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[高校選手権]丸刈りからの再出発、山梨学院を支えた名コーチの存在

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[1.11 全国高校選手権決勝 山梨学院大付1-0青森山田 国立]

 丸刈りからの再出発だった。夏の県総体で準決勝敗退に終わった山梨学院大付(山梨)。その直後にMF碓井鉄平主将(3年)とDF中田寛人(3年)は頭を丸めた。そしてチームメイトの前で「選手権に出たいなら、みんな丸刈りにしてくれ」と宣言。2人の思いに呼応し、選手全員が丸刈りにして選手権に向けて再び走り出した。「総体予選で負けてから、みんな気持ちを入れ替えて必死にやってきた」と碓井。挫折からはい上がってきた選手たちに恐れるものはなかった。

 新チーム立ち上げ時、選手は3つの目標を掲げていた。(1)山梨県内で負けないこと(2)プリンスリーグ出場権獲得(3)選手権初出場初優勝――。前の2つはかなわなかったが、「最後の一番大きな目標を達成できてよかった」と碓井は笑顔で振り返った。

 15年ぶりに現場復帰した横森巧監督とともにチームを躍進させた大きな要因の1つに、吉永一明コーチの存在がある。J1清水のヘッドコーチやJ2鳥栖のコーチなどJクラブでの指導歴も豊富な吉永コーチが実質的にチームを指導。練習メニューや対戦相手の分析など現場の陣頭指揮を執った。

 碓井は「吉永さんは自分たちの特徴を生かす練習メニューを考えてくれる。信頼しています」と力説する。全国選手権前には徹底的な走り込みも敢行。日本代表FW岡崎慎司の走法フォーム改造に取り組んだ清水の杉本龍勇フィジカルコーチの練習メニューを参考に吉永コーチが考案したもので、試合を通して走り負けない持久力と球際の強さを強化した。

 「きつい練習をやらせてきたから、選手には不評だったけど」と笑った吉永コーチだが、「うちの選手は背は小さいけど、そういう部分で負けることはほとんどなかった」と胸を張った。

 綿密なスカウティングも吉永コーチの仕事だった。決勝では青森山田の攻略法を選手に伝授。MF柴崎岳(2年)とMF椎名伸志(3年)のダブルボランチという青森山田の最大の武器を逆手に取った。攻撃で柴崎がポジションを上げてきたときにボールを奪ったら素早く攻守を切り替え、椎名の両サイドに空いているスペースにボールを展開。その穴を徹底的に突き、それによって相手の両MFも下げさせた。

 「相手を6-1-1-2のようにするのが狙いだった」と吉永コーチは言う。碓井も「相手のダブルボランチは上手いけど、守備のときにそこの横のスペースが空く。そこでボールを受けてターンして起点をつくった」と、狙い通りの試合運びだったことを明かした。

 大会中は寝る暇もなかった。自分たちの試合が終われば、まずは夜のミーティングまでに反省点などをまとめた映像をパソコンで編集し、選手に見せた。そして夜通しで次の対戦相手を分析。翌日午前のミーティングまでに映像をまとめ、相手の弱点や対策、攻略法を伝授してきた。吉永コーチは「日程がつまっていたから、ほとんど(宿舎の)部屋から出られなかった。外付けのハードディスクの容量もいっぱいになっちゃった」と笑った。

 試合後には、同時期にS級ライセンスを取得したラモス瑠偉氏からも祝福の電話を受けていた吉永コーチ。「人生で初めて」という胴上げも受け、満面の笑みを浮かべていた。

<写真>山梨学院大付の吉永コーチ
(取材・文 西山紘平)

特設:高校サッカー選手権2009

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