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Jを目指せ! by 木次成夫

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第6回 JFL「FC岐阜」
by 木次成夫

 日本全国の「Jを目指すクラブ」の中で、最も勢いのあるクラブではないでしょうか。発足は2001年。歴史は浅いですが、名古屋グランパスなどでプレーした元・日本代表FW森山泰行(37歳・写真)が04年暮れに加入して以降、「Jを目指す」動きが活発化。昨季は小島宏美(29歳、前・神戸)、吉田康弘(37歳、元・鹿島など)らJリーガーを獲得して昇格1年目で東海リーグ1部初優勝を飾りました。その後の地域リーグ決勝大会ではTDK(秋田)に次ぐ2位でしたが、JFL入れ替え戦でホンダロック(宮崎)に圧勝して、JFL昇格決定。今季はGMに今西和男氏が就任するなど「企業クラブ」としての地盤作りも着々と進めています。  
 一見、資金力で“全盛期を過ぎた選手”を集めて、一気にJリーグ入りを目指しているように思うかもしれませんが、かなり違います。岐阜県サッカー関係者の“才能の受け皿”としてのクラブを作りたいという悲願に、地元出身の森山泰行が賛同して今に至っているわけです。いわば岐阜県稀代のスターである森山と、その周囲の人々の集大成といった感じです。

 森山は地元岐阜市出身ですが、高校は帝京高校です。その後、順天堂大学を経て名古屋グランパス入り。スロベニアリーグのヒット・ゴリツァなど外国の「小クラブ」でプレーしたこともあります。親元を離れて下宿生活をした高校時代、プロとして経験した「Jリーグ・バブルとバブル崩壊」など、彼のサッカー人生すべてがFC岐阜で生きている気がします。昨年、JFL入れ替え戦で勝利した後、森山はスタンドを埋めたファンへの挨拶で「なにか良いことないかなと思って……」と切り出し、言葉につまりました。続けて「子供たちの夢になるような」という出足で、JFL昇格決定までの思いを語りました。政治家の答弁などとは違い、説得力がありました。
 経験に裏づけされた人徳といえば良いのでしょうか、FC岐阜は森山との“つながり”で加入したメンバーも多いです。例えば同級生の吉田は高校時代(東海大一高=現・東海大翔洋)に対戦して以来のつきあいで、DF小峯隆幸は順天堂大学の後輩。GMの今西一男氏は、かつて森山が所属したサンフレッチェ広島出身です。昨季は岐阜工業出身のFW片桐淳至(23歳、元・名古屋など)をはじめ、MF北村隆二(25歳、前・名古屋)、高木和正(22歳、前・山形)ら、“Jリーグ挫折経験”選手たちが大活躍しました。現役時代は読売クラブの天才MFで「個性を生かすサッカー」が信条の戸塚監督の手腕もさることながら、“コワモテ”で知られる森山の影響もあるのかもしれません。
 ちなみに、FC岐阜には森山主導の「茶髪(金髪など染髪)、長髪、ピアス、刺青(タトウー)禁止」という規則があります。森山いわく「悪いとは思わないが、保守的な岐阜の人たちの先入観などを考えて決めた」とのこと。“子供たちに夢を”と口にしている森山らしいと思います。もし、学校で禁止されているにも関わらず子供たちが真似をしたら……ということも危惧したのでしょう。昔は不良だったと評判の片桐選手もオフシーズンに一時的に伸ばした髪を、先頃、切りました。

 JFLに向けて、あえて懸念材料をあげるとすれば、まず昨年の地域リーグ決勝大会からJFL入れ替え戦まで短期レンタルで活躍したFW池元友樹(現・柏)の穴をどう埋めるか。森山いわく「和多田(充寿=元・神戸など)も入ったし、俺もいるし」。確かに……。昨年のJFL入れ替え戦で、片桐のクロスに合わせて森山がゴールをしたプレーを見て感動したことを忘れていました。森山のゴールエリア内で“合わせる”センスは錆び付いていませんでした。また、地元出身の新旧スター(年齢差14歳)コンビが演出したゴールという点でも感動しました。
 とすれば、サイドアタッカーの高木が骨折中で開幕に間に合わない点が目下の大問題でしょうか。大ベテランの吉田らが長期に渡るシーズンを戦っていけるかどうかも心配です。そんなわけで、3月18日のJFL開幕までのプレシーズンマッチ、まずは25日予定の松本山雅FC(北信越リーグ)との対戦は注目です。山雅も選手強化に積極的ですから。また、首相はじめ日本政府の偉い方々にも「地方活性化」と「再チャレンジ」を目指す見本として、是非、岐阜を訪れてほしいものです。最近は公務員の裏金問題が話題ですが、「夢のある岐阜」もあります。

<写真説明>昨年12月、ホンダロックとのJFL入れ替え戦(第2戦)での森山泰行

(文・木次成夫)

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