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Jを目指せ! by 木次成夫

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第69回「バンディオンセ加古川」
by 木次成夫

3月17日、バンディオンセ神戸(昨季、関西リーグ1部優勝)が兵庫県加古川(カコガワ)市への“ホーム移転”会見を行い、クラブ名を「バンディオンセ加古川」に変更することを発表しました。

スポーツ振興に力を入れる加古川市の理念と、地域に密着した活動をし、「Jの着く場所」を目指すクラブの理念とが一致し、Jリーグを目指すチームとしてバンディオンセ神戸がHOMETOWNとしてここ加古川市に活動拠点をおくことになりました。(会見でのリリース資料から抜粋)

要は、神戸をベースにした活動に限界を感じたバンディと、地域活性化を目指す加古川市の“願い”が一致したということです。

「昨年の全国地域リーグ決勝大会の後、行政の支援、経済界の支援は不可欠だと思った」(バンディオンセ神戸社長、松本満生氏)

バンディは、例えば、ロアッソ熊本のように「地元財界の大々的支援を受けてスタートした」わけではありません。大企業傘下でもありません。選手がコーチを努める子供向けサッカースクールを運営することで、選手が「サッカーで生活できる」環境を整備してきました。

しかしながら、3年連続出場を果たした昨年の全国地域リーグ決勝大会では決勝ラウンド4位。初戦のファジアーノ、2戦目のMIOにPK勝ちし、首位で3戦目のニューウェーブ北九州戦に臨んだのですが……、PK敗でもJFL昇格が決まる状況だったのですが……、0-2の敗退。最終順位は1位=ファジアーノ岡山、2位=ニューウェーブ北九州、3位=MIOびわこ草津の3クラブがJFL昇格。2位から4位まで勝ち点で並ぶ激戦でした。

ホーム移転は“ギリギリの決断”だったと思います。経営難に陥ったこともあるヴィッセル神戸に次ぐ「ふたつ目」のJクラブを目指すことの難しさ。スクール生の子供たちや、“数少ないながらも”暖かいファンへの思い……。

移転発表会見は加古川市民会館で行われました。出席者は松本満生氏の他、田中真二バンディ監督、加古川市長、同市議会議長、同商工会議所会頭、「Jリーグチームのある街づくり実行委員会」設立準備委員会代表、兵庫県サッカー協会副会長、同サッカー協会専務理
事、東播サッカー協会会長。ちなみに、東播(トウバン)は加古川市の属する地域名です。

加古川市は人口27万人弱。県西部の中核都市である姫路市の東に位置しています。例えば神戸の三宮駅から加古川駅までは各駅停車で約50分。姫路駅から17-18分。地味な小都市ながらも、大都市とのアクセスが比較的良い点で、欧州小都市標準(?)の「伝統クラブ」のような存在に育つ(かもしれない)可能性を感じました。最大の目標は“1部残留”ながらも、カップ戦で10年に一回、大快挙を演じるような――。

例えば、商工会議所が協調するということは、スポンサー面で期待できるということです。
「小さい商店から大きな企業まで幅広く声をかけていきたい」(松本氏)。
「ダメだ、ダメだといっても、しっかりした企業もあります」(商工会議所会頭、西川隆雄氏)。

西川氏の率直なコメントには、ビックリしましたが……。不況ゆえに経営難の企業も多いという意味でしょう。

自治体との協調という点では、地域リーグ残留を“チャンスにつなげる”猶予期間と見ることもできます。つまり、短期間でJ参入したものの、経営難で苦しむ複数のクラブと自治体の協調体制を分析、学習した上で、今後の戦略を練ることができるということですから。また、ファジアーノ、MIO、NWが昨季のメンバーをベースに、少なくともJFL第1節では大健闘したことは、チーム全体の自信につながったでしょうし、同時に、自治体や市民に「バンディの現在位置」をPRする上でも、幸いだと思います(町田ゼルビア、松本山雅しかりですが……)。

関西リーグ開幕は4月12日(土)。バンディは今季17人が新加入(うち7人は昨季JFチーム所属)しました。「アマチュアとして仕事とサッカーを両立させてきた選手は精神面で強い」(田中監督)のが補強ポイントのひとつだとか。もちろん、優勝候補のダントツ筆頭ですが、ファンをいかに増やすかという点では苦戦するかもしれません。

残念ながら、関西リーグは、サッカー人口と比べてグラウンド数が少ないゆえに、中立地での試合開催が複数あるなど、“ホームを満喫しにくい”のです。今季、ホームを“感じる”のは14試合中、加古川市の日岡山公園グランド、加古川陸上競技場(来季以降のホーム候補)、神戸ユニバ・サブ=準ホーム(?)の合計3試合のみ。ちなみに、“日岡山”は階段状の観戦場所が“数段”あるだけで、観戦は網の柵越し(あるいは、対面の山状斜面から)です。他のスポーツ団体との兼ね合いや、試合運営だけで手一杯という状況もあるでしょうが、是非、今後は自治体協調のもと、「試合を見て、楽しむ」ファン対策を練ってほしいです。立派なスタジアムを建設(改修)するということではありません。理想は、子供が気軽に行けて、ついでに、タコ焼き(あるいは明石焼き?)を食べつつ、試合も楽しめるような環境ではないでしょうか?

ところで、「バンディオンセ加古川」という名称は、いわば期間限定で、来季以降の「名称とロゴは今後、公募をして決める予定」(松本氏)だそうです。松本氏は、移転を「結婚」にたとえ、将来を見据えて、「名前をかえることはやむをえない」と語りました。

結婚ということは、生まれ育った地を離れる「バンディオンセ神戸」が“新婦”ということでしょうか。とすれば、従来のファンやスクール生は「新婦親族」。せめて、ルーツがわかるような名称(ロゴ)にすることはできないものか、とは思いました。

例えば、東播(トウバン)+バンディオンセ≒トウバンディ加古川。神戸のスクールは従来通りの「バンディオンセ神戸」として残し、加古川ベースに「バンディ」ブランドで展開するとか……。しようもない駄洒落になりますが、ボールボーイやボランティアなどに感謝するべく、「XXX学校サッカー部“トウバン(当番)デイ”」なんて風にも使えます。

いずれにせよ、昨季段階で「チームの強さ」と「ファンの少なさ」のギャップという点で、MIOに次ぐバンディが今後どうかわっていくか――。楽しみです。

●JFL前期第1節
(3月16日)
SAGAWA SHIGA FC(昨季優勝) 1-2 MIOびわこ草津(今季昇格)

カターレ富山 2-2 ニューウェーブ北九州(今季昇格)
※カターレは昨季4位のアローズ北陸と同6位のYKK APの統合チーム。観衆10704人=9試合中最多)

Honda FC(昨季5位)2-3 ファジアーノ岡山(今季昇格)

横河武蔵野FC(昨季7位) 2-1 アルテ高崎(同18位=最下位)
※初の国立競技場開催で、観衆4101人

栃木SC(同8位) 3-1 FC琉球(同17位)
※観衆6338人。

ジェフリザーブズ(同9位) 0-2 FC刈谷(同16位)
流通経済大学(同10位) 1-1 三菱水島FC(同15位)
ソニー仙台FC(同11位) 1-2 ガイナーレ鳥取(同14位)
佐川印刷SC(12位) 1-1 TDK SC(同13位)

※本コラムは毎週火曜日更新予定です。ぜひ感想をこちらまでお寄せください。

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