beacon

3-4-3の枠組みを超えた司令塔、ザックが本田に与えた“特権”

このエントリーをはてなブックマークに追加

[6.7 キリン杯 日本0-0チェコ 日産ス]

 まるでトップ下のようだった。後半に入ると、右FWで先発したFW本田圭佑(CSKAモスクワ)は中盤に引いてボールを受けるシーンが増え始めた。前を向いてパスを散らし、攻撃を組み立てる。“司令塔”とも言える役割は本田自身の判断とザッケローニ監督の考えが呼応した結果だった。

「私と本田の間で決めた。本田は頭のいい選手なので、サイドにスペースがなくて、真ん中にスペースがあることが分かっていた。自分がトップ下の位置に入りながら、岡崎を2トップの一角のように押し出すやり方をしてくれた」

 3-4-3を敷く日本のサイド攻撃を警戒したチェコはサイドにふたをした。4-2-3-1の2列目のサイドアタッカーも守備に戻り、日本に数的優位をつくらせない。逆にスペースが空いたのが中央のバイタルエリア。本田がそこに下がってくることで攻撃にタメが生まれた。

「サイドのところではめられているとき、(中央から)縦にボールを入れるには、ある程度キープ力を持っている選手でないといけない。それに関して本田はうってつけの存在だった。本田の特長として、90分間消えないでプレーし続ける能力がある。サイドに張っているだけでなく、中に来ることは間違ってない。手元にデータはないが、たぶん本田が今日一番ボールに触った選手ではないかと思う」

 3-4-3のシステム、戦術にとらわれない個の存在。指揮官の本田への期待の大きさ、評価の高さをうかがわせる。それでも、本田自身は満足していない。

「監督はポジティブなことを話していると思うけど、そのレベルで会話してちゃいけない。全体的にさすがだなと言われるようにならないと。最低ラインという意味ではよかった。これからよくなっていくという意味で」

 両チーム最多4本のシュートを放った本田が、そのすべてが直接FKだった。流れの中からシュートを打てず、後半33分には左からのアーリークロスでこの試合最大の決定機を演出したとはいえ、到底納得できる内容ではなかった。

「それぞれが(クラブに)帰って、意識しないと技術は上がらない。どれだけアンビション(野望)を持ってやれるか。そこが難しい。そういうちょっとしたところが得点に結び付く。(クラブに)戻ったとき、個を求める者、決定力を求める者、体を張って守る能力を求める者。それが次に集まったとき大事になる。今日がスタート。欧州組にはあんま休むなと言いたい。(吉田)麻也なんてまだ若いんだし」

 どんなにシステムを論じようと、どれだけ3-4-3が機能しようと、最終的に勝負を分けるのは個の力。その持論を崩さない本田の言葉にチームメイトも同調する。

 後半33分の決定的なヘディングシュートをGKチェフに阻まれたFW岡崎慎司は「一番は個々のレベルを上げないといけない。システムとかじゃなくて。システムがはまるか、はまらないかより、最後のところで点を決めるか決めないかは個々のレベルだと思う。そういうところでまだまだだった」と反省し、MF家長昭博も「チームとして機能するのも大事だけど、まだまだ個人技、個人能力を上げないといけない。なんぼ組織で戦っても、上では勝てない。個人的な能力をもっと上げないといけない」と力説した。

 ザックの枠組みを超えるような個の力の台頭。3-4-3の成熟以上に、それが大事であり、指揮官自身もそれを待ち望んでいるのかもしれない。

[写真]強行突破を図るMF本田

(取材・文 西山紘平)

TOP