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Jを目指せ! by 木次成夫

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第116回「全国地域リーグ決勝大会“決勝ラウンド”3日目」
by 木次成夫

 28~30日に石垣島で行われた“地域決勝”の決勝ラウンドは町田ゼルビアが優勝を飾りました。

<最終順位>
1位=町田ゼルビア
2位=V・ファーレン長崎
3位=ホンダロック
4位=レノファ山口

 ゼルビアの戸塚哲也監督は、06年のFC岐阜、昨年のMIOびわこ草津に続き、3年連続昇格達成。まさに“昇格請負人”です。

<第1試合>
ホンダロック 1-2 ゼルビア

 2試合を終えて、ゼルビアは勝ち点5で「3位以内」が確定していました。対するホンダロックは同3。この試合で敗れて、第2試合でレノファが勝てば、得失点差で最下位になる可能性があるため、モチベーションという点では、ホンダロックが勝っていたようです。ホンダロックは敗れたとはいえ、粘りを見せました。ただ、謎の判定もあったといえ、両チーム合わせてイエローカード8枚(ホンダロック5、ゼルビア1)、レッドカード1枚(ゼルビア)。もともと、ホンダロックは、勢いあまった末のファールが多いチームという印象を持っていたのですが、この試合は“なおさら”でした。ちなみにゼルビアのレッドカードは蒲原達也(25歳=今季加入、前・鳥栖)。判定後には、“信じられない”といわんばかりの表情でした。実際、ファールのタックルを受けた後に互いに、もつれ、立ち上がろうとした際に、足の位置をずらそうとしたら、“キックになってしまった”という感じ。悪意があったとは思えません。

<得点経過>
35分 0-1(ゼ)
右BS森川宏雄(25歳=今季加入、前YKK AP,←法政大学)

44分 0-2(ゼ)
FW奨・津季22歳=今季加入、前・桐蔭横浜大学)

53分 1-2(ホ)
ボランチ南 光太=主将(29歳、前・プロフェソール宮崎)

 ホンダロックの一矢を報いた南は、06年のJFL入れ替え戦でFC岐阜に2連敗を喫して、九州リーグに降格した当時も主将でした。戸塚監督に“借りを返したい”という思いも、あったのかもしれせん。

 その後、ゼルビアはチャンスこそ作りながらも、得点には至りませんでした。とはいえ、
56分にMF酒井良(31歳、前・草津)と交代でMF山口貴之(36歳=今季加入、前。鳥栖)が出場し、何回かドリブルで好プレーを披露するなど、最後まで堪能できる試合でした。気温23,6度(公式記録より)。大会3日目にして、やっと“夏の島”らしい快適さを満喫できたことも、観戦を楽しくした要因ですが――。

<第2試合>
V・ファーレン長崎 1-0 レノファ山口

 2日目の試合後、V・ファーレン主将の原田武男(37歳、前・福岡)は「3位以内確定」に歓喜しませんでした。理由を問うと、「まだ、昇格が決まったわけじゃないし、優勝して昇格を決めたいですから」。しかし、第1試合の結果、V・ファーレンは2位が確定。モチベーションが下がったのか、試合序盤から“勝てば3位”のレノファと互角の展開に――。選手たちの指示、あるいは掛け声を聞く限り、チーム内の温度差が感じられました。

 勝っても負けても順位が変わらない状況とはいえ、試合前にはファンと選手、スタッフが円陣を組む光景を見たゆえに、“まったりした”展開が謎でした。

「ハーフタイムに選手たちに怒りました。疲れて“走れない”ならわかるが、走ろうともしない。今後、プロとしてやっていくためには、こんなようじゃダメだと――」(東川監督)

 しかし、後半に入っても、展開は大して変わりませんでした。そんな中、東川監督は70分(後半25分)に、意外な選手交代をしました。

FW福嶋 洋(26歳、前・熊本)→MF八戸(やえ)寿憲(28歳、前・三菱重工長崎、国見高校出身)

 八戸は今季リーグ戦出場0試合。昨季、取材連絡の際、クラブ・スタッフの方に「ヤエという者に声をかけてください」と言われ、裏方スタッフと勘違いしたことを思い出し、謎は深まるばかり――。

一見して、やや太め(リリースでは170cm、64kg)で、筋肉は、やや緩め。走る姿を見ると、かなり遅め。功労賞的な起用は“ありえる”ものの、だとしたら、勝利に“こわだらない”という判断をしたことになります。

 ところが、その八戸が81分(後半36分)に決勝点を決めたのですから……、驚きました。それも、“こぼれ珠”を拾ったMF竹村栄哉(34歳、前・鳥栖)からのパスを豪快かつ華麗に、ダイレクト・シュート。

「(八戸は)練習には、ほとんど参加できませんが、裏方の仕事を本当に良くやってくれます。(自分が)指導者として、いつまでできるかはわかりませんが、今、起用しないと後で絶対に後悔すると思って、メンバーに入れました」(東川監督)。

“勝負に情は禁物”という考え方はあるでしょうが、Jを目指すクラブを成長させていく過程では、稀に見る英断であり、情は絶対不可欠なのかもしれないとすら思いました。なぜなら、記録と記憶に残る「事実」が、あればあるほど、短期的なブームではなく、永遠の文化になるでしょうから。また、“チームを去っても、街に残る”選手がいた方が記憶は薄れにくいはずです。

 ちなみに、V・ファーレンは今季、チーム強化のために、練習時間を夜から昼間に変えました。Jリーグを目指す過程で、いつかは決断せざるを得ないことですが、選手は「仕事を変えるか」、「サッカーをあきらめるか」など重大な決断を迫られます。そんな過渡期ゆえに、記録と記憶に残す価値は“より”大きいと思います。

 八戸にとっては、国見高校の大先輩にあたる原田いわく「出来すぎですよね」。確かに――。元Jリーガーを含めて停滞気味のプレーに終始していたチームを救ったのが、“クラブ生え抜き”の銀行員だとは……、“サッカーの神様”は、本当に、いるのかもしれません。

 ところで、この試合、昨日に続くサプライズ(あるいは、もうひとつの“出来すぎ?”)が、ありました。“レノファ オーレ”という声援が聞こえたので、その方向を見たら……、昨日はゴール裏でレノファを応援していた子供たちが、ベンチ裏に移動して、数少ないレノファ・ファンと“合体”していたのです。そして、試合後には、選手、スタッフと一緒に記念写真撮影。レノファ関係者いわく「うちから、お願いしたのでもなければ、指導者どうしの縁があったわけでもない」とか。山口が地盤の元・首相にも、是非、見てほしいと思ったくらい、感動しました。

<写真>胴上げされる戸塚哲也”町田ゼルビア”監督

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