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Jを目指せ! by 木次成夫

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第56回 東北リーグ入れ替え戦
by 木次成夫

12月16日、つまり、CWC(クラブワールドカップ)3位決定戦&決勝と同じ日、東北リーグ入れ替え戦「第2戦」、盛岡ゼブラ(1部8チーム中7位)対ビアンコーネ福島(2部南ブロック1位)が行われました。

ゼブラは57年設立。グルージャ盛岡、ガンジュ岩手(岩手県4部。今年度天皇杯出場)など後発の「Jを目指すクラブ」とは一線を画し、アマチュアチームとして現在に至っています。対するビアンコーネは福島県立郡山北工業高校OBを中心に98年から活動を開始した「ノーザンピークス郡山」が前身です。06年に(株)郡山FC運営のもと「Jを目指すクラブ」に転換する道を選択。今季からクラブ名を「ビアンコーネ福島」に改称。YKKフラッパーズ(現TEPCOマリーゼ)を指導するなど経験豊富な齋藤誠氏(54歳)を監督に招聘して、本格的リスタートを切りました。

東北リーグは1部8位(最下位)が自動降格、2部は南北ブロック1位どうしが優勝決定戦を行い、勝者は昇格、敗者は1部7位と入れ替え戦を行う規定になっています。ビアンコーネは北1位の秋田カンビアーレに0-2で敗退。そして、12月9日に行われた入れ替え戦第1戦は0-0。天皇杯福島県予選で1部6位の古河電池FCに勝ち、天皇杯1回戦ではV・ファーレン長崎(九州リーグ3位)に0-1で敗れたものの善戦したビアンコーネとしては、予想外の苦戦だったかもしれません。

第2戦の結果は5-1でビアンコーネが圧勝。1部昇格はチーム発足以来初めてです。リーグ24得点をあげて得点王に輝いたエースFWの足立原健二(23歳、流通経済大学新卒)が2点、シーズン途中に加入しながら16得点を記録した小倉大昌(24歳、前フェルヴォローザ石川・白山FC)が1点。他2点はビアンコーネの激しい攻撃の末にゼブラ守備陣がクリアミスしたオウンゴールでした。

スタメン中、「ノーザンピークス」時代からのメンバーは7人。一般論ですが「Jを目指す」クラブとして強化することは、一見、華々しい反面、旧来のメンバーからすれば、「自分たちが楽しんでプレーしてきた場を奪われる」可能性があります。地元零細企業に資本参加した“外資”が、やがて、経営権を奪っていくような状況になることもありえます。

第2戦で主将を務めた「一期生」遠藤貴之(28歳・写真)に、そのことを問うと、「葛藤はありましたし、練習に来なくなったチームメイトを電話で誘ったこともありました」とのこと。

遠藤の背番号は10。「1学年下」のFW松立圭介(28歳、リーグでチーム3位の8得点を記録)に比べると、動きは鈍いものの、プレースキックの精度とパスセンスは、“さすがは10番”と感じさせる選手です。活きの良い「新戦力」をボランチの位置から操るプレーは、チーム結成から10年間プレーしてきたベテランならでは。試合後、“ここらへんが限界ですよ”と謙遜気味に語りましたが、是非、“全然、通じない”と感じるまで頑張ってほしいものです。もっとも、これは「ノーザンピークス」全員にいえることですが……。ちなみに、遠藤と松立は79年生まれ。つまり、小野伸二や稲本潤一らに象徴される「ゴールデンエイジ」です。

相対的に優れている上に真面目な「新戦力」が加わった点も、新生「ビアンコーネ」には幸いでした。例えば、足立原。神奈川県相模原市出身で、流通経済大学柏高校から流経大進学。大学4年次、JFLプログラムに顔写真付きで掲載された際の背番号は12。主力がつけてしかるべき番号ですが、結果はJFLベンチ入り5試合、うち2試合途中出場0得点。難波宏明(現・横浜FC)、船山祐二(現・鹿島)ら層の厚いチーム中での競争に敗れたわけです。最後の公式戦、インカレ・プログラムには名前すら掲載されていませんでした。

足立原はビアンコーネ下部組織指導者と偶然、知り合いだった関係で誘われ、アマチュアとして“サッカーを続ける”決断をしたそうです。ちなみに、今季、町田ゼルビアの関東リーグ1部優勝に貢献したCB雑賀友洋(法政大学新卒)とは、子供の頃からの友達。クレバーな守備が武器な雑賀VS切れ味勝負の足立原。やがて、地域リーグ決勝大会などで幼い頃のライバル対決が実現するかもしれません。

「地域密着」という点では、ビアンコーネは今季から、地元のジュニアユース・クラブを吸収合併する形で下部組織を整備し始めました。つまり、大人の単独チーム「ノーザンピークス」に、下部組織所属の子供たちと、その親という「関係者」が加わったわけです。第2戦には、クラブ主催のバスツアーを利用したファンをはじめ、100人以上が試合会場の宮城県七ヶ浜サッカースタジアムを訪れました。車で約2時間半。ジュニアチーム所属の子供から、選手の祖父まで世代は様々。東京と比べると、耐え切れないような寒さに加えて、冷たい風の中……例えば、TVでCWC3位決定戦を見たほうがはるかに快適かもしれないのに、です。

福島県といえば、エリート教育の「Jリーグアカデミー」が注目されていますが、そもそも、サッカーは産業革命以降、過酷な労働をしつつも余暇を得たイングランドの人々が生み出した大衆文化です。Jリーグが本気で「100年構想」を考えているなら、“エリートではない”選手たちの「夢の受け皿」になるクラブを増やすべく、動いてほしいものです。TVで見るスーパースター以上に、身近な選手の頑張りは子供たちの夢を育み、中高年の“新たな楽しみ”になりえるのです。もちろん、ファンの存在は選手の「元気の素」になります。もはや、ビアンコーネ周辺には、JFAトップダウンの「夢先生」は不要だと思います。地元出身の「夢先生」が今後数十年、街角で偶然出会うことも十分にありえる「日常生活」の中に何人もいるのですから。

ところで、今季、東北リーグ所属クラブは1部1位の「Jを目指す」グルージャ盛岡、同2位の「企業チーム」NECトーキンともに全国地域リーグ大会一次ラウンドで敗退しました。リーグでは際立って強かっただけに、相対的にレベルが低いことを露呈してしまいました。そんな低調下の中でのビアンコーネ昇格。来季はリーグが活性化すること必至です。

2部南ブロックも注目です。ビアンコーネに勝ち点差3で2位に終わったペラーダ福島(本拠は福島市)は「Jを目指す」クラブですし、かつて日本代表主将を務めた経験もある藤島信雄氏を監督に擁するコバルトーレ女川(宮城県)が県リーグから昇格を果たすなど、新たな動きもあります。

日本各地のサッカー関係者、あるいはファンの中には、クラブが林立することは共倒れにつながるという見方をする人もいます。スポンサーを1チームに集中させれば、予算が増えて、相対的に強いチームを作ることができるという考え方です。確かに、FC岐阜やロッソ熊本のように、いわば「全県区」代表として「Jを目指す」のも策です。とはいえ、短期間でJリーグに昇格しながらも、トップチームの強さがファンの増大に結びついていない上に、経営に苦しんでいるクラブは多いのですから、必ずしもベストの策ではありません。幸いにも、ビアンコーネにはペラーダというライバルがいます。歴史的、文化的な財産でもある「地域間の対抗意識」をサッカーにつなげて、徐々に「サッカークラブとサッカーリーグのある生活」の魅力を浸透させていくのも、ひとつの策だと思います。

やがて、「ノーザンピークス」の選手たちが、「あの時、上にあげたのは俺たちだ」と誇れるようなクラブになれば……。それこそ、「100年構想」の理想ではないでしょうか。


以下、参考に今季の東北リーグ結果

(1部)
1位=グルージャ盛岡(勝ち点39)
2位=NECトーキン(同34)
3位=FCプリメーロ(同22)
4位=仙台中田SC(同16)
5位=塩釜FCヴィーゼ(同15)
6位=古河電池FC(同14)
7位=盛岡ゼブラ(同11)
8位=新日鉄釜石(同5)=自動降格
*ヴィーゼは現・鹿島の遠藤康を輩出した名門です。

<写真説明>ビアンコーネ主将、遠藤貴之(28歳)。長袖ユニフォームがないため、多くの選手がアンダーシャツを着用する中、半袖で90分プレーした

※本コラムは毎週火曜日更新予定です。ぜひ感想をこちらまでお寄せください。

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