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[船橋招待]「志願の副審」「1人でのボトル回収」「ボールパーソンへの声掛け」に滲む圧倒的な人間性。熊本U-18GK宮本哲宏はピッチ内外でチームを真摯に牽引する

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ロアッソ熊本U-18の絶対的守護神、GK宮本哲宏(新3年=ソレッソ熊本出身)

[3.30 船橋招待U-18大会 柏U-18 0-1 熊本U-18 日立柏総合グランド]

 その圧倒的な人間性は、少し観察していればすぐにわかる。自分のことより仲間のことを考え、楽なことよりみんなが嫌がりそうなことに率先して取り組んでいく。この人がピッチ内外で積んでいる“徳”は、きっとこのチームをポジティブな方向へと導いていくはずだ。

「試合で無失点に抑えることはもちろん目標ですけど、練習でキツそうな仲間やメンタル的に落ちそうな仲間を引っ張ってあげられるような、行動でも言葉でも、3年生としてもキーパーとしても、存在感を示していければなと思います」。

 プレミアリーグへの初昇格を真剣に狙うロアッソ熊本U-18(熊本)の絶対的守護神。GK宮本哲宏(新3年=ソレッソ熊本出身)はまっすぐに歩いてきた成長のための一本道の道中で、成熟したサッカー選手として必要な多くのものを確実に身に付けてきている。


「全国のトップレベルのチームが集まる大会で、良い時は良いんですけど、悪い時はとことん相手に流れを持っていかれるので、その課題に対して個人としてもチームとしても、全体で向上していけるようにということは考えていますし、今回の大会はチーム力の底上げを一番の目標にしているので、結果も出せれば一番いいですけど、まずは内容にこだわっています」。

 宮本がそう語るのは『第29回船橋招待U-18サッカー大会』。初日で市立船橋高(千葉)、帝京長岡高(新潟)とプレミアリーグに在籍する強豪校を相次いで撃破した熊本U-18は、2日目もやはりプレミア所属の柏レイソルU-18(千葉)と対峙。それでも実力派の難敵を相手に、怖じ気付くつもりは毛頭ない。

「この船橋招待に参加する前に、強度の高い大学のチームとも3試合ぐらいやらせていただいて、そのプレッシャーのイメージがみんなあると思うので、相手の高い強度の中でも自分たちのプレーは出せてきていると思います」(宮本)。きっちりボールを動かしながら、適切なスピードとパワーでスムーズに前進していく一連に、鍛えられたグループの練度が窺える。

 もちろんGKとして考えるのは、守備時のオーガナイズだ。「最近はGKコーチの谷井(健二)さんからも『戦術的にコーチングしよう』と言われていて、センターバックが見えていない部分のコーチングとか、先手先手で味方を動かしていくような声掛けを意識しています」。起こりそうな局面を想定しつつ、積極的にチームメイトへ指示を飛ばす。

 最近になって今まで以上に意識しているのは、“声の質”だという。「自分はシュートストップに自信があるんですけど、レベルの高い大学とやらせてもらった中で、自分1人では守り切れないような感覚も味わったので、味方を動かす声の質も、最近は『できるだけ短く、わかりやすく』を意識しています。結構頭は使いますね(笑)」。この一戦の結果は1-0で勝利。試合後の選手たちの笑顔には、手応えと充実感が滲んでいた。


 この日の2試合目。矢板中央高(栃木)と激突した一戦のピッチサイドには、フラッグを持ってライン際を走る宮本の姿があった。「キーパーは今回も基本的に2人いますし、フィールドの選手は途中で出る可能性があったり、疲労も溜まっていると思うので、キーパーの役割という感じで、他に誰もいなければ普段も自分からやっています」。両チームの選手から1人ずつ担当する副審を、自ら買って出ていたのだ。

真剣な表情で副審を務める


「副審をやることで、ベンチから見るよりは試合の状況がわかりますし、試合の流れも後ろから見るのとはまた違う感じで見られるので、勉強になるなと思います」。他の選手と代わることなく1試合を務め上げた“副審”は、1-5という思わぬ大敗を喫し、うつむき加減で引き上げてくる選手たちと1人だけ違う方向に走っていく。

「みんなこういう試合内容で気持ちも落ちていると思いますし、疲れも溜まっていると思ったので、『自分で回収しようかな』って」。帰ってきたその手に抱えられていたのは、複数の給水用ボトル。チームを率いる岡本賢明監督は、普段の宮本の“習慣”を笑いながら教えてくれた。

「テツ(宮本)はいつも試合会場から帰るのも一番遅いんです。ゴミが落ちていないか、忘れ物がないか、必ずチェックしていますから。周りのことをよく考えられる子なんですよ。GKコーチには『もっと自分のことを考えていいんだぞ』と言われたりしていますね(笑)」

 そのことについて本人へ水を向けると、少し照れ笑いを浮かべながら、こう言葉を紡ぐ。「忘れ物やゴミを置いていくことはチームとしての隙になると思うので、そういう隙は作りたくないですし、ロアッソがピッチでやる良いサッカーを見てもらうのはもちろんですけど、ピッチ外の部分でも『ロアッソっていいな』と思ってもらえたら、チームとしても自分としても嬉しいので、そこは意識しています。普段からいろいろなことが目に付くタイプですね。たぶん昔からそうだと思います」。

 思い出すのは昨夏のクラブユース選手権の一コマ。真剣勝負のゴールマウスに立っていた宮本は、小学生ぐらいのボールパーソンがピッチの外に出たボールを返してくれるたびに、1回1回丁寧に「ありがとう!」と声を掛けていたのだ。高校生でこの人間性を備えているのだから、恐れ入ると言うほかにない。


 既にトップチームの練習にも参加しているが、大先輩からもらった言葉が強く印象に残っているという。「練習の時に遠慮というか、言われたことをやるだけになって自分を出せていない感じがあったんですけど、途中で佐藤優也さんに『自分で考えて動け』と言われたんです」。

「その時は『はい!』としか言えなかったんですけど、トップの人たちの中に入らせてもらっている中で、それでは呼んでもらった意味がないと思いますし、トップの良いところを吸収して、ユースに還元するのも自分の役目だと思っているので、『もっと自分を出していく』という意味ではそこで気付かされたというか、ドキッとしました」。

「GK練習に参加しても迫力が凄かったですし、ロアッソのキーパーって凄く味方に求めるんですよ。嫌われ役にもなれるという感じで、味方に強い要求をする部分は今の自分の課題でもあるので、そういうところは変えたいなと感じました」。3月の頭には3日連続で練習に参加してトップの環境で揉まれ、自分の中での基準も着実に引き上げている。

 だからこそ、アカデミー最後の1年で残したいのは明確な結果だ。「プリンスリーグは1つ1つの試合が負けられない戦いですし、後輩たちに来年はプレミアでやってもらいたいので、12月にプレミアの参入戦で勝って、最後に全員で笑って終われたらなと思っています」。

 熊本U-18を最後方から力強く支える、背番号1の護り人。宮本哲宏が携えているサッカーに対する真摯な姿勢は、自身と周囲の日常を正せるパーソナリティは、間違いなくこのグループを自分たちの望んだ方向へと導いていくはずだ。



(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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