beacon

[プレミアリーグWEST]3時間半のミーティングがもたらす変化の兆し。G大阪ユースは3年生の奮闘で広島ユースと勝ち点1を分け合う

このエントリーをはてなブックマークに追加

PKを止めたガンバ大阪ユースGK足立優へ真っ先に駆け寄るDF桒原陸人。3年生が意地を見せた

[5.29 高円宮杯プレミアリーグWEST第9節 G大阪ユース 0-0 広島ユース OFA万博フットボールセンターB]

 桒原陸人(3年)が来るボールをすべて跳ね返せば、井上秀悟(3年)も最後まで足を伸ばしてピンチを潰し切る。安達晃大(3年)がサイドの上下動を繰り返せば、鈴木大翔(3年)は前線で懸命に基点作りへ奔走する。足立優(3年)のPKストップに、アップエリアの上西駿大(3年)が叫べば、田坂俊輔(3年)もピッチに鋭い視線を向ける。野口響稀(3年)が必死に左足を振るい、池田怜央(3年)はゴールへ向かい続ける。

「今年は新しい1,2年生も結構出ていて、その中で序盤はあまり勝てない試合が続いていたんですけど、3年生同士のコミュニケーションも増やすようにミーティングもしたので、練習からの意識もちょっとは変わってきたと思います」(G大阪ユース・桒原陸人)

 変わりたいと願う3年生の執念が呼び込んだ、勝ち点1に見える変化の兆し。29日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグWEST第9節、やや苦しい時期を過ごしているガンバ大阪ユース(大阪)とサンフレッチェ広島(広島)が対峙した一戦は、お互いにチャンスを作り合いながらもゴールは生まれず、勝ち点1を分け合っている。

「前半は特に優位に進められていましたね」とキャプテンの桒原も話したように、序盤はG大阪ユースの勢いが上回る。前半9分には安達を起点に右サイドでの好連携から、MF森田将光(1年)は中央へ。こぼれに反応したMF大倉慎平(1年)のシュートはゴール左へ逸れたものの、スムーズなアタックをフィニッシュへ繋げると、12分には鈴木の左アーリーを安達はダイレクトボレー。枠を捉えたボールは広島ユースのGK名越瑛恆(3年)がキャッチするも、まずはホームチームが惜しいシーンを創出する。

 広島ユースを率いる高田哲也監督も「映像を見る限りだと、もっと守備のプレスで食えると思ったんですけど、ちょっとずつ遅れていったかなというのもありましたね」と話した通り、以降も流れはG大阪ユースが掴んでいた中で、絶好の先制機はアウェイチームに。31分、エリア内で仕掛けたFW中川育(2年)が倒され、広島ユースにPKが与えられる。

 だが、青黒の守護神は、冷静だった。「相手はキッカーをジャンケンで決めていたんですよ。勝った人が蹴りに来たので、『そういう人は気が強いかな』と思って、振り抜いてくるかなって」。広島ユースのFW濱田蒼太(3年)のキックを、足立は完璧なセーブで弾き出す。「高1の時は寮で同部屋やったので(笑)、嬉しかったですね。ホンマに足立に助けられました」と笑った桒原が真っ先に駆け寄ると、他のチームメイトも次々と足立に抱き付く。前半は0-0でハーフタイムへ折り返した。

 後半に入っても、G大阪ユースのペースは変わらない。5分。右からレフティのMF和泉圭保(2年)が蹴ったCKに、DF松井イライジャ博登(1年)が合わせたヘディングはわずかに枠の左へ。14分にも井上のビルドアップから、和泉のクロスを収めた鈴木のシュートは名越にキャッチされるも、「今日は全然物怖じしてなかったですね」と指揮官も認めたMF長田叶羽(1年)とDF古河幹太(1年)のボランチコンビもボールを引き出し、攻撃のテンポを生み出していく。

 23分にもビッグチャンス。右サイドでの粘り強いドリブルから、安達が上げたクロスへニアに飛び込んだ鈴木のシュートが枠を襲うと、ここは名越が右手1本でビッグセーブ。広島ユースも25分にはMF高下仁誓(3年)が左へ付け、MF越道草太(3年)のクロスに濱田が飛び込むも、井上が間一髪でカット。浮上のきっかけを掴みたい両雄の勝利への想いは、ヒートアップし続ける。

 勝負のラスト20分。G大阪ユースは野口、池田の3年生コンビに加え、まだジュニアユース所属のMF當野泰生(中学3年)をピッチへ送り込めば、広島ユースもFW妹尾颯斗(3年)やMF中島洋太朗(1年)を投入し、右SB滝口晴斗(3年)のポジションも前に変えながら推進力アップに着手すると、1年生が多くピッチに立つこともあってか、やや運動量に陰りの見えるホームチームを尻目に、アウェイチームの攻勢が明らかに強まる。

 45+4分。広島ユースのラストチャンス。MF笠木優寿(3年)が丁寧に出したパスを受け、スピードに絶対の自信を持つ滝口が加速しながらエリア内へ潜り、シュートレンジに入るも、ここに飛び込んだのは「後ろはゼロで抑えようというのは秀悟とも話していた」という桒原。間一髪で繰り出したタックルが、ボールを何とか掻き出す。

 程なくして聞こえたタイムアップのホイッスル。「もうちょっとリスクを負っていっても良かったですけど、結果的に勝ち点1はお互いに妥当だったかなと思いますね」とは高田監督。両チームの複数人がピッチに倒れ込んだ激闘はスコアレスドロー。両チームに勝ち点1ずつが振り分けられる結果となった。

 ジュニアユース時代のチームメイト4人を擁する履正社高(大阪)に2-5で敗れた第2節のあと、G大阪ユースでは3年生だけのミーティングが開かれた。「森下さんが『3年、集まろう』と言って、『本音で話そう』ということになりました」と明かすのは桒原。なかなか誰も口を開かない重い空気の中、自らの想いを語り出したのはやはりキャプテンだった。

「去年は良いメンタルでやれていたのに、去年できていたことができなくなっていくような感覚があって、トップ昇格も決まっていく時期の中でいろいろな気持ちの葛藤もありましたし、ホンマに思っていることを全部話しました」(桒原)。これをキッカケに、1人1人が抱えてきた感情を吐き出していく。中には泣きながら話す者もいたという。

「『あ、コイツこういうふうに思ってたんや』とか『こうやって苦しんでいたんや』という気付きもあったので、そこを知れたのは凄く大きかったですし、みんなのことを知れて、仲間のためにという想いはより一層強くなったと思います」と足立が口にすれば、「泣くほど思っていることを言って、熱くなれるというのは凄く良いことやと思ったし、逆に今までそれを出してなかったというのはちょっと寂しいところではありましたけど、みんな本気で思っていることをぶつけられたのは良かったです」とは桒原。今のままではダメだと、今の自分から変わりたいという想いは、3時間半近くにも及んだミーティングを経て、ハッキリと共有された。

 それでも、そんな簡単に効果が出るほどプレミアリーグは甘くない。続く静岡学園高(静岡)戦も、サガン鳥栖U-18(佐賀)戦も、スコア上は完敗と言っていいような結果だったが、「急にはプレーも変わらないので、それでもできなくてもどかしい気持ちはありましたけど、『みんなでやっていくぞ』という気持ちは変わったと思います」と足立。そして迎えたこの日の広島ユース戦で、4連敗中だったチームはようやく勝ち点1を手にすることになる。

「ウチの子たちってずっと一緒にいるんだけど、凄くコミュニティが狭くて、人との関わりとかの部分で、思っていることをなかなか伝えないなとオレは思っていたので、『1回腹を割って話をしようぜ』と。みんな涙を流しながら、本音を話したことで、凄く3年生の団結力が出てきたよね。もともとあったけど、本当の団結力が生まれてきたなと。ちょっと殻を破ったかな」(森下監督)。

 状況が大きく変化したわけではない。依然として苦しい時期は続いている。ただ、変化の兆しは間違いなく見え始めている。「僕もキャプテンという立場で、『チームを引っ張らなきゃな』って、『弱い部分を見せられないな』と思っていたんですけど、今は横にいる秀悟に『こういう時は、こういう声を掛けて助けてくれ』と言えるようになりましたし、それは僕だけじゃなくて、学年を超えた横と縦の繋がりが出てきたかなと思うので、これからもやり続けたいです」(桒原)。

 この勝ち点1は、果たして変わりたいと願う彼らの契機になり得るのか。その答えを、『本当の団結力』を、形にしていく明確な結果が、ガンバの未来を担うべきティーンエイジャーたちには今、求められている。

(取材・文 土屋雅史)

▼関連リンク
●高円宮杯プレミアリーグ2022特集

TOP