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[MOM4680]帝京長岡MF遠藤琉晟(3年)_新米ボランチが歩み始めた絶対的な選手への一本道。地元出身のダイナモが“後輩たち”の前でプレミア初ゴール!

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帝京長岡高MF遠藤琉晟(3年=長岡ジュニアユースFC出身)はプレミア初ゴールに歓喜の咆哮!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[4.29 プレミアリーグWEST第4節 帝京長岡高 3-0 鳥栖U-18 長岡NT]

 もうここまで来てしまっては、腹をくくる必要がある。1,100人の観衆を集めた地元のピッチで、積極的にボールを引き出し、とにかくセカンドボールを拾い、ピッチ中を90分間走り切った上に、ゴールまで決めてしまったからには、これからも後輩たちに憧れられるような“先輩”として活躍し続けるしかない。

「こうやって勝てたのは最高です。帝京のみんなが応援してくれて、その応援も力になりますし、自分にとってもここは地元なので、友だちもちらほら来てくれたりして、そういうのは嬉しいですね。自分の力になります」。

 念願のプレミアリーグ昇格を果たし、記念すべき初年度を戦っている帝京長岡高(新潟)を中盤の位置で逞しく支えるダイナモ。MF遠藤琉晟(3年=長岡ジュニアユースFC出身)のチームにおける存在感は、日に日に高まり続けている。


「遠藤琉晟がマン・オブ・ザ・マッチじゃないですか。中盤であれだけ動いて、点も獲って。替えが利かない選手になってきましたね。ちょっと今は外せないです」。終わったばかりの試合を振り返っていた古沢徹監督も、思わずそのパフォーマンスについて言及する。名指ししたのは2番を背負ったボランチのことだ。

 サガン鳥栖U-18(佐賀)と対峙した、プレミアリーグWEST第4節。本人もとりわけ前半は、チームにも自身にも明確な手応えを感じていたという。「チームとしても前半から出し切るような感じで守備のプレッシャーも行けていましたし、個人的にも身体が動いていたので、守備も集中して、攻撃もうまく点が獲れて、良い前半だったと思います」。

 ドイスボランチを組んだMF香西大河(3年)との連携も上々。どちらかが前に出れば、どちらかが後ろを預かりつつ、ビルドアップの起点も創出。先制点を奪った3分後の前半27分。FW安野匠(3年)が叩き出した2点目のゴールの際にも、素晴らしいクロスを上げたMF和食陽向(1年)へと丁寧なパスを付け、“アシストのアシスト”で追加点を演出する。

 結果的に試合の流れを決定付けることになった、チームの3点目はこの人の右足が生み出す。後半6分。中盤でのルーズボールを頭で前に送った遠藤は、目の前の状況を冷静にジャッジしていた。

「安野がドリブルしていって、結構突っ込んでいったんですけど、安野はそういうところがあるので、『突っ込んでいったらこぼれてくるかな』と予測していたら、本当にこぼれてきました」。果敢に仕掛けた安野のドリブルは相手ディフェンスに阻まれたものの、そのこぼれ球が目の前に転がってくる。

 躊躇なく右足で叩いた軌道は、豪快にゴールネットへ突き刺さる。「シュートを打つ時にゴールは見えていなかったんですけど、『このへんにゴールがあるだろうな』とはイメージしていましたし、結構ミートして良いシュートが打てたので、入って良かったです」。雄叫びを上げながらピッチサイドへ走ってきた2番に、すぐさまチームメイトが集まってくる。




「もう無意識でしたね。自然にみんなの方に向かっていました。試合前から『ゴールを決めたい』とは思っていたので、嬉しかったです」。ホームゲームで挙げたプレミアリーグ初ゴール。遠藤の表情にも笑顔が弾ける。

 終わってみれば難敵相手に、3-0と完封勝利。「守備も集中していて、みんなの意識が上がっているのも感じましたし、ゼロで抑えられたことは個人としてもチームとしても本当に大きいと思います」。攻守に渡って勝利に貢献できた感触は、遠藤の中にしっかりと刻み込まれた。


 ホーム開幕戦となった第2節に続き、この日の試合前にも両チームの選手は、長岡ジュニアユースFCでプレーするエスコートキッズと手を繋ぎながら、ピッチへ入場してきた。「自分がJYにいた時に谷内田哲平さんとか晴山岬さんとか吉田晴稀さんとか、そういうJYの選手が帝京で活躍しているのを見て、僕も『ここに入りたい』と思ったので、今度は自分が憧れられる側にならないといけないなと思います」と話していた遠藤にとって、彼らは後輩に当たるわけだ。

 だが、本人はまだその立場がピンと来ていない様子。「なんか、変な感じです(笑)。何とも言えない感じですね」と言いながらも、少しだけ笑顔を浮かべてある光景を思い出す。「試合前に別れる時に子どもから『頑張ってください』と言われて、メッチャかわいかったです」。小さいサッカー少年たちにとっても、その時間はまさにかけがえのない体験。こうやって歴史と絆は受け継がれていく。

 もともと長岡JY FCでプレーしていた中学時代はセンターバックが主戦場。高校入学後も1年時はサイドバックを務めており、ボランチにコンバートされたのは最近のこと。今年の3月に話を聞いた時には「自分もボランチをやり始めたばかりなので、『自分がボランチで本当にやっていけるのか』という危機感もありますし、そういう不安はこの1か月で絶対になくさないと開幕戦でも自信を持ってプレーできないと思うので、これからもっと練習して、自信を持ってプレミアに挑めたら最高かなと思います」と殊勝に話していたことも印象深い。

 あれから1か月あまり。プレミアでもここまでの全試合にボランチでフル出場を果たし、得点まで記録した今の自分自身について尋ねてみたが、「さすがにあの時よりは自信も出ていますけど、まだ全然ですね。ベンチにも、今日は応援してくれていた選手の中にも、メチャメチャ良い選手はいますし、天狗には絶対にならないようにしたいです」とのこと。だが、最後に発した言葉には確かな意志が滲んだ。「もっと上手くなって、もっと成長して、もっと絶対的な選手になりたいなと思います」。

 つまりは描いている理想のボランチ像にはまだまだ足りていないということ。この人のスタンスは、きっとこれでいい。技巧派が居並ぶ帝京長岡に、1本の太く揺るがぬ軸を通し始めている新米ボランチ。決して派手ではないかもしれないが、遠藤琉晟が発揮するチームに欠かせないプレーを、ホームで見守る“後輩たち”はその目にしっかりと焼き付けているに違いない。



(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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