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「良いところまで行こう」ではなくて「タイトルを獲ろう」。2024年の大成は歴史を変えるための大いなる冒険に挑む!

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後半アディショナルタイムで劇的に追い付いた大成高は延長戦で逆転勝利!

[4.20 関東高校大会東京都予選2回戦 国分寺高 2-5(延長) 大成高 駒沢補助]

 もう『よく頑張った脇役』で終わるつもりはない。何度も届きかけて、いまだに届いていない目標にたどり着くためには、並大抵の努力では足りないことも十分にわかっている。今年こそは、自分たちが東京の主役を鮮やかにさらってやる。

「彼らに言っているのは『良いところまで行こう』ではなくて、『タイトルを獲ろう』と。タイトルを獲るためには泥臭いこともしなくてはいけないし、こういう苦しいゲームも絶対勝ちに持ってこなくてはいけないので、そこはもう冬に話をしてきました。彼らもその意識を持ってくれていますし、やはり『毎年毎年「良いところまで行ったね」「よくここまで勝ち上がってきたね」では終わりたくないよね』ということは彼らも出している言葉なので、僕と同じ考えで一緒にやれていることは大きいと思います」(大成高・豊島裕介監督)。

 後半のラストプレーで追い付く執念の同点弾から、逞しく引き寄せた逆転勝利。令和6年度 関東高等学校サッカー大会 東京都予選は20日に2回戦を行い、大成高と国分寺高が対戦した一戦は、大成が5-2で延長戦までもつれ込む激闘を制して、準々決勝進出を決めている。


「立ち上がりから相手に5-4-1のブロックを敷かれて、自分たちの方がボールを持つ時間があったんですけど、なかなか決定的なチャンスを作れなかったです」とボランチのMF伊佐地晴希(3年)も話したように、大成は序盤からキャプテンのDF小池汐生(3年)とDF高橋佑弥(3年)のセンターバックコンビを起点にボールを動かしていくものの、なかなかシビアなゾーンには侵入しきれない。

 その要因は国分寺守備陣の奮戦だ。キャプテンのGK林健介(3年)が最後方から声を出し続け、DF宮林隆之介(3年)を中央に置いた5バック気味のディフェンスラインも際どい局面では身体を投げ出し、相手のシュートをブロック。「あれだけ一生懸命やってきますし、本当に良いチームなので、試合前からリスペクトしていました」とは大成を率いる豊島裕介監督。前半はスコアレスでハーフタイムへ折り返す。

 試合は後半早々に動いた。1分。国分寺はハーフウェーライン付近からFKをゴール前へ蹴り込むと、宮林が素早く反応。懸命に頭に当てたボールは相手GKの頭上を緩やかに越え、ゴールへと吸い込まれる。さらに6分にはMF福渡光太(2年)が果敢な仕掛けでPKを獲得。これを10番のMF石川空大(3年)がきっちり成功させ、国分寺が5分間で2点のリードを奪ってみせる。

「1失点目をした瞬間に焦り始めてしまって、ミスも目立っていて、そこからポンポンと2点目も入ってしまったので、『本当に締めなきゃマズいな』と思いましたね」(小池)。小さくないビハインドを負った大成を活性化させたのは、途中出場のジョーカーたちだ。まずは24分。右サイドで前を向いたMF小野藍大(3年)は躊躇なく右足一閃。強烈なシュートはニアサイドを貫き、ゴールネットへ突き刺さる。

「藍大は点を決めるヤツなので、アイツを信じてボールを預けたら点が入りました」とは小池。2-1。残された時間は15分強。最終盤の40+6分。ミドルレンジからMF稲荷啓太(3年)が放ったシュートは枠を襲うも、林がファインセーブで弾いたボールは右ポストにヒット。みんなが頭を抱えた流れの中で、「『点を獲って来い』と言って出してもらいました」という1年生アタッカーは諦めていなかった。

 40+7分。右サイドからDF高倉崇太(3年)がクロスを上げると、こぼれ球にいち早く反応したのは終盤に投入されていたFW生駒大雅(1年)。最初に打ったシュートは林に止められたものの、「『もう身体で押し込もう』と思って、ボールに身体を当てました」と生駒が押し込んだボールはゴールラインを越える。

「個がしっかりしていて、流れまでちゃんと読める子なので、そこは信頼しています」と小池も話し、「彼はゴールに絡める選手なので、自信を持って入れました」と豊島監督も言及した1年生が挙げた起死回生の同点ゴール。「もう『来た!!!』と思いました。本当に嬉しくて、最高でした」(生駒)。2-2。大成の執念、結実。試合はまだ終わらない。


「同点ゴールが入った瞬間に『もう勝てる』と思いましたし、自信もありました」(小池)。延長後半4分。前線で奮闘してきたFW伊藤雄淳(3年)がボールを残すと、3列目から飛び出した伊佐地の打ち切ったシュートが、ゴールへ吸い込まれる。「雄淳が潰れて良い落としをしてくれたので、もう気持ちで決めたゴールですね。ホッとした感情が一番強かったです」(伊佐地)。

 さらに7分には高倉、9分には再び伊佐地が得点を叩き込み、ファイナルスコアは5-2。「応援の人たちも含めて雰囲気を作ってくれたことで、何とか勝てましたし、ギリギリで次に繋がったのはプラスなんですけど、嬉しい反面、自分たちに甘さが残っていたので、ここからチームの士気を上げていくしかないですね」と伊佐地も話した大成が、熱戦に競り勝って準々決勝へと勝ち進む結果となった。


「今年はああやってボールを持てますし、出せますし、上手さを持っているんですよね」と豊島監督が話し、小池も「去年はどちらかと言えば前に蹴り込むサッカーだったんですけど、新チームになってからは“下から繋いでいくサッカー”を積み上げてきました」と明かしたように、今シーズンの大成はボールを動かすスタイルを採用している。

 ただ、いつでもそれを貫くことが勝利への最善策とは限らない。この日の試合が延長に入ると、キャプテンの小池は相手との力関係や噛み合わせを考えて、やるべきことを整理したという。「下で繋ぐのもいいんですけど、自分たちの身体能力を生かして、前に蹴り込んだ方が相手が嫌がるのはわかっていたので、とにかく高い位置にボールを蹴り込んで、前でバトってもらおうと思っていました」。

 延長後半はベンチも長身DFの高橋を前線へと送り込む決断を下し、早めに前へと放り込んで圧力を掛け続けたことが、怒涛の3連続得点に繋がったという見方は間違っていないはずだ。勝つために必要なことを徹底した上での勝利に、「相手の出方でゲームを作れるところは昨年度以上に持っています」と豊島監督も認めれば、「臨機応変に対応できるチームができ上がってきているなと思います」と小池もチームへの手応えをハッキリと口にしている。

大成高を束ねるキャプテン、DF小池汐生


 印象的だったのは後半のアディショナルタイムに同点ゴールが決まった時のこと。ピッチサイドで声を枯らして応援していた控えの選手たちも、大半がグラウンドの中へなだれ込み、大きな歓喜の輪を作っていた。決勝ゴールを叩き出した伊佐地は、仲間への感謝をことさら強調する。

「今日応援してくれていた人たちは、学校から直接応援に来てくれて、どの試合も自分たちの士気を高めてくれる応援や、前向きな言葉をずっと掛けてくれていたので、『応援の人たちのために』という想いはかなりありました。自分も去年は応援を経験していて、その悔しい気持ちは理解しているつもりなんですけど、それでも自分の同級生も全力で応援してくれていたので、3点目は応援の人たちが決めさせてくれたのかなと。まずは応援してくれた人たちに感謝したいですし、次もまた勝って応援の人たちを喜ばせて、関東大会に出たいと思っています」。

2ゴールで存在感を示した大成高MF伊佐地晴希


 近年は各大会で上位進出の常連になってきている大成。とりわけ選手権予選ではここ6年で3度も決勝のステージに立っているものの、まだ冬の全国出場は叶っていない。昨年度も準決勝まで勝ち上がったが、最後は修徳高に1-2と惜敗。ゆえに彼らの目標は明確すぎるぐらい、明確だ。

「歴史を変えたいですね。大成の歴史をとにかく塗り替えたいと思っています。まずは関東大会です。目の前の短期目標から取り組んでいく中で、みんなで東京の四冠を目指しています」(小池)「去年はT2に落ちてしまった分、後輩たちにT1で戦ってもらいたいという想いもあるので、T1には昇格させたいですし、関東も獲って、インハイ、選手権で大成と自分たちの名が広まるような1年にしたいと思います」(伊佐地)「選手権の全国に行くのが大成の目標だと思うので、それに向けてスタメンではなくても、試合に出て絶対に結果を残して、チームが東京で優勝して全国に行くのに貢献したいと思っています」(生駒)。

 気持ちで掴み取った劇的な逆転勝利を、きっかけにするもしないも自分たち次第。2024年の大成が挑むのは、歴史を変えるための大いなる冒険。そこへと足を踏み出すための門をこの日、彼らはもう堂々とくぐったのだ。



(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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