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逆境で一丸となったチーム、岡田ジャパンはいかにして立ち直ったのか

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[6.14 W杯グループリーグE組 日本1-0カメルーン フリー・ステイト]

 崖っ縁まで追い込まれたことで、チームはひとつにまとまった。試合前の国歌斉唱。ピッチに並んだ11人も、ベンチ前の選手とスタッフも、全員が肩を組んでいた。

 これまでの代表戦では見られない光景だった。発案者はDF田中マルクス闘莉王で、ゲームキャプテンのMF長谷部誠岡田武史監督に話を持ちかけたのだという。

 「国歌斉唱のときにみんなで肩を組みたいけど、いいですか? ベンチも一緒に組んでくれますか?」という長谷部の言葉に指揮官は「喜んでやる」と即答した。

 12年ぶりとなる国際Aマッチ4連敗。直前のジンバブエとの練習試合も0-0に終わった。その間、得点はセットプレーから闘莉王が決めた1点のみ。攻撃も守備も破綻したチームは、高い位置からプレスをかけるプレッシングサッカーを捨て、リトリートしてから守る現実的な戦い方にシフトした。

 中盤にアンカーを置き、1トップには本来は中盤のMF本田圭佑。攻撃は少ない人数でのカウンターに頼るしかなく、どうやって点を奪うのか、その道のりは本大会直前まで見えてこなかった。

 周囲から聞こえる非難、批判の声。「どうせ勝てないんだろう…」というネガティブな空気は選手にも伝わっていた。

 本田は「最近、チームとしてなかなか結果が出なくて、正直、雰囲気もあまりよくなかったかもしれない」と言い、長谷部も「準備期間で結果が出なくて、いろんな試行錯誤をして、正直、選手も苦しかったし、不安もあった」と認める。

 守備的なサッカーへの転換に、選手も不満や不安を抱えていた。「今までのやり方を通した方がいい」と漏らす主力選手もいた。速攻なのか遅攻なのか。チーム内の意思統一もなかなか取れなかった。それでも、本番が目前に迫り、選手は開き直り、一致団結することができた。ギリギリのタイミングだったが、なんとか間に合った。

 「僕たちは予選のときから世界を意識して前からプレスをかけてきたけど、それが強い相手になってなかなかうまくいかなくて…。サッカーは生き物。僕らもどんどん考え方を変えないといけないし、方針転換してよかったと思う」。試合後、長谷部は自分に言い聞かせるように話していた。

 結果が出たからこその言葉ではある。だが、岡田監督の“賭け”が当たったのも事実。試合前のゲームプランもハーフタイムの指示も的確だった。求心力を失いかけていた指揮官と選手の信頼関係も瀬戸際のところで保たれた。

 もちろん、この勝利で浮かれるわけにはいかない。カメルーンもまた、今年1月から7試合勝利がないまま開幕を迎えるなどチーム内外に不安を抱える状態だった。実際、彼らのプレーはチグハグで、怖さも感じなかった。

 19日のオランダ戦、24日のデンマーク戦。残り2試合はそう簡単にはいかないだろう。厳しい試合になるのは間違いないが、今日の勝利で取り戻すことができた自信は、勝ち点3という結果以上に大きいはずだ。

(取材・文 西山紘平)

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