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エイバル乾貴士に求められる“従順からの脱皮”と“得点力”

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乾貴士の現在地

■開幕スタメンは決定的?

 夏の移籍市場では、多くの選手が移籍を決断し、チームは新たな血を欲する。エイバルMF乾貴士は、変化の激しいスペインの地で、プレシーズンから再びポジション争いに挑むことになった。

 昨シーズンを10位でフィニッシュしたエイバルは、ヨーロッパリーグ予選などを考慮に入れることなく、8月21日に行われるリーガ・エスパニョーラ開幕節マラガ戦に向け、7月12日にプレシーズン入りした。

 エイバルに集合した後、レアル・ウニオン戦(3-1)、バラカルド戦(4-1)と地元のチームとの試合を行った後、7月20日から31日までオーストリア遠征に向かった。ワトフォード戦(0-1)、リーズ戦(4-2)、アンタルヤスポル戦(3-1)、シャルケ戦(0-1)と各国の古豪と実戦を交え、8月にスペインに戻っている。

 エイバルはその後、国内遠征でスポルティング・ヒホン戦(2-3)、オビエド戦(1-0)、オサスナ戦(0-2)、サラゴサ戦(2-0)と順調にテストマッチを消化した。

 乾はR・ウニオン戦、リーズ戦、アンタルヤスポル戦、オビエド戦、サラゴサ戦の5試合で先発出場し、バラカルド戦とシャルケ戦で途中出場。乾が先発した試合では、チームはすべて勝利を収めている。最後の練習試合サラゴサ戦では得点を挙げたことで開幕スタメンを決定付けた。

■チームの現状ではレギュラー起用が濃厚か

 乾は昨季、移籍2年目となったリーガ・エスパニョーラで28試合に出場した。ホセ・ルイス・メンディリバル監督の下で、レギュラーの座をつかみ取ったと言っていいだろう。だがエイバルは今夏、複数選手を補強。常にチーム内に競争があることを望むメンディリバル監督は、選手たちにゼロからのスタートを求めている。

 乾の直接的なライバルになりそうなのが、2部アルコルコンから加入したMFイバン・アレホだ。22歳の若きアタッカーは、このプレシーズンでもキレのある動きを見せ、指揮官に積極的にアピールしていた。

 ただし、エースのMFペドロ・レオンが負傷で出遅れている状況を加味すると、序盤戦は乾とアレホの両方にプレー機会が与えられる可能性が高い。

 まずプレシーズンをほとんど棒に振ったベテランMFをメンディリバル監督が開幕からフル稼働させることは考え難い。また、昨季のチーム得点王であるFWセルジ・エンリクは足を痛めて8月の国内遠征を回避しており、今夏マラガから獲得したFWチャルレス・ディアスもまだ完全にはフィットしていない。

 エイバルは昨シーズン、状況に応じて4-2-3-1と4-4-2を使い分けていたが、今のチーム状態で2トップのシステムを選択することは考えづらい。昨季リーガで8得点を挙げたFWキケ・ガルシアを1トップに、右MFにアレホ、左MFに乾、トップ下には今夏の準備期間で試され続けていたカンテラーノのMFイマノル・サリエギを置いて前線を形成するのが現実的かつベストな選択といえるだろう。

■活躍の場を広げるために必要なのは…

 2年連続の開幕スタメンが濃厚な乾にとって、今季の課題は何になるのだろうか?

 まずはゴールだ。昨季のリーガ最終戦、乾はカンプ・ノウでバルセロナ相手に2得点を挙げ、世界に衝撃を与えた。その活躍で日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督をついに振り向かせ、およそ2年2か月ぶりの代表復帰を果たした。

 ただシーズンを通じて見れば、わずか3得点を記録するにとどまった。昨季開幕前、報道陣を前に「10ゴール」を宣言していた乾だが、初得点を記録するまでに29試合(リーガ第29節ビジャレアル戦)を要した。今季は早い段階で得点を挙げ、切望感に囚われることなくプレーに専心したいところだ。

 そして、ゴールにつなげるためにも、メンディリバル監督に指摘される「従順過ぎる」という壁を彼は打ち破らなければいけない。

 ゴール前でエゴを貫く――。

 スペイン人が当たり前にこなしていることが、日本人の乾には課題となっている。高いテクニックを有し、判断力が優れているがゆえに生じる問題でもある。周りが見えているからこそ、ペナルティーエリア内でパスを選択してしまうのだ。

 それらの課題を克服することができれば、活躍の場はさらに広がっていくだろう。

 6月7日に行われたキリンチャレンジ杯2017のシリア戦、代表復帰となった一戦で、乾は別次元のプレーを見せた。観客をワクワクさせる、躍動感溢れるプレー。「ゾーン」に入った乾を、止められる選手はそう多くない。彼の初速をストップできる選手はリーガには存在しないと、エイバルのスタッフも考えている。

 W杯イヤーを控えた、2017-18シーズン。ロシアにつながる道を切り開くためにも、エイバルをより高みに導くためにも、乾にはゴール前でのエゴが求められる。

 指揮官も、ファンも、そして本人も期待するゴールという結果を得るためには、多少独りよがりになるくらいがちょうどいいのだから。

文=森田泰史

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