ぶりの全国を目指す正智深谷高武南高が激突した一戦は、前半に挙げた1点を正智深谷が守り切り、驚異の5戦連続となる1-0の勝利。日本代表のオナイウ阿道(横浜F・マリノス)を擁して、全国4強まで駆け上がった2013年以来となる、3回目のインターハイ出場を手中に収めた。

 勢い良くゲームに入ったのは、21回目の全国を狙う武南。5分に10番を背負うFW櫻井敬太(2年)が右カットインから、枠の上へシュートを飛ばせば、8分にもキャプテンのDF中村優斗(3年)が蹴った右CKから、MF水野将人(3年)が合わせたヘディングはゴール左へ。さらに、10分には決定機。左サイドからWBの加藤天尋(2年)がクロスを上げ切ると、飛び込んだ右WB重信有佑(2年)が枠へ収めたボレーは、正智深谷のGK小櫃政儀(3年)がファインセーブで凌いだが、幅を使ったダイナミックな攻撃で相手ゴールを脅かす。

 前半の飲水タイムまで、1本のシュートも繰り出せなかった正智深谷。押し込まれる流れの中で、「自分はまだこの大会で1点も決められていなかったので、この試合に懸けていた」というストライカーが、突如として眩い光を放つ。24分。ハーフウェーラインを少し相手陣内に入った所で、味方からのパスを受けたFW山口陽生(3年)は、GKの位置を確認しながら、「トラップしてすぐ前を向いたらキーパーが出ていたので、打っちゃいました」という約40メートル級のロングシュートにトライ。ボールは完璧な軌道を描き、ゴールネットへ突き刺さる。

「彼はエースとして見ているんですけど、ここまで1点も獲れていなかったので、練習でも『ハルキの番かな』とは言っていたんですけど、見事でしたね」(小島監督)「『本当に入ったのかな?』と思って、二度見しちゃいました(笑)。バックスピンを掛けて狙う感じで打ちました。イメージ通りです」(山口)。ゴールを決めた11番は、ベンチの方向へ一目散に走り出し、仲間と歓喜の抱擁。とんでもないゴラッソが飛び出し、正智深谷が今大会初めて前半でリードを奪って、ハーフタイムへ折り返す。

 後半も武南は、ボールをしっかり動かしつつ、時折サイドチェンジを交えながら、「右でも左でも真ん中でも、相手の状況を見て、空いている所に入り込んでいくことを目指しています」と内野慎一郎監督も口にするスタイルを前面に。中盤アンカーに入ったMF山田詩太(2年)の配球を起点に、3バックの左に入った中村も積極的に前へ上がるなど、アグレッシブなアタックを繰り返す。

 それでも、「自分たちは守備のチームで、1人1人が粘り強くて、我慢強くて、戦える選手が多いので、それが大きいと思います」とキャプテンマークを託されたCB森下巧(3年)も胸を張ったように、ここまで4試合続けて完封勝利を飾っている正智深谷の守備陣は堅い。「武南の戦術はインプットさせていたので、まあまあよく対応したと思います」と指揮官も語った“ロジック”を携えつつ、森下も、CB小屋結世(2年)も、さらに右の大澤航祐(3年)、左の深谷朋希(3年)の両SBも、身体を投げ出す“パッション”で、最後の局面ではシュートをGKまで届かせない。

 終盤は武南も怒涛のアタック。36分には重信が鋭い突破からクロスを上げ切り、途中出場のFW別所龍馬(3年)が合わせたヘディングは枠を捉えるも、小櫃が丁寧にキャッチ。40分には左サイドから、中村が嫌らしい位置へクロスを放り込むも、小櫃は上手くコースを遮り、別所のシュートをブロック。さらに、その流れから中村の右CKに、水野が当て切ったヘディングは、「ああいう練習は結構やっていたので、一応魅せる感じになっちゃったんですけど(笑)」と笑顔を見せた小櫃がここもビッグセーブ。そして、タイムアップの笛の音が聞こえる。

「ゼロで守って1点獲れば勝ちなんだから、『とにかく良い守備をして、泥臭くても1点獲れば勝てるんだぞ』と話していて、なかなかできるものではないんですけど、大会を通じて失点ゼロで終わらせたということは、良くやったと言わざるを得ないです」(小島監督)「初戦の前はそういう感じではなかったんですけど、試合をこなすごとに1人1人が成長して、失点ゼロで行けるという想いが付いたんじゃないかと思います」(森下)。終わってみれば、驚異の5試合連続“ウノゼロ”勝利という、歴史的快挙と言っていい粘り強さを発揮した正智深谷が、堂々とインターハイ予選の初優勝と全国切符を手繰り寄せた。

 20日。正智深谷は準決勝で、優勝候補筆頭と目されていた昌平高に1-0で競り勝って、決勝へと勝ち上がる。「『昌平に勝ったぞ』ということで興奮気味で、僕は担任も持っているんですけど、赤い目をしていた生徒に『どうしたの?』って聞いたら、『寝れませんでした』と。そういう感じでしたよね」と小島監督が話し、「昨日の練習では、昌平に勝って浮かれている部分もありました」とは山口。この状況を引き締めたのは、試合に出場することの叶わないキャプテンだった。

「キャプテンが良い声掛けをして、みんなで気持ちを締めたことで、今日の前半から立ち上がりに気持ちを持って入れたので、キャプテンのおかげでもあります」(山口)。負傷の影響で今大会はベンチからも外れているMF寺田海成(3年)も、キャプテンとして自らの役割を全うすることで、チームを改めて1つにまとめることに成功した。

 試合後の優勝写真。ズラリと並んだ選手とスタッフの中には、寺田の姿もあった。2人のマネージャーも遠慮がちではあるものの、しっかりとフレームの中に笑顔で収まっている。スタンドの仲間に優勝を報告しに行く選手たちの背中に、小島監督が「接触はするなよ!ラインは越えるな!」と慌てて叫ぶ。ピッチ上のパフォーマンスもさることながら、彼らが醸し出す一体感が、最後の最後でゴールに鍵を掛け切れる原動力になっているようにも見えた。

「今回(オナイウ)阿道が代表デビューして、ハットトリックをして、ちょうどインターハイ予選に入ると。その阿道のデビューの勢い、そして阿道がいた時に、インターハイで全国3位まで行ったと。そういう繋がりがあるのかなとは勝手に思っていて、今年のチームとしては正直そんなに期待はしていなかったんですけど(笑)、初優勝ということで、阿道の流れもあるのかなとは思いましたね」(小島監督)。

 目指すは“阿道先輩”の代が記録した、全国4強のその先だ。「全国では『絶対負けない』という気持ちで、無失点で勝っていくのが理想ですね。阿道くんの代はベスト4まで行っているので、“ベスト4超え”を狙いたいと思います」と森下。華麗なる“ウノゼロ”の担い手たちは、全国の舞台でもドラマの続きを真剣に演じ続ける。

(取材・文 土屋雅史)
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