beacon

Jを目指せ! by 木次成夫

このエントリーをはてなブックマークに追加

第59回 「北信越」から「J2」へ! G大阪Y出身「片山真人の再チャレンジ」
by 木次成夫

 昨年12月28日、FC岐阜が来季に向けて最初の新加入選手を発表をしました。

片山真人(松本山雅FC、FW・写真)

 J2入会を果たしたクラブとしては、一見、地味な「補強」ですが、同日にコーチとしての加入が発表された辛島啓珠氏(山雅監督)を含めて、「Jを目指すクラブ」は“Jとつながっている”と感じた移籍でした。地域リーグでも成長できるということを証明したことは、今後、多くの「Jを目指す」選手の励みになるでしょう。ましてや、片山は元エリートで挫折経験者。再チャレンジの良き見本だとすら思います。

 84年4月、大阪府高槻市生まれ。つまり、Jリーグ開幕時は「小学3年生」。いわば「Jリーグと共に成長してきた」世代です。練習に励むだけでなく、TV観戦も積極だったようで、「Jはけっこう詳しい、っす」(片山、以下、同)。

「マイヤーのゴールも覚えています」

Jリーグ開幕戦、ヴェルディ川崎(現東京V)対横浜M(現FM)でヴェルディFWマイヤー(オランダ人)があげたJ初ゴールのことです。

「ストイコビッチのパスを受けていた森山(泰行=現・岐阜、当時=名古屋)さんも見ていました」

「エムボマ(G大阪など)は次元が違いましたよね」

 憧れは? と問うと、躊躇なく「カズさん(三浦知良)です。だから、今は、FC岐阜でカズさんと対戦できるかもしれないのが、楽しみなんです」

 小学生時代は「GKで関西一次選抜まで選ばれたこともある」という片山は、G大阪Jrユースを受験して合格。「300人くらいが受けて、合格は5人程度の狭き門だった」そうです。ちなみに家長昭博、本田圭佑は“2学年後輩”。その後、U-15日本代表候補に選出されるなど成長し、順当にユース昇格。高校3年時にはJユース杯優勝、得点王、MVP。輝かしい実績ですが、それでもトップ昇格は果たせませんでした。

 例えば、当時の“同学年”スターは阿部祐大朗(桐蔭学園―横浜FM)、菊地直哉(清水JrY―清水商―磐田―現・所属なし)など。片山は近畿大学(経営学部)に進学しました。「プロ」とは大違いの生活でしたが、その経験があるからこそ、今があるのではないかとも感じます。

「学費は親に払ってもらっていたんですが、遠征費とか用具代とかサッカーに関わる金は自分で稼ぐという約束だったので、週2-3回ですが、夜10時から朝6時までコンビニでバイトをしていました。寮に戻って、朝6時半くらいから2時間くらい眠って、それから練習。授業は夕方からだったんで、バイトは夜中というわけです」

 大学4年時にはインカレ(全日本大学選手権)に出場。その時、山雅関係者の目にとまり、「熱心に誘われた」のが加入のきっかけだとか。山雅には昨季、片山を含めて8人の「大学新卒」が加入しました。午前練習で午後は仕事。クラブ側が練習に支障のない仕事を斡旋し、さらに栄養費として毎月数万円を選手に払う方式です。

 片山の勤務先は大手スポーツ用品店で、業務は接客。クラブが提示した選択肢の中から選んだそうです。試合や練習で積極的にファンサービスをする「そのまんまのノリで仕事をした」(関係者)とか。

 Jクラブの話をすると、「あの頃はユニフィームがアディダスだったんですよね」などと口にするほど“詳しい”片山には、ピッタリの仕事だったようです。また、客からすれば、例えばスパイクを買う際、片山に相談したほうが、説得力があります。

「サッカー用品売り場の売り上げは伸びたと思いますよ。仕事はやめないでほしい、って言われました」(笑い)

 肝心のサッカーは北信越リーグ開幕戦、対上田ジェンシャン戦でハットトリック(試合は6-0)の華々しいデビューを飾るなど大活躍し、優勝に貢献しました。リーグ14試合中13試合13得点(チームの総得点は47点)。また、明るい性格を存分に発揮して、チームの雰囲気を「穏やか」から「非常に賑やか」に一変させた点では「革命的」功労者です。

 中でも印象的だった試合のひとつは、第2節、山雅ホームのフェルヴォーローザ石川・白山戦でした。フェルヴォには阿部祐大朗(昨季、フェルヴォ加入。クラブ経営難でシーズン途中J2徳島に移籍)がいました。

 その試合、山雅は片山の先制ゴールなどで2-0の快勝。対するフェルヴォは阿部を含めて動きに精彩を欠いていました。「バイト学生」と「プロ」。それぞれの4年後は、あまりに対照的でした。

 ちなみに、地域リーグ所属クラブからJFLを飛び越えて「Jクラブ」に移籍するのは、昨季の池元友樹(ニューウェーブ北九州から柏へ)と高杉亮太(町田ゼルビア=当時・関東2部=から愛媛FC)以来。山雅にとってはクラブ創設以来初のJリーガー誕生です。

 振り返ると、11月25日、全国地域リーグ決勝大会一次ラウンドのFC Mi-OびわこKusatsu戦にFC岐阜関係者がいました。山雅関係者いわく「2月に岐阜と練習試合した頃から目をつけられていたらしい」とのこと。岐阜にとっては、当時はアマチュアゆえの「安さ」も、“掘り出し物”“的な興味をひいたのでしょう。

 果たして、片山は岐阜で活躍できるでしょうか。ボールをペナルティエリア付近まで運んでくれる選手がいれば十分に戦力になりえるとは思うのですが……。少なくとも、森山泰行の存在は「良い勉強」になるでしょう。

「地域リーグからJ2に行くということは、自分が一番下っ端だということ。ただ、自分しだいで、(ファンや関係者の)地域リーグの見方がかわると思っています。フィジカルでは負けないつもりなので、まずは、Jのスピードに慣れていきたいです」

 是非、1年前の片山のような「再チャレンジ」志願者のためにも、頑張ってほしいです。
ちなみに、松本山雅をはじめ、いくつかのクラブが今後、セレクションを予定しています。

1月14日(月=祭日)、栃木SC(JFL8位)、カマタマーレ讃岐(四国2位)

1月22日(火)、松本山雅
1月23日(水)ツエーゲン金沢(北信越1部4位)

1月26日(土)町田ゼルビア(関東1部優勝)、ペラーダ福島(東北2部南ブロック2位)

<写真説明>仕事をしていたスポーツ用品店をバックに。現在、松本市内で自主トレ中。15日に引越し予定

※本コラムは毎週火曜日更新予定です。今回編集部の都合で更新が遅くなりました。ぜひ感想をこちらまでお寄せください。

TOP