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[デンチャレ]モチベーターに徹する中村憲剛コーチ「人生を変えるチャンスだよ」言葉で焚きつける

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プレーオフ選抜のベンチに入る中村憲剛コーチ

[3.1 デンチャレ グループA 関東選抜A 2-5 プレーオフ選抜 ひたちなか市総合運動公園]

 得点が決まると誰よりも喜ぶ姿があった。「めちゃくちゃ嬉しかった。これが醍醐味なんだろうね」。この日はそれが5回も。「丁寧に正確にやりなさいと言うと、やって点を取るんだもん。いい選手がいると楽だね」。プレーオフ選抜のベンチに入る中村憲剛コーチは、選手たちのレスポンスの早さに目を細めた。

「人生を変えるチャンスだよ」。この日はそう言って、選手たちを試合に送り出したという。

 プレーオフ選抜は前日の初戦で東海選抜に0-2で完敗。急造チームの難しさ。すでにJリーグ入りが内定しているGK菅沼一晃(福岡大3年=浜松開誠館高/福岡内定)やDF辻岡佑真(IPU・環太平洋大3年=高松工芸高/いわきFC内定)といった実力者がピックアップされているチームだが、試合結果は現実を突きつけた。

 ただ中村コーチは一方で、「やれそうだという手ごたえ」も持ったという。大阪から移動してきてチームで練習できたのは、わずか1日。当然戦術を落とし込むことなど不可能に近い。選手たちの実力を最大限に出すためには何をすべきか。「僕は彼らのやる気に火をつけるだけ」。一つでも選手たちの心に刺さる言葉があればいいという思いで、選手たちと向き合っている。

「だから人生を変えるチャンスだよと。今日の試合前にも言った。『関東Aに勝ったら、お前ら人生変わるぞ』って。『こんなチャンスは地域にないじゃん』って。あとはピッチでどう出すかだけなので、こっちはベースのところだけしか言っていないからね」

 中村憲剛。言わずと知れた、日本サッカー史に名を残すレジェンドの一人だが、大学時代までは“無名”の選手だった。今年で37回目を迎える本大会も当時から開催されていたが、中村コーチが出場した記録は残っていない。それどころか、選抜の一次選考で落選している。「エッて驚く人もいると思うけど、知っている人からしたら妥当と言われるような選手だった」。

 だからこそ挫折を知る選手たちの気持ちは理解できるという。「でもこの選手たちも地域選抜。エリートだから。だから彼らには自信と勇気だと言った。別に関東(が相手)だからとビビることはないだろうと。昨日見たもん。だからお前たちがやればやれるよってね」。数日前に初めて顔を合わせた選手たちばかりだが、すでにニックネームで呼んでコミュニケーションを取る姿があった。出会いを大切に。短い期間かもしれないが、モチベーターに徹することで、選手たちの人生を本気で変えてやろうと思っている。

 関東Aを破る波乱に導いたことで、グループリーグは大混戦となっている。2連勝の東海選抜が首位に立つが、最終戦は、勝ち点差3の関東Aが相手。プレーオフ選抜は最下位の日本高校選抜が相手ということもあり、決勝進出の可能性も十分に残している。「おそらく関東Aは死ぬ気で東海を倒しに行くと思う。だからシンプルに明日勝ったら決勝に行ける可能性がある。それは大きなモチベーションになる。だから3日連続で焚きつける。火がつけばやるんだから」。自身のデンチャレデビュー大会も優勝で飾ることができれば、これ以上の喜びはないはずだ。

(取材・文 児玉幸洋)
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