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Jを目指せ! by 木次成夫

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第62回 「セレクション・シーズン終盤模様」
by 木次成夫

 セレクション・シーズンも終わりに近づいてきました。

 例えば、
 1月22日、松本山雅FC(07年、北信越1部優勝)=約80人が参加(東京都内で開催したことも、受験者が多かった要因でしょう)。
 1月26日、FC町田ゼルビア(07年、関東1部優勝)=約50人が参加。

 ともに、15日の「第2回トライアウト」に参加したJリーガーが複数いました。数年前には、自発的に地域リーグ・クラブ加入を希望するJリーガーは皆無だったのですが……。
 報道されることが少ないため、知り合いのツテか、成績を見て研究する程度しかできないはずですが、いわゆる「場違い」の選手が少なかった点も印象的でした。地域リーグでプレーしていた顔見知りの選手がいたので話したら、「カマタマーレ讃岐(07年四国2位)のセレクション(14日)にも参加しました。ゼルビアの試合は見たことがありません」。

 クラブ側はセレクションとは別に「一本釣り」も狙っているわけですから、細かいことまで考えても意味がないのかもしれません。また、“狙った選手に断られたので、急遽、XXのポジションを探さないと”――といった状況になる場合もありえます。例えば、「第2回Jトライアウト」に参加した吉岡聡(前・横浜FC)は、数日後にカターレ富山(JFL)から加入発表がありましたが、トライアウト後は、他クラブ関係者とも話をしていました。

 申し込みから、合否発表までの期間も、選手を悩ませせる問題です。例えば、ゼルビア・セレクション参加費の振込み締め切りは22日、つまり山雅セレクション当日。そして、合否発表は、「合格者だけ25日中に電話連絡をする」(山雅の担当者)。26日はゼルビアの他に、福島ユナイテッド(前・ペラーダ福島。07年東北2部南2位)もセレクション予定でした。山雅の発表前に翌日に向けて移動しなければならない選手もいたかもしれません。少なくとも山雅、ゼルビア両方のセレクションに参加した選手は複数いました。

 ところで、ゼルビアは昨年12月23日に「第1回」セレクションを行いましたが、「第2回」の要項に付け加えられた要素がありました。「この度、プロ契約制度を設けました」という一文です。選手からすれば、魅力を感じつつも、“ということは、今までプロ契約はいなかったわけ?”と、意外に感じたかもしれません。

 地域リーグ強豪クラブの中には、「プロ」もいますが少数です。元Jリーガーが複数いるクラブゆえに期待して受験したものの、「アマチュア」(あるいはセミプロ)契約を提示されることはザラです。ゼルビアの場合、昨季同様、クラブが斡旋した企業で働くか、下部組織のサッカースクールスタッフなどになる選択肢もあります。

 戸塚哲也監督(写真左)の就任、山口貴之と蒲原達也(共に前・鳥栖)の加入を含め、スポンサーの支援が高まった証でしょう。今季から練習時間も一部昼間へ移行しました。全面的に昼間に変えたカマタマーレ讃岐や福島ユナイテッドに比べると遅れていますが……。例えば、昨季JFL7位の横河武蔵野FCは未だ夜間練習ですから、昼間練習が絶対的ベストというわけでもありません。

 第2回セレクションでは早速、戸塚・新監督の意向が反映されました。募集要項に記されていない3200mタイムトライアルを最初に実施したのです。戸塚監督いわく「ゲーム形式だけだと、実力の差がわかりにくいんですよ」。

 昨季のFC岐阜セレクションでは長距離走はありませんでしたから、当時の経験などから導き出した“最新”判断でしょうか。いずれにせよ、一昨季はFC岐阜、昨季は途中から率いた「MIOびわこ草津」をJFLに導いた、いわば「昇格請負人」が、若さゆえの淡白さ以外は昇格3チームに遜色なかったゼルビアを、どう変えるか、楽しみです。

 現状では、ゼルビアのサッカーを評価する一方で、“町田にはJリーグ基準のスタジアムがない上に、自治体が積極的ではない”とネガティブな指摘をする人が多いです。自治体の潜在能力や財産を生かすためにも、ゼルビアを利用しないのは“もったいない”し、今こそ大チャンスだと思うのですが……。

「ゼルビアは地元育ちの選手が多い」
FW竹中穣(31歳、前・横浜FC)、サイドMF酒井良(30歳、前・草津)の「二大重鎮」はじめ、CB雑賀友洋(23歳、法政大学出身)、FW舩山翼(23歳、駒澤大学出身)ら地元(町田・相模原地域)育ちが多い中、MF山口貴之(34歳)も加わりました。読売クラブ(現・東京V)育ちで、アトランタ五輪“一次予選”代表だった「地元の英雄」です。

「町田は市制50周年」
町田市は人口約40万人。市制50周年記念事業になんらかの形でゼルビアを加えてほしいものです。近年のゼルビアの躍進ぶりと将来性はキャッチフレーズの「あなどれません。町田」にピッタリだと思うのですが……。

「町田は大学の町」
町田市は地域の14大学(短期大学含む)と「包括協定」を06年に締結しました。市役所HPを見ると、「お互いのもつ特色を活用しあうことにより……」、「学生が地域で活動するための仕組み作りや……」といった表現があります。例えば、「地域密着スポーツ推薦枠」とでも題して、「ゼルビア所属希望も体育会サッカー部希望と同等の扱いで募集」すれば……。大学サッカー部は弱くなるかもしれませんが、大学全体として「教育としてのスポーツ」の意義は高まるのではないでしょうか。ゼルビアが実践している地域密着活動を含め、話題の早稲田大学通信課程では経験できない「社会勉強」ができるはずですから。

「2013年=国体、2016年=五輪」
東京都が開催を目指しています。ゼルビアのホーム、町田市立陸上競技場はサッカー会場に最適です。まず、改修で済むため割安。町田は、かつての“ニュータウン”ゆえに高齢者が多いため、ボランティア候補多数。横浜、東京都心に比較的近いため、観戦者などの宿泊面でも絶好の立地です。例えば、W杯が開催された大分、新潟、鹿島などとは比較になりません。

「鶴川駅近所に公共施設建設予定」
ホームスタジアムや練習場の最寄り駅のひとつです。計画案を見ると、ホール、会議室、図書館など「誰もが気軽に立ち寄れる地域にひらかれた施設」を目指すとか。ゼルビア・グッズを販売したり、選手を雇用すれば、例えば読書に興味はない人が立ち寄る“きっかけ”にもなりえます。

「相模原にJリーグクラブを作る会」
隣接した相模原市(神奈川県)でも、「Jを目指す」運動が本格化し始めたようです。つまり、ゼルビアが町田・相模原「社会文化圏」の総力を結集したクラブになる可能性は、現状ではなくなりました。しかし、新たな“ダービー”文化圏が生まれることは、地域全体の活性化につながると思います。

<写真説明>セレクションで談笑する新監督の戸塚哲也氏(左)と選手兼コーチの竹中穣(前・横浜FC)

※本コラムは毎週火曜日更新予定です。ぜひ感想をこちらまでお寄せください。

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