beacon

Jを目指せ! by 木次成夫

このエントリーをはてなブックマークに追加

第61回 「バリエンテ郡山(福島県3部参入予定)」
by 木次成夫

 昨年末にジョージ・ウェア氏(写真)の総監督就任を発表して話題になったクラブですが、最大の疑問は「なぜ福島県郡山(コオリヤマ)市なのか」ということでした。というのは、全国随一の“Jを目指す”激戦区だからです。

「ビアンコーネ福島」(郡山市=08年東北1部昇格)
「福島ユナイテッド」(福島市=ペラーダ福島から改称。07年東北2部南ブロック2位)
「アビラーション」(いわき市=08年福島県2部昇格)

 そんな中、バリエンテ郡山(以下、V郡山)は既存のチームを引き継ぐのではなく、現在、選手のスカウティング中(1月27日にはセレクション開催)。クラブを運営する「バリエンテスポーツ郡山」代表は、都内でオートバイの輸入販売やIT関係など幅広く事業を展開している立川光昭氏(31歳)。つまり、他県人です。もし、Jリーグへの短期的参入を最大の目標にするなら、相対的にレベルの低い地域リーグに所属する“他県”クラブを引き継ぐ策もあったはずですが……。

「郡山を選んだ理由」
 19日の設立記者会見で立川氏が話した内容をまとめると、以下のようになります。

・仕事の関係で郡山に滞在することが多く、知り合いとの交流の中で、今に至った。
・郡山市には、例えばJ2鳥栖、J1清水と比べても、人口、企業数という点でポテンシャル(潜在能力)がある。

 郡山市の人口は約34万人、鳥栖市は約6万5千人、静岡市清水区は約24万人。つまり、人口数を比較する限り、「Jクラブ」は可能です。もっとも、鳥栖は経営破たんの危機に陥ったことが複数回あり、清水は倒産したことがありますが……。

 プレスリリースの「スポンサー様のご紹介」(原文ママ)には、立川氏が経営するMCMコーポレーションを含めて合計51の企業と団体が掲載されていました。ユニフォーム胸スポンサーは、車買取・販売情報サイトのGulliver、同背中は、カラオケBOXチェーンの「クレヨン」(最新NEWS参照を!)。他、福島県内の企業も多数ある上に、「野口英世記念財団」の名も――。スポンサー料金、クラブ運営予算は未公表ですが、少なくとも人脈の広さは十分に感じられました。

「目指すは総合スポーツクラブ」

以下、プレスリリースの一部を原文ママで紹介します。

行け!雲の上のJリーグまで!
バリエンテ郡山のご紹介
~福島県に総合スポーツクラブを作ろう!~

チーム概念
サッカーのみならず、地域スポーツを活性化させる総合スポーツクラブ構想
地域知名度アップ+生涯スポーツ組織+少年世代育成+指導者・審判員育成+地域活性化

親子3世代で愉しめるプレー
小学生からトップまでの一貫教育
サッカー以外のスポーツ
地域ボランティア活動
うれしい時・くやしいときに一緒に泣けるチーム
目指せJ1

スタッフ紹介
総監督:ジョージ・ウエア 
現役時代はACミランやチェルシーなどでプレー
95年には欧州年間最優秀選手(バロンドール)を受賞
今後はGeorge Weah Soccer Accademy(GWSA)を通じ、アフリカの子供たちをはじめ、サッカーを基盤とした国際人の育成も精力的に行う

監督:大平 誠
現役時代はアルゼンチンやウルグアイでプロとしてプレー
その後、海外で指導者としての経験を積む
アルゼンチンS級ライセンスを保有

ヘッドコーチ:江澤 慶
イングランドサッカー協会公認資格(FA International:UEFA B)
日本サッカー協会C級コーチ
国際救命救助協会(C・P・R Basic)などを保有

 来るシーズンは福島県リーグ3部で戦うことになります。具体的なJリーグ入り目標年度は明示しませんでしたが、選手は「約35人体制」(立川氏)とのこと。プロ契約選手の数しだいですが、地域リーグ強豪並みのチームになるかもしれません。

 ちなみにウェア総監督は、数カ月ごとに来日する予定ながらも、「年間何日間、日本に滞在するというような契約はしていない」(立川氏)とのこと。リベリア代表監督経験があり、同国で政治活動もしているウェア氏の人脈を生かせば、将来的には、例えば、アフリカ人“留学”高校生選手も登場するかもしれません。駅伝みたいですが……。

 設立会見には、福島ユナイテッドFCを運営するNPO法人「福島夢集団」の横田篤代表が招待され、「お互い良きライバルとして頑張りましょう」など、挨拶をしました。同クラブは今年から、練習を平日昼間に移行し、昨季はビアンコーネ福島を率いた斎藤誠氏(54歳)を監督に招聘。昨季の選手兼任監督、時崎悠(28歳、前・水戸)を選手専任にしたほか、元Jリーガーを複数獲得するなど、積極的な強化をしています。中でも注目は4年前の全国高校選手権で準優勝を達成した筑陽学園のメンバー、桑原剛(22歳、前・札幌)。「Jリーグ合同トライアウト」に2回とも参加した末の加入です。「地方活性化」と「再チャレンジ」が大問題になっている日本の「良き見本」になってほしいです。

 報道によると“共倒れにつながる可能性があるので、チーム統合を進めるべき”という見方もあるようですが、なぜ、そうなるのでしょうか。昨年末には、長野県でも「統合」に関する報道があり、波紋を呼びました。疑問を感じます。チーム統合はスポンサーが集中する点では良策かもしれません。では、なぜ、例えばJFLでは「ダメ」なのか。J2=1クラブの予算で、JFL=3-4クラブの運営は不可能ではありません。「地域密着」や「子供の夢」を本気で重視するのであれば、例えば、車で2時間以上かかる人もいるかもしれない「強豪クラブ」ひとつよりも、子供が公共交通機関で通える身近な「弱小(あるいは中堅)クラブ」が県内に複数あるべきだとすら思います。

 また、サッカークラブの統合よりも、様々なスポーツ関係者が事実上“奪い合っている”補助金(税金)を、お互いのためになるように有効利用したり、自治体主導の観光イベントにサッカーの試合を組み込んだりすることを考えたほうが、よほど得策ではないでしょうか。せめて、子供たちが自分の試合があるゆえに、大人のサッカーを見にくい(学びにくい)スケジュールを調整するとか。福島県は喜多方ラーメンを全国的に有名にした実績もあるわけですから、様々な面で「地域活性化」を目指す人たちの知恵を結集すれば、サッカーの現状は「大きな武器」になると思うのですが……。

 ところで、バリエンテ(VALIENTE)は“勇敢な”を意味するスペイン語の形容詞です。北信越リーグ1部所属の「VALIENTE富山」は日本語表記“ヴァリエンテ”ですが……。紛らわしいと感じるファンも多いのでは? とは思いました。

<写真>総監督に就任したジョージ・ウエア。現在、母国リベリアで政治活動をしながら、アメリカの大学で勉強中

※本コラムは毎週火曜日更新予定です。ぜひ感想をこちらまでお寄せください。

TOP