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Jを目指せ! by 木次成夫

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第72回「JFL前期5節 横河武蔵野FC対ガイナーレ鳥取」
by 木次成夫

4節を終えた時点の順位は
1位=栃木SC(4連勝)
2位=ファジアーノ岡山(4連勝)
3位=横河武蔵野(3勝1分け)
……
8位=ガイナーレ(2勝2敗)

横河武蔵野は昨季7位。ガイナーレ戦のスタメン中、新加入4人。今季は、主力2人がガイナーレに移籍するなど、戦力ダウンが懸念されていましたが、トルシエ総監督で話題のFC琉球にも1-2で勝利するなど健闘しています。

対するガイナーレは、昨季開幕前に「Jリーグ準加盟」を承認されたものの、14位に低迷。今季は大規模な補強を敢行しました。この試合のスタメン中、新加入8人。主将でボランチの吉野智行(27歳、前・横浜FC)ら半数以上がJリーグ経験者。タイのチョンブリFCからレンタルで加入したハメド(20歳、コートジボアール人)とアドゥール(21歳、タイ人)という“異色助っ人”もいます。

結果は2-1で武蔵野が快勝。「見ていて楽しい」攻撃サッカーは健在でした。その一方で、ガイナーレは未だチーム熟成の初期段階という印象。個々の能力を生かしきれませんでした。例えば、サイドアタッカー、ハメドのドリブル突破力は相対的には際立っていましたが、武蔵野は複数の選手が早めにプレスをかけることで、抑えきりました。

開幕前は、武蔵野に“アマチュアゆえの限界”が露呈したとしても、「時代の潮流」なのだろうと思っていました。メンバーの中には横河電機社員もいますが、例えば、今年入社新人は1人で、来年度入社内定新人が2人と、少数派。依田博樹監督いわく「プロ志向の大学生が多いからでしょうか、うちは人気がないんですよ」。

今や「Jを目指す」地域リーグ所属クラブですらプロ契約、あるいは毎月数万円の“手当て”を支給するアマチュア契約で強化を進めていますが、武蔵野のアマチュア選手はノーギャラです。遠征費など試合に関わる経費はクラブが負担し、ユニフォームやトレーニングウエアに加えてスーツも支給されますが……。

ところが、現状は大健闘。平日夜間練習ゆえ、「昨季は暑い夏を乗り切れなかった」(依田監督)経験を、いかに克服するかが今後の課題ですが、まずは、5月11日(11節)の栃木SC戦が楽しみです。

横河武蔵野FCに、相対的に小粒ながらも好選手が揃っているのは、雇用状況が比較的良い東京という「立地」が大きな理由でしょう。また、プロを志してチームを去る選手がいる一方で、加入希望選手も“それなりに”いる点も、学生が多い東京ゆえでしょう。

例えば、ガイナーレ戦で「JFL通算100試合出場」を達成したボランチ中島健太(23歳・6年目)は桐光学園(神奈川県)出身です。つまり、本田拓也(法政大学→清水エスパルス)の“1年先輩”。東京都杉並区育ちで、中学時代はFC東京U-15。現在は、地元のホテルに勤務しています。

ガイナーレ戦で先制点(リーグ通産3点目)を決めたサイドアタッカー、林俊介(22歳)は来年度入社内定の新人です。岐阜工業から東京学芸大学に進学し、昨季は坂本史生(松本山雅に加入)、高野耕平(長野パルセイロに加入)らと共に、インカレ・ベスト8進出に貢献しました。「社員としてサッカーを続けられるチームに入りたかった」(林)。学芸大は近隣の小金井市にあるため、すでに慣れ親しんだ生活環境のままでいられる点も魅力だったのかもしれません。ちなみに、インカレ優勝の早稲田大学から加わったCB金守貴紀(22歳)も来年度入社内定で、林同様に活躍しています。

今季は高卒新人も加わりました。まずは、湘南ベルマーレ・ユース出身の岡正道。ガイナーレ戦は先発出場。165cm、65kgと小柄ながら、安定した下半身を生かしたドリブル突破で勝利に貢献しました。現在、ケガでリハビリ中ですが、水戸ホーリーホック・ユース出身のMF柳澤晶は柏レイソルの柳澤隼の実弟。試合後、ファンと“きさくに”話をするなど、すでに“慣れ”を感じます。また、FC東京からレンタルでGK廣永遼太郎(07年U-17W杯の正GK)も加入しました。

「練習試合とかで対戦した兄貴から“良いチーム”と聞いていたんです。実際、横河武蔵野のプレースタイルが好きですし、練習環境も水戸より、良いくらいですよ」(柳澤)。

当たり前の「事実」ゆえに、柳澤にいわれるまで忘れていたのですが、横河電機グラウンドを使用していることは、このクラブの「最大の武器」でしょう。下部組織の子供たちや、横河電機ラグビー部も利用していますが、JR三鷹駅から徒歩数分。ホームのひとつ、武蔵野陸上競技場は同駅からバスで数分(徒歩20分程度)。確かに、「スポーツジムで働いて、1人暮らしをしている」柳澤にとっては、サッカーも日常生活もしやすい環境だと思います。

実は横河武蔵野FCの存在は、“東京在住”地方クラブ・ファンにとっても幸いです。ガイナーレ戦の観衆は1002人でしたが、「鳥取県人会」の方々も観戦していました。昨季はロッソ(ロアッソ)熊本の試合に、多くの熊本出身ファンが集まっていました。サッカー観戦“ついでに”県人会(&飲み会?)というわけです。
現在、都内のJFL所属チームは横河武蔵野FCだけ。もし、関東リーグ一部の町田ゼルビア(昨季優勝)がJFLに昇格すれば、「県人会」を年に2回招集できるということになります。もちろん、武蔵野と町田は“ダービー”も楽しそうです。お互いが「ポゼッション&サイドアタック重視」スタイルという点でも――。

やがて、長崎県、石川県など、様々な県人会ができるようになれば……。選手の「受け皿」という点だけでなく、地域サッカー文化の一大拠点として、横河武蔵野FC(及び武蔵野地域)は重要な存在になる可能性があると思います。JFLは主に昼間開催ゆえ、「打ち上げ」する時間は十分。武蔵野地域は飲食店も多数。条件は、揃っています。

▼JFL前期第5節
(4月5、6日)
流通経済大学(昨季10位) 1-3 ソニー仙台FC(同11位)
横河武蔵野FC(同7位) 2-1 ガイナーレ鳥取(同14位)
SAGAWA SHIGA FC(同優勝)3-0 FC琉球(同17位)
カターレ富山 0-1 FC刈谷(同16位)
Honda FC(昨季5位)1-0 三菱水島FC(同15位)
栃木SC(同8位) 2-1 TDK SC(同13位)
ニューウェーブ北九州(今季昇格)1-0 アルテ高崎(昨季18位=最下位)
ファジアーノ岡山(今季昇格)2-0 MIOびわこ草津(今季昇格)
ジェフリザーブズ(昨季9位) 1-2 佐川印刷SC(同12位)

1位=栃木(勝ち点=以下同=15)
2位=ファジアーノ(15)
3位=横河武蔵野(13)
4位=Honda(12)
5位=MIO(10)
6位=ソニー仙台(9)
7位=刈谷(7)
8位=ジェフ(7)
9位=ガイナーレ(6)
10位=SAGAWA SHIGA(5)
11位=流経大(5)
11位=NW(5)
13位=佐川印刷(5)
14位=カターレ(4)
15位=琉球(3)
16位=TDK(同2)
17位=三菱水島(2)
18位=アルテ(1)

・「Jを目指すクラブ」の動向
関東リーグ前期1節
(4月6日)
FC町田ゼルビア(昨季優勝) 4-1 厚木マーカス(今季昇格)

四国リーグ前期1節
(4月6日)
徳島コンプリール 3-10 カマタマーレ讃岐(昨季2位)
しまなみFC 2-1 南国高知FC(昨季3位)

九州リーグ1、2節
(4月5、6日)
第1節
V・ファーレン長崎(昨季3位)7-0 九州INAX(今季昇格)
ヴォルカ鹿児島(同5位) 1-0 OSUMI NIFS(同8位)
沖縄かりゆしFC(同6位)3-0 三菱重工長崎(同7位)

第2節
海邦銀行SC 1-3 V・ファーレン
三菱重工 2-4 ヴォルカ
ヴァンクール 3-8 沖縄かりゆし

※本コラムは毎週火曜日更新予定です。ぜひ感想をこちらまでお寄せください。

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