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俊輔と周囲の間にある"温度差"、岡田ジャパンの新たな不安材料

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[3.3 アジア杯予選 日本2-0バーレーン 豊田ス]

 W杯直前を除けば海外組が合流できる最後の試合となったバーレーン戦は、MF本田圭佑(CSKAモスクワ)とMF中村俊輔(横浜FM)が互いに一定の“歩み寄り”を見せた一方で、新たな不安材料も露見させる試合となった。

 俊輔は試合前も試合後も、一貫して本田を「FW」として扱った。試合前の「トップ下の位置で横に動くだけで、裏に抜ける動きがない。トップ下というか、FWって考えた方がいい」という発言も、試合後の「本田が裏に行く動きとか、そういうのが阿吽の呼吸でできないと、本番では難しい」「(本田と岡崎のうち)1人がストッパーを引き付けて、1人が裏に行くことが大事」という言葉もそう。「オカちゃん(岡崎)と本田のセットはオプションになる」とのコメントは、本田を認めると同時に、あくまでFWとして考えていることも如実に表していた。

 本田はこうした俊輔の考えに対し「オカ(岡崎)が裏でもらうような動きをシュンさんはしてほしいんだと思う。危険なところに出したいと思っているんじゃないかな。だから俺もチャンスに絡みたいなら、そうしないといけない」と理解を示していたが、そもそもスピードのない本田を裏に走らせる攻撃がチームとして武器になり得るかというと、疑問符が付く。フィジカルの強さ、キープ力、得点感覚。ゴール前で相手に恐怖感を与えるプレーこそが、本田の持ち味であるはずだ。

 これが2人の問題であれば、時間とコミュニケーションが解決してくれる可能性もある。ところが、問題はもっと複雑だ。

 岡田武史監督は試合後の会見で「本田が2トップ気味になって、ボールが自分たちのペースで回らなかった」「(ハーフタイムに)本田のポジションが高すぎると話した。裏を狙うことも大事だが、うちのリズムになっていなかった。本田、長谷部、遠藤のところで少しボールを動かして、そこから外へ展開して、俊輔か松井が絡んで、外に起点をつくって攻めようと話した」と語った。

 本田の位置が高すぎる、裏を狙いすぎてリズムがない――。俊輔の感想とは正反対のものだった。これが岡田監督とだれか別の選手、例えばチームの主軸ではないような選手だったとしたら、分からなくもない。だが、俊輔は岡田監督から絶大な信頼を寄せられる“ピッチ上の監督”のような存在だった。これまでは試合前も試合後も、岡田監督と俊輔が口にする狙いや収穫、反省などは酷似していた。“以心伝心”とも言うべき信頼関係がそこにはあった。

 さらに、実際にピッチ上で本田とプレーした他の選手たちも、やはり俊輔とは異なる感覚を持っていた。MF長谷部誠は「(攻撃は)落ち着いてやれれば良かった。前線が裏に抜けることを考えてやっていたけど、うまくできなかった。やはり自分たちのペースで、しっかり崩していく方がいいと思う」と裏ばかりを意識した単調な攻撃を反省し、FW岡崎慎司も「(本田)圭佑が足元で持ったときは裏にパスが出てくるし、ボールも取られないから心強い。あそこでタメができると、いろんなところにタメが生まれて相手も絞れない」と話した。

 縦に急ぎ過ぎず、中盤でタメをつくってから裏を狙う。攻撃の起点はいくつもあるが、少なくとも本田も前線で裏を狙うのではなく、中盤で組み立てに参加する側という認識だった。DF内田篤人ははっきりと「本田さんは普通のトップ下としてやった方がキープ力を生かせるのではないかと思う」とまで言った。

 俊輔と、周囲の選手や監督との間にある“温度差”。チームの根幹をなすべき部分の問題であり、ここが曖昧なまま本大会に突入すれば、致命傷になりかねない。しかも、本田ら海外組が次に合流できるのは5月22日からの直前合宿。本番までの3週間で、すり合わせなければならない。

 東アジア選手権の惨敗を受け、これまでになく追い込まれた状況で“本田システム”を導入した岡田監督は「本田に期待していることは得点力。彼が点を取ったというのは他のだれが点を取るよりも我々にとってうれしい」と、結果で応えてくれた本田を絶賛した。微妙な変化が見えるチーム内のパワーバランス。岡田ジャパンは新たな“火種”を抱え、W杯までのカウントダウンに入った。

<写真>試合前の整列では隣同士だった本田圭佑(左)と中村俊輔

(取材・文 西山紘平)

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