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Jを目指せ! by 木次成夫

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第67回「白熱必至! 北信越リーグ展望 松本山雅FC編」
by 木次成夫

昨季はリーグ優勝したものの、全国地域リーグ決勝大会では一次ラウンドでMIOびわこ草津に敗れて、決勝ラウンド進出を逃しました。つまり、「JFL昇格を目指す」点では、バンディオンセ神戸に次いで、町田ゼルビアなどと並ぶ「2位」に位置しています。

3月2日の新体制発表会見には200人以上のファンが集まりました。会場は結婚披露宴やパーティで利用されるレセプション施設。瀟洒な外観と内装は、サッカーファンには“どう見ても”場違い。日曜日に「ファン参加OK」の会見を開催したクラブ側も、会場を貸した側も、“粋”だと思いました。サッカーに興味のない“結婚相談”カップルのムードを台無しにするかもしれない異質な光景が一時的ながらも入り口付近に“あった”わけですから。

会見後には約30分間ながらも、選手とファンの交流会もありました。サインや記念撮影だけでなく、“会話もアリ”ゆえに交流会ということでしょうか。戸惑った新加入選手もいたかもしれません。一般的な自己紹介後に、“この日が待ち遠しかった”といわんばかりに目を輝かせたファンの前に、放り出されるわけですから。例えば“サッカー選手だからプレーだけで表現する”ポリシーゆえに黙って帰るような選手は、山雅では許されません。また、ファンも、「松本での生活は慣れましたか」と問いかけるなど、“いきなり”日常会話。信頼できる生活情報が入手できる(ファンは選手を騙すわけがありません)という点では新加入選手にも役立つ上に、サッカー教室など“サッカーがらみ”とは違った意味で効果的な「地域密着」策だと思いました。

是非、日本全国の「Jを目指すクラブ」にもパクッてほしいです。

交流会で最も印象に残ったのは、栃木SCから加入した吉田賢太郎(27歳、前・栃木SC)でした。一昨季の天皇杯で栃木が東京Vを破る快挙を演じた試合で得点を決めた選手です。つまり、山雅に加入したのが不思議なくらいの大物なのですが、ファンとの記念撮影の際、自主的に子供を抱き上げ(上の写真)……ビックリ。気さくな会話を含め、自然で無理のない対応も目の当たりにして、“栃木SCは凄い人材を失ったかもしれない”と思ったほどです。

ところで、今季の山雅トップチームは合計25人(昨季開幕時は22人)。うち新加入は12人。多彩な顔ぶれを見て、地道なスカウティングと、“人のつながり”の重要性を感じました。知り合いが「良くない」というクラブに移籍するわけがありませんから。また、片山が岐阜に移籍したことも、好イメージにつながっているのでしょう。

以下新加入選手。
FW吉田賢太郎=今季の主将、矢畑智裕とはJ2水戸時代のチームメイト。
GK原裕晃(29歳、前・栃木SC)=昨季まで長らく栃木の正GK。
FW江口正輝(22歳、G大阪Y→近畿大)=片山真人(現FC岐阜)の後輩。
MF大西康平(25歳、前YKK AP)
MF大井逸都(22歳、前アルテ高崎)
MF鈴木孝(22歳、前・大原学園)=長野県内にあるサッカー&公務員専門学校出身(北信越2部所属)。今後も期待できる“ルート”です。
MF鈴木亮平(24歳、前・山形)。Jリーグトライアウトに2回とも参加。竹内優、三栗寛士(共に2年目)の駒澤大学“1年先輩”。
DF阿部琢久弥(23歳、前TDK)。竹内、三栗と駒澤“同級生”。
DF坂本史生(23歳、前・東京学芸大)。インカレで活躍。松本の隣、塩尻市出身。「生まれたのは松本市内の病院」(本人)。竹内と高校“同級生”
DF田中明弘(22歳、前・新潟経営大学)。インカレで活躍。同大学は昨季、北信越リーグ1部所属(今季は2部)。
MF川田和宏(25歳、大分からレンタル)。国見高校時代は大久保嘉人(神戸)らと同級で、全国選手権優勝。昨季はガイナーレ鳥取にレンタル。「(同級生の)吉田(匡良=2年目=今季副将)とは子供の頃からの知り合い」(本人)。
FW柿本倫明(30歳、前・湘南)。第1回トライアウトに参加。山雅スタッフの1人と高校“同級生”。

会見の前日、3月1日には今季初の練習試合がありました。相手は名古屋グランパス(主力以外)。結果は0-2で敗退しましたが、今季が期待できる内容でした。名古屋の花井聖が相変わらずセンス抜群だった点も“行った甲斐”がありましたが……。ちなみに、約30人の山雅ファンがグランパス練習場まで観戦に訪れました。

新加入選手もプレーした2本目の布陣は以下の通り。
GK三栗寛士(→原裕晃)
右SB阿部琢久哉
CB矢畑智裕
CB三本菅 崇
左SB吉田匡良
右MF鈴木亮平
右ボランチ大西康平
左ボランチ川田和宏
左MF阿部孝
FW吉田賢太郎(→大井逸都)
FW江口正輝

合流したばかりゆえにプレーしなかった選手もいましたが、“もしかしたらスタメン中7-8人は新加入メンバーになるかもしれない”と感じたほど、充実した補強です。既存メンバーの成長に“もっと”期待しても良かったのではないかとも思いますが、「2~3年目の油断」もあるかもしれないので、「強い刺激」の方が成長を促すのかもしれません。

チーム全体のプレースタイルという点では、昨季の主将、土橋宏由樹(現・長野パルセイロ)の“穴”をどうするのかという点に注目しています。川田が上がるか、鈴木(亮)が内に切れ込むか、吉田(賢)が下がるか――。代役を探すのではなく、コンビネーションの中で、“トップ下”のスペースを利用することが、多彩な攻撃につながるのではないかと思いました。中でも“日本全国全世代で希少な左利きボランチ”川田の存在は大きな武器になる可能性があります。

リーグ開幕は4月13日。山雅初戦の相手はサウルコス福井(昨季2部2位)。昨季の成績が低い順に試合をして、7節に長野パルセイロ(昨季2位)とホームで“信州ダービー”(6月8日)というスケジュールです。そして、最終14節はパルセイロ・ホームの“ダービー”(9月7日)。昨季は「2日連戦」が一回ありましたが、今季はナシ。ファンからすれば、事実上「もう1週」楽しみが増えたわけです。コストパフォーマンスという点では、浦和レッズ(年間予算は山雅の90~100倍=推定)と比べても“健闘している”山雅にとっては、願ってもない舞台設定です。

リーグ序盤の注目は、4月20日の第2節、アウェーのグランセナ新潟(昨季2部優勝)戦。ジャパンSC同様、“山雅が不慣れな”人工芝ゆえ、ハプニングがあるかもしれません。

<写真説明>ファンとの記念撮影する吉田賢太郎(前・栃木SC、新加入)

※本コラムは毎週火曜日更新予定です。ぜひ感想をこちらまでお寄せください。

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