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[関東大会予選]実績関係なしの競争と「3本柱」の徹底、伝統校・韮崎が山梨制覇!

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[5.9 関東大会山梨県予選決勝 韮崎高 3-1 甲府城西高 中銀ス]

 平成26年度高校サッカー関東大会山梨県予選決勝が9日に行われ、伝統校の韮崎高と甲府城西高が激突。後半にCB瀧田順哉(2年)の勝ち越しヘッドなどで突き放した韮崎が3-1で勝ち、9年ぶりの優勝を果たした。両校は5月31日に開幕する関東大会に出場する。

 試合は前半4分にいきなり動いた。左サイドから仕掛けた韮崎FW保坂泰輝(2年)が高速ドリブルで一気に縦へえぐると、甲府城西DFがたまらずファウル。PKが宣告され、保坂が自ら右足で決めて韮崎が先制した。直後、スタンド前で喜ぶ韮崎イレブンの隙を突いた甲府城西が素早いキックオフからゴール前へなだれ込むが、GK仲山勇気(2年)がファインセーブ。甲府城西は7分にも右クロスのこぼれをFW狐塚悠(3年)が右足で叩いたが、シュートはクロスバー上方へ外れた。

 この後、試合の主導権を握っていたのは、山梨学院高、帝京三高に競り勝ってきた韮崎。狙いとする幅を広く使ったサッカーからMF金子忠司や俊足左SB秋山駿介(ともに2年)がクロスまで持ち込んでくる。対して、日本航空高を下すなど躍進し、初の関東切符を獲得している甲府城西のDF陣は、判断の遅れから奪ったボールを失うような場面もあったが、しっかりとスペースを消し、PAでクロスを跳ね返すなど追加点を許さない。

 ボールを支配して攻めながらも自陣でのパスミスが起こるなど、どこか乗り切れず、個々が受け身になってしまっている韮崎に対し、立ち上がりやや相手に飲まれた感のあった甲府城西も自信を取り戻して反撃。自陣から徹底して繋ぐショートパスは序盤、韮崎の巧みなプレスの前にサイドへ追いやられて奪われるシーンが続いたが、それでも甲府城西はキープ力のあるFW樋川佑(3年)やMF望月和(2年)がボールを収めて前へ進んでいくと、得意のサイド攻撃に加えて取り組んできたという中央突破が効果を発揮する。22分、PAまで押し込んだ甲府城西は中央でボールを持った樋川が右サイドからダイアゴナルに走りこんできたMF有野友結(2年)へピンポイントのスルーパスを通す。これを有野が右足ダイレクトでゴールへ沈めて1-1となった。

 鮮やかなゴールでスタンドを沸かせた甲府城西は25分にも左サイドで望月をサポートしたSB天野隼人(3年)がPAの狐塚へパスを通し、狐塚が右足シュート。対する韮崎も26分に金子の右クロスからFW佐野誠二朗(2年)の放ったヘディングシュートが右ポストをかすめ、35分には右サイドの保坂の折り返しからMF山主康介(3年)が決定的な右足シュートを放った。

 前半を1-1で終えた韮崎の今村優貴監督はハーフタイム、「主体性がない。『誰かがやってくれるだろう』というサッカーだった」と選手たちに厳しく指摘。このゲキもあって後半、運動量と球際での厳しさが増したチームは相手の背後を狙う動きとそこへつなげるためのビルドアップ、パスの連動性がリンクする。後半立ち上がりこそ、ミスから自陣でボールを失って甲府城西の狐塚にゴールマウス直撃のシュートを放たれ、インターセプトした狐塚のドリブル突破と、有野のシュートを許すシーンがあった。それでもCB川合航平(3年)や野中が声、プレーで引っ張る韮崎は15分に秋山の折り返しからMF野中裕太(3年)が放ったダイレクトの右足シュートで右CKを獲得。このCKを山主が中央へ入れると、瀧田がゴール至近距離からヘディングシュートを決めて勝ち越した。

 さらに18分、韮崎は相手の背後へ抜け出した佐野がGKとの1対1となると、20分にも山主の縦パスで抜け出した佐野が切り返しでDFのマークを外して右足シュート。これがゴールへ吸い込まれて3-1となった。甲府城西も39分、MF守屋圭人(3年)のアイディアあるスルーパスから狐塚と樋川が立て続けに決定機を迎え、41分には右サイドから切れ込んだ狐塚の左足シュートがゴールを捉える。だが、いずれもGK仲山の好守に阻まれて追撃することができなかった。

 韮崎は1,700人の観衆の前で歓喜のV。野中は「みんなが後ろから自分たちにエールを送ってくれたので、自分たちもピッチ内で(気持ちを)コントロールできた。それが勝ちにつながったかなと思います」。結果を出して喜ぶ選手がいる一方で、ベンチにはピッチに立つことができず、悔し涙を見せる選手もいた。全国高校総体優勝1回、全国高校選手権準優勝5回、全国高校選手権4年連続4強進出など輝かしい伝統を持つ韮崎は昨年、7年ぶりに高校総体山梨県予選を制し、全国大会でも野洲高(滋賀)、静岡学園高(静岡)を撃破する印象的な活躍。そして今年は関東大会予選を制した。その中で昨年の全国総体でレギュラーとして16強入りに貢献している主将のDF横森祐介、DF穴山達也、FW内藤流成(全て3年)という有力選手はいずれもこの日出場機会なし。飛び抜けた選手がいない中、試合に出られずに涙するほどの思いを持っている選手たちが実績関係なしのレギュラー争いを行うなど、激しい競争が今の韮崎にはある。川合は「競争ということで厳しさがある。自分たちは甘い中でサッカーをしている訳ではない。だから試合でも自信もってプレーできる」と胸を張った。

 また伝統校の選手たちはサッカーだけに偏ることのない生活を送っている。今村監督は「学校生活、勉強、そしてサッカー。その3本柱でやっている。我々のスタンスはこのどれかが飛び抜けるのではなく、正三角形をつくろうと。この三角形をできるだけ大きくすること。大きな、大きな正三角形をつくる作業をして韮崎から(社会へ)出ていってほしい」。選手たちは「3本柱」のひとつも怠ることのない日々を送っている。野中は「最初、1年の頃は戸惑っていた。サッカーだけをやりに来たような気持ちで来ていたんですけど、自分も周りの人たちと努力している。3本柱も含めて自分たちは強くなれていると実感しています」と語り、川合は「自分たちはサッカーだけじゃないというふうに思っているので、そこは自信をもってやっています。小テストも一つひとつの『戦い』というか、テストにも100パーセントの力でやっている」と力を込めた。

 高校選手権出場は08年度が最後。私立勢の壁に阻まれてきたタイトルを再び奪い返してきている韮崎だが、今村監督は「今までの伝統、実績に比べたらまだまだ。光の方向へ向くことができたかもしれませんが、抜け出すのはまだ先の話」と引き締める。伝統校ならではの周囲からのプレッシャーをいい意味で感じながら一戦一戦に集中して勝利を。誰にでもチャンスのあるチーム内競争と「3本柱」をやり抜いて復活への歩を進める。

(取材・文 吉田太郎)

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