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前名古屋コーチ・神戸監督の北マリアナ諸島、モンゴルの優勝阻止

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[3.15 東アジアサッカー選手権2010予選大会最終戦 北マリアナ諸島 1-4 モンゴル グアム・レオパレススタジアム]

 東アジアサッカー選手権2010決勝大会(10年3月、日本)の予選大会は大会最終日の15日、4位・北マリアナ諸島対3位・モンゴルと、首位のグアム対2位・マカオの2試合を行った。第1試合で北マリアナ諸島と戦ったモンゴルは、6点差以上もしく6得点以上とっての5点差勝利で逆転優勝の可能性があったが、4-1で試合終了。2連勝したものの、2勝1敗の2位で大会を終えた。一方、FIFA未加盟で、今回初めて予選大会のリーグ戦に出場した北マリアナ諸島は3連敗に終わったが、3試合全てで得点を奪う健闘を見せた。

 昨年まで名古屋グランパスでコーチを務めていた神戸清雄(KAMBE Sugao)監督率いる北マリアナ諸島がモンゴルの逆転Vを阻止した。今大会2敗の北マリアナ諸島から大量得点を奪い、逆転Vへの望みをつなぎたいモンゴルだったが、序盤主導権を握ったのはその優勝を阻止するつもりで試合に臨んでいた北マリアナ諸島。アメリカ国籍を取得し代表入りした中国人選手のエース・Joe Wang MILLERがスピードに乗ったドリブルでゴールに迫れば、8分にはMILLERからパスを受けたMF Nicolas Benjamin SWAIMの強烈な左足シュートがゴールを捉えた。だが、モンゴルは16分、カウンター攻撃からMF Garidmagnai BAYASGALANが正確な左足から右クロス。これをMF David Cabrera DUENASが胸トラップからの左足シュートでゴールを破り、先制点を決めた。

 一気に畳み掛けたいモンゴルだったが、再三放ったクロスからのヘディングシュートやミドルシュートがことごとく枠を外れ、なかなか追加点を奪うことができない。42分にMF Gerelt-Od SUKHBAATARのゴールでようやく2点目を奪ったものの、前半はシュート数15本でわずか2点のみ。後半開始直後には北マリアナ諸島のDF Peter Benjamin LORENのヘディングシュートやMF Jason F SCHROEDERの決定的なシュートにゴールを襲われるなど、FIFA未加盟で実力も大きく劣ると見られていた北マリアナ諸島の“抵抗”に苦しんだ。
 北マリアナ諸島・神戸清雄(KANBE Sugao)監督は「今回の試合前にはモンゴルのビデオを見せてどういう風に戦うかやっていたが、分かっていてもやられてしまう力のなさがある」と嘆いたが、今大会で見せたフラットの4バックに取り組んだのは神戸監督が就任した2月から。それまでは時代に逆行するかのようなスイーパーシステムを導入していたという。そこから神戸監督は計10回ほどのトレーニングで守備組織を構築。2年前に世界最下位のグアムに0-9で敗れていたチームは、成長を遂げた守備によって今大会のグアム戦を1-2で終え、この試合でもLOKENや65年生まれのベテランDF David Cabrera DUENASが堅固な砦を築き、簡単にゴールさせなかった。
 失点は後半2点を加えられただけにとどめ、“格上”モンゴル戦を4失点で終えた。神戸監督は「DF面でこんなにできると思っていなかった」と6ゴール以上が必要だったモンゴルの猛攻にさらされながらも必死に食い止めた守備陣の健闘を賞賛。そしてチームはSWAIMのPKで1点を奪い「3試合全部で1点は取りたい」と話していた指揮官の期待に攻撃面でも応えた。

 かつて市原(現千葉)で指揮を執っていた経験も持つ神戸氏はフィリピン、グアムに続きこれが3チーム目となる海外の代表監督だ。かつて指揮を執った国・地域では、代表チームの強化だけでなく若年層の選手やコーチングスタッフの育成にも尽力。今大会で「奇跡」の優勝を果たしたグアムでは、代表の礎を築いた人物として現地でも認められている。
 北マリアナ諸島代表は日本代表とは違い、教員やホテル関係者などで構成された完全なアマチュア軍団。職場の休暇が必要な長期合宿や海外遠征を行うことはもちろんできない。それでも、コーチやレフェリーも満足にいない土地で一歩ずつ積み上げていくつもりだ。目標は選手もコーチも満足にいなかった5年前から大会で優勝するまでに成長したグアム代表。神戸監督は「ローマは一日にして成らず(立派なことやものは、長年の積み重ねがあって始めて完成するという意)です。チームが今回の経験を下の世代に伝えること。そうやって積み重ねていきたい。(同じマリアナ諸島の)グアムはライバルであり、目標です」。かつては代表戦でも観客数人で、まるで注目されることのなかったグアムのサッカーはこの日、1,500人の観衆を集めるまでに変わった。在任の予定期間は今年いっぱいだが、今大会でチームとしての力にも手ごたえを得た神戸監督は、北マリアナ諸島のサッカーを変えるための新たなスタートを切った。

<写真>北マリアナ代表メンバー。前列右端が神戸監督
(取材・文 吉田太郎)

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