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Jを目指せ! by 木次成夫

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第3回 北信越リーグ1部「松本山雅FC」
by 木次成夫

 長野県はサッカー後進県のひとつです。今まで、強いクラブもなければ高校もないし、社会人サッカー選手の“受け皿”もありませんでした。現役Jリーガーでは横浜F・マリノスの田中隼磨(松本市出身)が有名ですが、彼は中学卒業後、横浜フリューゲルスユースに入るために、地元を離れました。
 松本山雅FCは1965年結成の地元アマチュアクラブ、山雅SCを母体に04年シーズンから本格的にJリーグを目指し始めたクラブです。05年シーズンは90年代前半にガンバ大阪で活躍した辛島啓珠氏を監督に招聘した他、地味ながらも積極的に選手を補強して、見事2部優勝。06年シーズンは北信越1部2位でした。1位のJAPANサッカーカレッジとの勝ち点差は、わずかに1。“最短でJFLまで上りつめたい”と考えている関係者やファンは残念だったでしょうが、県内随一の強豪で05年リーグ王者である「長野エルザ」(現・長野パルセイロ=PARCEIRO=ポルトガル語で”パートナー“という意味。06年1部3位)を上回った点で“上々”と言ってよいのではないでしょうか。また、長野県代表として出場した天皇杯では1回戦で同志社大学をPK戦の末に破って2回戦に進出。九州リーグ(06年2位)の新日鐵大分に1-2で敗れましたが、クラブとしてレベルアップしていることを証明しました。ホームで開催された天皇杯1回戦は有料にもかかわらず、約1600人の観衆がスタジアムに集まりました。たいした数ではないと思うかもしれませんが、同大会の1回戦全試合の中で、最多です。
 松本山雅FCのホームスタジアム、“アルウィン”(アルプスと、風=ウインドを組み合わせた造語)は2002年W杯出場国のキャンプ地招致の際、建設され、パラグアイが利用しました。約2万人収容のサッカー専用スタジアムで、スタンドからの見やすさは抜群です。例えば、陸上競技用トラックがあり、選手が“かなり”遠くに見える新横浜のスタジアムとは比較になりません。“松本からJリーグクラブを”という運動は、「せっかく作ったスタジアムを使わないのはもったいない」、「スタジアムがなくて困っているクラブがあることを考えれば、松本にはチャンスがある」という考えもあったようです。日本各地にはW杯以後、有効に活用されていないスタジアムあるいは施設が多々ありますから、チャンスを生かしている関係者の皆さんは偉いと思います。ただ、元Jリーガー(昨季は元ヴァンフォーレ甲府の白尾秀人選手らが活躍)を集めるなど、短期的に結果を求めすぎているという印象もあります。チーム強化は大事ですし、出番に恵まれなかったJリーガーにチャンスが生まれることも素晴らしいことです。でも、訪れる度に、“松本らしさ”って何だろうかと考えてしまいます。松本に限りませんが、日本の地方都市の多くは、町を歩けば全国的なチェーン店ばかり。“今度はこんなチェーンができたのか”と気づくことは多々あります。せっかく、半分旅行気分で訪れても、松本ならではの魅力をあまり感じません。
 また、松本山雅FCに対する自治体の支援もまだまだです。例えば、メインの商店街にクラブの旗がたなびいている……なんてことはありません。クラブのグッズを売っている店もありません。つまり、“サッカークラブのある町”という雰囲気がまるでないのです。
 逆の例をあげるなら、第一回で扱ったファジアーノ岡山は岡山駅近くのショッピングセンターに“ファジアーノ岡山フットサルパーク”を先頃オープンしました。サッカーに興味のない人への宣伝効果は絶大だと思います。
 そんなわけで、松本山雅FCには、スポンサーの方々を含めて、焦らず、長い目で頑張ってほしいです。数年後あるいは10年後に、下部組織で育った選手がトップチームで活躍して、”J昇格を決める“なんてことになれば、その時、田中隼磨が山雅でプレーしていれば……最高だと思うのですが。

<写真>飲食店のドアに張ってあった、クラブのポスター。市内中心部を1時間以上歩いたが、山雅FC関係ものは、この店一軒だけしか発見できなかった。

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(文・木次成夫)

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